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AI時代におけるテックスカウティング、顕著に高まる「生情報」の価値

作成者: 中村快大|Jul 28, 2026, 2:49:01 PM

今、欧州におけるテックスカウティングは、「どれだけ新しい技術の情報を集めるか」ではなく、「どれだけ事業化・収益化につながる情報を把握できるか」を焦点に、その後の事業成功に結びつけるための「事業開発インフラ」に変化しつつあります。(中村快大:ロンドン拠点、ビジネス・デベロップメント・エグゼキュティブ)

変わりつつあるイノベーション事業

私が主に自動車、鉄道、保険など幅広い業界の日本企業に対して、欧州での事業開発支援を行う中で、欧州におけるテックスカウティング(技術探索)のあり方に少しずつ変化が生まれていると感じています。

近年、生成AIの進化によって、企業のテックスカウティングのあり方は大きく変化しています。かつては、海外スタートアップや先端技術に関する情報へアクセスできること自体が一部企業の優位性でした。しかし現在では、ChatGPTをはじめとする生成AIの普及によって、世界中の技術情報や企業情報へ短時間でアクセスできる時代になっています。

その結果、「情報を集めること」自体の価値は相対的に低下しつつあります。

一方で、最終的に新規事業創出と利益創出に繋がる情報収集、つまり、どの技術が将来的に市場化するのか、どこに新たな利益機会が生まれるのかを見極める重要性は、これまで以上に高まっています

 

新たなテックスカウティングの役割

欧州では、クライメートテック、ディープテック、ヘルスケアなど次世代産業領域における技術進化、さらに大学・政府・VC・スタートアップ間の強い連携により、技術の社会実装までのスピードが速い点を特徴に、新たな技術トレンド・事業機会が次々に生まれていることから、多くの日本企業が欧州をテックスカウティングの目的地としています。

そして、これらの日本企業にとって、テックスカウティングは単なる「技術調査」ではなくなりつつあります。どの技術領域に投資するべきか、どの市場へ参入するべきか、どの企業と提携するべきか。自社技術をどの産業に展開するべきか。こうした経営判断を支える基盤として、その役割は年々大きくなっています。

特に近年は、弊社が支援するテックスカウティング・プロジェクトでも同様のシフトがよく見受けられ、その結果が新規事業立ち上げ、投資判断、アライアンス戦略、さらには中長期の事業ポートフォリオ設計にも直接影響するケースが増えています。

つまりテックスカウティングは、未来を調査する活動ではなく、将来の市場変化を先回りし、新たな利益機会を生み出すための「事業開発インフラ」へと変化しつつあるのです。

 

オンラインとAIがもたらす情報リスク

そんな中、生成AIの登場によって、海外スタートアップのリストアップ、市場マップの整理、技術領域の概観把握をはじめとするテックスカウティングの初期探索は劇的に効率化されました。

その一方で、実際に価値のある情報を提供するという点では、オンライン情報には限界があります。

多くの場合、オンライン上で取得できる情報は「表面的な情報」に偏りやすく、各企業の実態や技術の成熟度、現場での評価、将来性までを正確に把握することは困難です。また、AIによって整理された情報を見ることで、「理解した気になる」リスクも増えています。

加えて、欧州では政策支援や補助金の影響によって、市場形成のスピードが大きく変化することも少なくありません。そのため、公開情報だけを見ていると有望に見える技術でも、現地では既に期待値が下がっているケースや、逆にまだ注目されていないものの急速に事業化が進み始めているケースさえ存在しています。

 

成功へのアプローチ①「生情報」

このような環境の中で日本企業がテックスカウティングを通じた成果を得るには、正確な情報を根拠として、将来的に利益をもたらすことができる技術を特定することです。

つまり、近年のテックスカウティングでは「どれだけ情報を集めるか」ではなく、「どれだけ事業化・収益化につながる情報を正確に把握できるか」が最も肝心な鍵となっています。

その上で、現地で得られる「生情報」の価値が今まで以上に高まっています。

実際に展示会や現地での対話では、投資家からのリアルな評価、顧客ニーズの有無、正確な事業フェーズや熱量を肌感覚で把握することができる上、競合企業の動き、各企業が直面し、解決しようとしている課題や、直近の顧客獲得状況と展望、さらに今後の市場開拓戦略といったより深い解像度の情報が見えてきます。

しかし、実際に価値ある情報を集めるためにどのような展示会やイベントに参加するべきか、またどのような業界関係者から直接情報を得るべきか、さらに実際にどのように彼らへコンタクトをとり、適切なディスカッションを行なっていくか、という点は大きな課題です。特に出張やイベント参加に必要とされる高コストと長時間のコミットメントを考慮すると、欧州在、日本在に関わらず、いかに効率的に、高い費用対効果を維持しながら、これらの課題解決を実行していくかは困難を極めます。

さらに、欧州でテックスカウティングを実施する上では、欧州エコシステムそのものの複雑さも大きな課題となります。欧州は一つの市場として捉えられることが多い一方で、実際には国や地域ごとに産業構造、スタートアップ集積、投資環境、規制動向が大きく異なります。同じテクノロジー領域であっても、有力なスタートアップや投資家、研究機関が集まる地域は異なり、どの国・都市・コミュニティにアクセスすべきかによって得られる情報の質や量も大きく変わります。そのため、限られた時間と予算の中で、どこで、誰から、どのような情報を収集すべきかを見極めること自体、容易なものではありません。

結果として、多くの企業は特定の展示会やイベントへの参加に留まり、市場全体の動向や重要なプレイヤーを十分に把握できないまま意思決定を行うケースも少なくありません。

欧州において効果的なテックスカウティングを実現するためには、これらの課題を念頭におき、各地域のエコシステム特性を理解した上での活動計画やターゲティングを行うこと、そして「生の声」を聞くべき相手に確実につながるためのルートを構築することが不可欠です。

 

成功へのアプローチ②継続的な情報収集がもたらす正確性

さらに、生の情報を集める上で忘れてはいけないのは、継続的にアンテナを張り続けることです。技術トレンド、投資動向、市場ニーズは常に変化しています。特に欧州のスタートアップエコシステムでは、数ヶ月単位で市場の注目領域が変わることも珍しくありません。そのため、一度市場調査をして終わりではなく、継続的に現地との接点を持ち、情報をアップデートし続けることが重要になります。

継続的な情報接点を持つ企業ほど、新たな事業機会や市場変化の兆候を早期に察知し、投資判断や事業開発において大きな優位性を持つことになります。なぜなら、実際の市場変化は、レポートやニュースとして表面化するよりも前に現れるからです。

例えば、特定領域への投資案件が急増している、複数のスタートアップが同じ課題解決に取り組み始めている、大企業がPoCや提携を積極化しているといった動きは、市場形成の初期シグナルとなります。こうした初期シグナルを長期的に観測することで、他社よりも深い市場理解を獲得し、その成長性を早く見極めることが可能になります。

また、継続的な情報収集によって、個別の技術や企業を点で評価するのではなく、市場全体の変化を時系列で捉えることができます。その結果、単発の話題性や一時的なブームに左右されない、より正確な判断に繋がります。

外部組織との連携を通じた継続的な情報収集の中でよくあるパターンとして、地域特化型の組織(地域の経済開発機関、アクセラレーター、インキュベーター)や、産業特化型の投資家(VC)などと連携するケースも多く見られます。彼らの専門的な知識とコネクションは確かに日本企業にとっても有意義なものとなるでしょう。とはいえ、やはりその専門性や利害関係の有無により、知らない間に得られる情報に偏りが生まれているということもあり得ます。「事業開発インフラ」としての重要な役割を果たすステージだからこそ、自身で集めた情報に加え、欧州全体、そしてあらゆる業界に精通する第三者からの客観的な事実の把握やボトルネックの特定、さらにインプットが今まで以上に肝心なものとなるでしょう。

 

AI時代における事業開発インフラの重要性

AIによって情報アクセスそのものが容易になった時代だからこそ、企業間の差は「情報量」ではなく、いかに正確な情報をもとに「事業開発インフラ」を継続的に構築し、その情報を単なる知見として終わらせず、実際の「事業機会」へと変換することにあります。

またAIの登場は、情報収集をはじめ、あらゆる部分でさまざまな業務に追われる日本企業の業務効率化に貢献しています。しかし、そこに潜む「表面的な情報に限られる」というリスクはテックスカウティングでも同様であることを忘れてはなりません。

今後、さらなるAIの発展を見据えても、このダイナミックな欧州市場で自身で実際に足を運び、直接対談を行うこと、さらに業界や地域に限られない、幅広い知見を持つローカルパートナーからの客観的な意見を活用することができる日本企業が、違いを生む、将来的な成長をもたらすテックスカウティングに繋げていくことができるでしょう。