人工知能(AI)は実験段階から実社会への導入へと急速に移行していますが、インドほどの規模とスピードでこの動きが見られる市場はごくわずかです。
本稿では、弊社インド事業の責任者であるジェイ・マリックが、インド発スタートアップとの継続的な取り組みをもとに、なぜ同国がAIシステムの構築、検証、そして拡大において極めて重要な環境として台頭しつつあるのかを探ります。
AIがそれに伴うリスクや不確実性への懸念とともに、驚くべき効率性と恩恵をもたらし、私たちの世界を急速に再構築していることは明らかです。多くの市場が依然としてAIの可能性について議論している一方で、インドはすでにその導入に本格的に取り組んでいます。
この変化は政策や投資の面だけでなく、国内全土の起業家、企業、テクノロジーリーダーたちとの日々の会話の中でもよく見受けられます。
この動きは、今年初めにニューデリーで開催された「AI Impact Summit」でも反映されていました。同サミットでは、BRICS商工会議所女性エンパワーメント部門の会長であるルビー・シンハ氏が登壇し、インドが「驚き(wow)の段階」、そして「方法(how)の段階」を経て、いかにして確実に「実行と成果(execution and impact)の段階」に到達したかについて語りました。
この変革は、次世代のAI製品の設計、構築、テスト、そしてスケールアップを計画・検討している日本企業にとっても、特に魅力的なものです。インドはもはや、単にエンジニアの採用や開発のアウトソーシングに活用する場所ではありません。むしろ、AIシステムを開発、導入、さらに大規模に実証できる市場として、その存在感を高めています。
1990年代から2000年代にかけて、Infosys、Tata Consultancy ServicesやWiproといった企業が、インドを「世界的なITサービス拠点」からさらに発展させました。これらの世界最大規模の企業運営にインドの人材を組み込み、複雑な企業システムの中で業務を遂行することに長けたエンジニアの豊富な人材プールを築き上げたのです。構築には数十年を要し、その基盤は一夜にしてできたものではありません。
つまり、AIが本格的な産業勢力として台頭した時点で、インドには迅速な展開に必要な具体的な要素――人材基盤、実行力、そして組織的な関係――がすでに備わっていたのです。しかし、次の課題は、この強固な基盤をさらに発展させることです。
デリー工科大学のマナン・スリ教授は最近、この点を強調し、インドが従来のAIサービスプロバイダーという役割から、AIのOEMへと移行しつつあると指摘しました。
インドにおけるAIに関する議論が、いかに実践的なものになっているかに驚かされます。製造業、農業、金融サービス、医療のいずれを見ても、AIのロードマップではなく、すでに大規模に稼働しているシステムが多く見られます。
インドの身分証明システム「Aadhaar」や決済ネットワーク「UPI」は、その好例であり、これらが生成する実世界のデータは、全国規模での融資拡大、サービスのパーソナライズ、物流の最適化に活用されています。
一方で、物理的なインフラは追いつきつつも、依然として課題が残っています。
Cisco Systems Indiaのマネージング・ディレクター、ハリッシュ・クリシュナン氏が最近指摘したように、「インドは世界のデータの約20%を生み出しているにもかかわらず、データセンターの容量はわずか4%程度しかありません」。
しかし、このギャップを埋めるため、着実に資本が流入し、政府もハイパースケーラーによる投資をさらに加速させるべく、主要な税制上の障壁を撤廃しました。
Hewlett Packard Enterprise(HPE)IndiaのCTOであるランガナート・サダシヴァ氏が「実験段階から加速段階への移行」と呼ぶ動きの一環として、私もまた、既存企業と連携してインドに特化したイノベーションを導入する新世代のスタートアップを目の当たりにしています。その対象は、英語を話さない人々向けの音声インフラから、独自の言語モデル、さらには農民が地元方言で情報を得られるようにする農業アドバイザリーツールまで多岐にわたります。
こうした背景から、日本企業を含むAI事業に取り組むグローバル企業にとって、インドは大きな魅力を持ち合わせています。
その理由の一つは、他に類を見ないテスト環境が整っている点にあります。私の見解では、インドの文化的多様性、インフラの制約、そしてその膨大な規模という条件を乗り越えて機能するソリューションこそが、世界中で通用するものとなるでしょう。
また、インドは技術を一気に全国規模で展開できることを実証しています。先日のAI Impact Summitでは、Yotta Data ServicesのCEOであるスニル・グプタ氏が、インドのAIエコシステムがいかに急速に進化してきたかを振り返り、その規模と進歩のスピードは、ほんの数年前には想像もできなかっただろうと述べました。
同氏は、国内のコンピューティングインフラの急速な整備や、国産AIモデルの台頭を、この変化の証拠として挙げた上で、「スタック全体を通じて、インドは大きな進歩を遂げた」と総括しています。
現在、インドでは15歳から29歳までの世界最大の人口層が、積極的にAIの導入に取り組んでいます。迅速かつ経済的な問題解決への意欲は依然として高いままです。そして、インドのスタートアップは実験を恐れません。
こうした実践的な取り組みが、世界的に競争力のある起業家を生み出し、さらに今や彼らが成功するための資金調達環境の整備もここまで進んでいるのです。
実際には、AIシステムの拡張は、技術的な課題というよりも、むしろインフラの問題であることが多いですが、急速に進化する市場を支えるため、インド政府はAIプログラムや半導体開発に多額の投資を行っています。
例えば、「IndiaAI Mission」を通じて、かつてはインドの開発者にとってほとんど利用できなかったGPUインフラが、現在では「IndiaAI Compute」などの政府主導の取り組みを通じて利用可能になっています。これにより、スタートアップ、研究者、企業がGPUインフラを共有できるようになり、国内でのモデル開発の拡大を後押ししています。また、最近の連邦予算では「IndiaAI Mission」に1億ドルの追加予算が計上され、エコシステム全体の開発の中で、クラウドやデータセンターへのさらなる投資の加速が期待されます。
インフラ整備と並行して、政策立案者たちは、責任あるAI導入がもたらす広範な影響についても取り組んでいます。
IBM Indiaの執行役員であるキショア・バラジ氏は最近、次のように述べました。「AIは継続的な教育の限界を押し広げ、私たちが知る生計、雇用、収入のあり方に挑戦を突きつけています。」しかし、「この未来に向けて労働力を育成するためには、強力な官民パートナーシップと大規模なスキル構築プログラムが必要である」とも付け加えています。
これをインドのより大きな野心の中に位置づけ、同氏は「グローバルな枠組みとの整合性を確保することは、『インドのためのインド』を築くだけでなく、『世界のためのインド』を築くことにもつながるでしょう。」と結論づけています。
サービスの購入者ではなく、パートナーとして早期に関与しようとするグローバル企業にとって、今ほどの好機はありません。現地で私が目にする限り、今こそインドが主となるAIの時代なのです。
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