原子力技術の専門知識を持つ、さらに同分野での事業拡大を図る日本企業にとって、東南アジアは最も有望な市場です。
域内各国政府は、原子力政策の見直しと実現可能性に関する検証を行うと同時に、その導入に向けて各企業との協議を進めています。
そんな中、すでに複数の国が理論的な議論から脱却し、年代初頭のパイロット導入に向けた具体的な第一歩を踏み出しています。これは海外企業、特に小型モジュール炉に注力する企業にとって、調達や開発が始まる前にエネルギー政策の構築に関与し、先駆者優位性を獲得する稀な機会を作り出しています。
本稿では、東南アジア全域で原子力エネルギーへの関心が再燃している背景、最も勢いのある地域、海外企業にとっての参入意義、そしてこの複雑で高度に規制された分野で成功するために必要な要素について解説します。
工業化、都市化、デジタル化の進展により、電力網が限界に追い込まれ、同地域全体で電力需要が急増しています。
各国政府はそのような状況下で、経済拡大を支えるための安定供給を確保しつつ、自国の気候目標達成に向けた排出削減も進めねばならない、という相反する二つの圧力に直面しています。大半の国は依然として輸入石炭やガスに大きく依存しており、この依存によるコスト増とネットゼロ戦略との矛盾が問題視されています。
長期的な安定性とよりクリーンな電源を求める製造業、データセンター、工業施設などの民間企業も同様の懸念を持ち、多くの企業が政府に対し、気候変動対策と電力供給における信頼性を両立させる代替案を求め始めています。
そして原子力発電、特に小型モジュール炉(SMR)が有力な選択肢として再び議論の場に浮上しています。
SMRは、柔軟性と初期費用の低減を目的に設計された次世代のコンパクトな原子力発電システムです。これにより、政府は巨大な発電所を1基建設する代わりに、段階的に小型ユニットを導入することができるようになります。
これは東南アジア諸国など、比較的小規模な送電網や孤立地域を抱え、大規模な原子炉の建設が困難な国々のニーズに合致しています。
またSMRは、炭素排出ゼロで安定したベースロード電力も供給することから、国家のエネルギー安全保障目標とも密接に合致します。単体の200MW原子炉でも、大量の輸入化石燃料の代替と、予測可能な長期コストによる運営を実現します。
現時点で確固たる調達契約は結ばれていないものの、東南アジア各国はSMR導入に向けて具体的な前進を遂げており、1基またはクラスターあたり50~300MW規模のパイロット導入を検証中です。
最も早い導入は2030年代初頭と予測されています。成功すれば、規制の進展、資金調達、コスト競争力、国家エネルギー戦略に応じて、数百メガワット規模まで拡大する可能性もあることから、すでに原子力技術に注力するカナダ、米国、韓国、英国は既に、この地域における基盤整備、実現可能性に関する協議、技術研究パートナーシップを推進しています。
シンガポールは長年、地域の電力輸入とガス火力発電に依存してきました。しかしエネルギーコストの上昇と脱炭素化の目標が、原子力発電という選択肢の見直しを検討するきっかけとなっています。
昨年9月シンガポールのエネルギー市場庁は、水冷式SMRや第4世代原子炉設計など、新たな冷却システムや燃料を用いる先進的原子力技術に関する調査実施パートナーに、英国のエンジニアリング企業Mott MacDonaldを任命しました。この2年間の取り組みでは、安全性の評価、技術的成熟度、商業化準備状況を検討し、同国の将来のエネルギー政策決定に資する情報を提供する予定です。
インドネシアは長年、原子力発電の選択肢を検討してきた経緯を持ち、現在は立地選定、規制体制の整備、資金調達モデルの評価を進めています。
予備実現可能性調査を実施した後、昨年3月には国内企業のPT Thorcon Powerが、先進的な溶融塩炉技術に基づく発電所建設の認可手続きを開始しています。エネルギー当局も、2032年から33年頃に第1号機を導入する計画を公に議論しており、国立研究革新庁は、国内産業需要に向けたクリーン水素生産支援と同時に、電力生産に向けた第4世代原子炉の開発を進めています。
一方、フィリピンは開発を急速に進めています。
エネルギー省と国家電化管理局は関連調査、国際的な供給業者との協議、さらに規制概念の策定準備を実施しています。そして、原子力導入の準備は今や国家エネルギー計画の中核要素となっており、同国はエネルギー構成の多様化を図る包括的計画の一環として、2032年頃に初の原子力発電設備を稼働させることを目指しています。
ベトナムは、以前の大規模な原子力計画を中断したものの、SMRに関する研究と国際原子力機関(IAEA)との協力を通じて再び取り組みを再開しています。
長期的な電力システムの想定によると、石炭の段階的廃止に伴い原子力発電が必要となる見込みで、国内初の原子力発電設備(SMRの可能性あり)は2030年代初頭に導入される予定です。
マレーシアとタイは、政策の見直し、基盤整備プログラム、国際機関による初期段階の支援を通じて、慎重である一方で、着実に前進しています。
両国とも原子力を長期的なエネルギー多様化の構成要素と見なしており、マレーシアは2035年までにSMRの導入を目指す一方、タイの国家計画草案では2037年までに初期600メガワットのSMR容量を想定し、2050年までに3ギガワットへ拡大する見込みです。
地域レベルでも、ASEANフォーラムで調和された整備フレームワークが議論されています。IAEAは訓練・規制・安全協力の支援を継続しており、これらの動きは単なる探求的な主張ではなく、確かな意欲を示しています。
東南アジア全域で、各国政府は初期規制概念の策定、国家原子力機関の体制強化、安全研究所の設備向上、国際機関との研究提携構築をはじめとする初期段階の基盤整備に投資しています。
一部の国では、潜在的な立地候補地の選定や系統連系要件の検討も始まっています。
しかし現在、ASEAN加盟国で海外との広範な協力なしにSMRを導入できる技術的・規制的・産業的能力を完全に有する国はありません。これは国際的なエンジニアリング・技術企業にとって明らかなビジネスチャンスを生み出しています
より具体的には、この地域は以下の分野において外部からの専門知識と支援を必要としています。
エンジニアリングと原子炉技術:東南アジアの企業は、まだ原子炉部品や格納容器システムを製造できず、実績のある設計を持つ海外サプライヤーが不可欠です。
規制整備:ASEANの規制当局の多くが原子力導入の初期段階にあり、認可モデル、品質保証、環境評価、長期廃棄物管理に関する指針を必要としていることから、原子力規制をゼロから構築した経験を持つパートナーを求めています。
安全システムとデジタル技術:高度な監視ツール、予知保全システム、緊急対応技術、サイバーセキュリティソリューションへの関心が高まっています。
人材育成:技能格差が顕著であり、原子炉運営、安全文化、原子力プロジェクト管理の研修プログラムは、パイロット導入を準備する政府にとって最優先事項です。
資金調達とプロジェクト設計:原子力資金調達は複雑で、この地域には馴染みが薄いものです。そのため、政府間パートナーシップや官民モデルを含む長期プロジェクトの構築経験を持つ国際企業は高く評価されると想定されます。
したがって、関連するエンジニアリング、先進的な製造技術、デジタル安全システム、規制に関する専門知識を持つ企業にとって、東南アジアは急速に戦略的市場となりつつあります。
また部品やシステムの輸出、規制に関するアドバイザリーサービスの提供、研修プログラムの実施、実現可能性調査の支援など、大きな機会が存在します。さらに各国政府は、実証データの提供、安全ケースの支援、SMRが現地の電力系統内でどのように機能するかを示す統合研究など、初期段階のプロジェクトのリスク軽減を支援できるパートナーを求めています。
加えて、単純な技術輸出を超えた協業モデルにも検討の余地があり、電力会社との合弁事業、特定原子炉モジュールのライセンス提携、長期サービス契約、政府間枠組みなどが議論されています。
原子力分野における長年の経験とノウハウ、特に精密な製造技術や高度な品質管理における強みを持つ日本企業だからこそ、早期に東南アジア参市場に参入し、専門知識を提供することで、現地モデルの発展を形作り、自らを「原子力導入における信頼できるパートナー」と効果的に位置付けながら、現地での事業展開・成功に結びつけることができるでしょう。
しかし、明らかな機会が存在するにもかかわらず、東南アジアの原子力市場への参入は容易ではありません。
原子力は、世界で最も規制の厳しい分野の一つです。認可プロセスはまだ発展途上にあり、成熟するには時間を要します。各国が最初の規制策定プロセスを完了するまでは、規制面での不確実性が残るでしょう。
政治的な変化も進捗を遅らせる要因となり得ます。新政権がスケジュールを見直したり、優先順位を変更したりする可能性があるためです。したがって、企業は長期にわたる関与サイクルに備え、各省庁、規制当局、電力会社との幅広い関係を維持すべきです。
資金調達も大きな障壁となり得ます。ASEAN諸国の多くは原子力プロジェクト・ファイナンスの経験が乏しいため、企業は現実的で銀行融資が可能なモデルを提案し、輸出信用機関と緊密に連携する準備が必要です。
さらに文化面と能力面の課題がさらに重なります。研修ニーズが高く、安全文化もゼロから構築しなければならないことから、単発的な販売ではなく、長期的なパートナーシップに投資する企業が信頼と影響力を獲得するでしょう。
しかし、これらの課題は決して乗り越えられないものではありません。
明確な市場参入計画、強力な現地連携、そして安全性と透明性への取り組みがあれば、日本企業も東南アジアにおける次の主要なエネルギー転換において中心的な役割を担うことができるでしょう。
東南アジアにおける原子力技術や、同地域における弊社サービスに関するお問い合わせは、こちらからお気兼ねなくご連絡ください。