ブログ

SWITCH 2025 シンガポール総括レポート〜ディープテックと国際連携が主役となった10周年記念回〜

作成者: 細井武蔵|Nov 10, 2025 12:55:59 PM

記念すべき10回目の開催を迎えたSingapore Week of Innovation & TechnologySWITCH2025 が、今年も20251029日から3日間にわたり、シンガポールのマリーナ・ベイ・サンズで開催されました。

Powering Innovation, Creating Our Future(イノベーションで未来を創る)」をテーマとした今回は、AI、量子、健康・ライフサイエンス、サステナビリティなどに焦点が当てられ、400社を超える出展者と30以上の国際パビリオンとともに、シンガポールが「ディープテックハブ」であることを明確化する機会となりました。

本イベントには、弊社からもシンガポールを拠点とする細井武蔵と、日本で事業開発を担当する内山七海が参加してきました。本稿では、この2名が、SWITCH 2025のハイライトをお届けします。

 

  1. 展示・出展のハイライト

展示フロアではディープテック領域のスタートアップや研究成果に焦点が当てられた中、出展の約半数を占めたシンガポール企業に加え、海外からも日本、韓国、台湾、中国、スペイン、ブラジルからの参加企業も多くみられ、広範な技術交流が見られました。

特に印象的だった各国・地域のパビリオンは、

  • 日本パビリオン 🇯🇵:JETROや名古屋の支援機関が主導し、東京・京都・沖縄などから約30社が出展
  • 韓国パビリオン 🇰🇷K-Startup Pavilion:中小ベンチャー企業部および KISED が主催し、AI・バイオ・グリーンテック関連企業が多数出展
  • Startup Island Taiwan 🇹🇼:政府支援の28社が参加し、AI・半導体・スマートシティ関連技術を披露
  • 地元大学パビリオン 🇸🇬:シンガポール・ポリテクニックなどが学生起業チームを紹介

その中でも、展示の重点領域は以下の四つに集約されていました。

  1. Health & Biomedical(健康・医療) 
  2. Quantum Technologies(量子技術) 
  3. AI & Robotics(人工知能とロボティクス) 
  4. AI for Materials(新素材とAI応用)

 

  1. 主な発表・パートナーシップ

開会スピーチに登壇したシンガポール副首相の Gan Kim Yong 氏は、複数の新施策を発表しました。いずれも研究開発から事業化までを一気通貫で支援する設計で、ディープテックへの国家的コミットメントを強く示しました。

  • Microsoft × NUS Enterprise × EnterpriseSGAI Accelerate」拡張:今後3年間で最大150社の AI スタートアップを支援し、Azure の技術支援や Startup SG Tech 助成へのアクセスを提供🚀
  • NTU × Activate Global Fellowship:総額1,200万シンガポールドルで40名(20組)の科学起業家を支援。SWITCH 会場で MoU を締結📝
  • JAPFAAI & Quantum Computing CoE」設立:EnterpriseSG と EDB の支援を受け、SIT やNanyang Polytechnic と共同で、農業・食品分野での AI と量子技術の実装を推進🌾
  • EnterpriseSG × インド Medanta 病院グループ MoU:シンガポールのヘルステック企業がインド市場で実証できる環境を整備🏥
  • Breakthrough Energy Fellows Southeast Asia:高効率冷却塗料や再資源化技術など、クライメートテックの地域支援を継続♻️

 

これらの動きから、産官学と大手テック企業が一体となって先端技術の社会実装を進める姿勢が明確になりました。研究成果を迅速に実証・事業化する“サンドボックスとしてのシンガポール”が一段と進化し、グローバル市場での検証と収益化の仕組みが着実に整ってきたように感じます。

 

  1. SLINGSHOT 2025(スタートアップ・ピッチ)

世界150カ国・6,800社超が参加するアジア最大級のスタートアップ・ピッチ「SLINGSHOT」が開催され、SWITCH期間中にはそのうち上位60社が優勝をかけたピッチを行いました。

  • 🏆 優勝:Goldilock Secure(英国・オランダ)— 物理的ネットワーク遮断型のサイバー防御技術を提案しました。
  • 🥈 準優勝:Loop Diagnostics(スペイン)— 敗血症の早期検知技術を提示しました。
  • 🥉 3:NalaGenetics(シンガポール)— 遺伝子データを活用した個別化医療を展開しました。

上位進出企業に共通した特徴は、技術の完成度のみならず「事業の実行可能性」と「国際適用力」を明確に示した点でした。特に、

  • ASEAN 圏での実証や導入実績をエビデンスとして提示
  • 早期に現地パートナーを確保し、協業計画と社会実装までの道筋を提示

日本勢は研究起点・大学発の企業が中心でしたが、残念ながら上位進出には至りませんでした。英語での質疑応答を含むコミュニケーション面は、依然として克服すべき課題となるようです。

 

  1. ネットワーキングと国際連携

SWITCH は展示会だけでなく、サイドイベントも非常に充実しています。

  • 日本 🇯🇵:JETRO や JSIP といった組織を中心に、MBSやOne&Co で多数のネットワーキングイベントが開催され、オールジャパンでの共創に向けた姿勢が明確でした。
  • 韓国 🇰🇷:KISED/K-Startup Center/KOCCA によるパビリオン展示と「K-Startup Night」での交流が活発でした。
  • 台湾 🇹🇼:Startup Island Taiwan が政府支援のパビリオンとして存在感を示しました。
  • カナダ 🇨🇦:在シンガポール・カナダ高等弁務官事務所や APF Canada がパネルや交流セッションに参加しました。

 

特に日本関連のサイドイベントには、企業・大学・自治体が幅広く参加し、All Japanとして世界に向けて信頼できるパートナーとしてのメッセージを発信していました。

 

  1. 今後の展望:東南アジアのイノベーション動向

2025年の SWITCH は、シンガポールの「ファイナンス・ハブからディープテック・ハブへ」という方針を明確化する機会となりました。研究→応用→事業化(R2C:Research to Commercialisation)を国家として一貫支援する体制が確立し、ASEAN域内でも突出した成果につながっています。司令塔である通商産業省(MTI)の方針のもと、EnterpriseSG(起業支援・共投資)/EDB(産業誘致・成長資本)/A*STAR(国家研究機構)が シンガポール国立大学(NUS)・南洋工科大学(NTU) や病院群と連携し、研究成果の産業化と外資・人材の誘致を同時並行で進める「選択と集中」モデルが機能しています。

これらのシンガポールの動向は、ASEAN諸国にも影響を及ぼしています。

  • ベトナム:国家イノベーションセンター(NIC)を軸に政令97号(2025年)で優遇策を整備し、シンガポールとの R&D・人材協力が進展
  • タイ:NIA が DeepTech 育成と SITE 2025 を推進し、EEC を基点に公民連携の実証を加速
  • インドネシア:BRIN が研究者起業を支援し、通信・デジタル省が AI アクセラレータを実施するなど、INA による戦略分野投資と併せてエコシステムを整備

 

東南アジアにおける成長が次のステージに移行しようとしている今、シンガポールはその中心で、研究・資本・市場を結ぶ中核ハブとしての位置づけを一層強化しています。

 

さいごに:弊社メンバーからのコメント

日本企業は、このタイミングでシンガポールでのプレゼンス強化、さらにそれを足がけに東南アジアでの事業拡大の機会を再検討するべきなのではないでしょうか。

しかし、東南アジアは、成長を続ける魅力的な市場であるものの、経済・インフラ環境のギャップや文化・ビジネス慣行、法規制の違いなど、その市場参画・新規事業開発に向けて乗り越えるべき課題が多く存在しています。

この市場の細分化に対応し、効果的な事業拡大・開発を進めていくためには、「東南アジア」と一括りに捉えるではなく、各市場における特徴を深く理解し、個別のGo-to-Market戦略を構築することが重要です。

東南アジアならではの課題を乗り越え、事業機会を最大化するための道筋について、ディスカッションなどご希望の際は、是非イントラリンクにお声がけください。