今年3月2〜5日にスペインのバルセロナで開催された世界最大級のモバイルテクノロジーの展示会&カンファレンスである「MWC 2026」に、英国からコーポレート事業開発の欧州統括を務めるジェームズ・フランシスが参加してきました。
本稿では、通信技術へのAI統合や、欧州テック企業の日本企業との連携への強い意欲など、特に印象に残った最新トレンドや発見を写真と共にお届けいたします。
長く暗い英国の冬が明け、バルセロナでの日差しを楽しみにしていたのですが、残念ながら現地に到着するとカタルーニャ地方は曇り空となり、逆に英国では晴れ間がのぞくという……まさに典型的な展開でした。とはいえ、このどんよりとした天気も、Mobile World Congress (MWC) 2026の盛り上がりを決して損なうことはありませんでした。会場は活気と自信に溢れ、通信業界とその周辺分野の最新技術が数多く展示されていました。
過去のMWCでは、5Gインフラの展開やAIを活用したサービスの将来性が注目されていましたが、今年は明らかに「実用的で現実的なもの」に焦点が当てられ、以前からの変化が感じられました。各展示ブースや基調講演、そして会場での意見交換を通じて、最新技術をいかに現実のネットワークに統合し、実社会で機能するビジネスモデルへと転換できるかが、主要なテーマとなっていました。
まず述べておきたいのは、MWCはデジタルプラットフォームやコンシューマー向けテクノロジーへとそのカバー範囲を徐々に広げているものの、依然として、通信インフラを中心に構成されている点です。
展示会場では、通信事業者、ネットワーク機器ベンダー、チップセットメーカー、通信ソフトウェアプロバイダーが中心を占める中、AI、ロボティクス、エッジコンピューティングといった技術でさえ、企業ネットワークの実現、産業オートメーションの支援、あるいはデジタルサービスの基盤となることから、「接続性(コネクティビティ)」の一環として取り扱われています。CESのような幅広い消費者向けテクノロジーイベントと比較すると、MWCは、その上層に展開するあらゆる領域を支える「接続インフラ」に焦点を当て続けていると言えます。
これには、衛星関連技術、スラスター、通信用ハードウェア・ソフトウェア、オペレーティングシステムなどを含む欧州のスペーステック企業がその一例として挙げられます。例えば、地上通信ネットワークを補完するものとして長年議論されてきた衛星通信ですが、今年は業界の主流議論にしっかりと組み込まれていると感じられました。その上で、英国のOpen CosmosやスペインのSateliotなどが、小規模で商業目的の衛星プラットフォームが、通信、データサービス、地球観測において新たなアプローチを展開していました。
コストの上昇やネットワークの複雑化に直面している通信事業者にとって、AIはもはや将来を見据えた「注目技術」ではなく、業務効率の向上や新サービスの実現に向けた実用的なツールとして、位置づけられるようになっています。
今年のMWCでも、AIが至る所で見られました。会場内のバナーには、「AI」、「インテリジェンス」、「AIネイティブネットワーク」といった言葉が強調され、会場内の主流トレンドが、今や至る所で見られる生成AIから、多くの出展者が「実用的なAI」と表現する領域へとシフトしていました。
このメッセージは、通信事業者やテクノロジーベンダーが、AIネイティブネットワークへの移行や、ますます複雑化するインフラの管理においてインテリジェンスが果たす役割の拡大について語った基調講演でも繰り返し言及されていました。
また展示会場全体でも、自動ネットワーク最適化、予知保全、インテリジェントなトラフィック管理、AIを活用したカスタマーサービスといったアプリケーション(さらに、NTTのブースで見られたインタラクティブな3Dスポーツ観戦のような、より「楽しい」アプリケーションもいくつか)に焦点を当てたデモンストレーションが行われました。その中でも共通のテーマは、AIが独立した分析層として存在するのではなく、通信インフラに直接組み込まれるようになってきているという点でした。
AIを前面に打ち出す企業の多様性は、エコシステムの広がりを反映するものでもあり、多くのスタートアップが、人々がコミュニケーション・プラットフォームと関わる方法を再定義することを目指した、極めて独自性の高い技術を披露していました。
中でも、プライベート通話向け無音音声技術を開発するフランスのSkyted、長くて複雑な書面による説明を、短くインタラクティブな動画コンテンツに変換するフィンランドのVideobot、そして、コンピュータチップほどの大きさの空気ポンプを開発するスウェーデンの「Myvox」、さらにアジア・韓国からもペットの生体認証技術に取り組むPetNowなどのテック企業が通信関連分野に進出している事例として興味深い技術を展示していました。
重ねて今年のMWCで少し意外だったのは、会場のあちこちでロボット技術のデモンストレーションが行われていたことです。
MWCにおいてロボット技術が中心的なテーマとなったことはこれまでありませんでしたが、複数の出展企業が、AIの機能やコネクテッドサービスの物理的なインターフェースを紹介する手段としてロボットを活用していました。例えば、中国のデバイスメーカーであるHonorは、自社のAI機能をアピールするために設計された、踊るヒューマノイドロボットの展示で注目を集めました。
こうしたデモンストレーションの多くは、近いうちに市場に出回る製品というよりは、注目を集めるためのショーケースという印象が強かったと言えます。とはいえ、それらは、コネクティビティ、人工知能、そして物理的なシステムの間で、融合が進んでいることを示していました。
MWC 2026のもう一つの注目すべき特徴は、中国企業の参加規模の大きさでした。展示ホール全体で中国ベンダーやデバイスメーカーの存在感が際立っており、通信インフラ、スマートフォン、AI搭載デバイスに及ぶ技術を披露していました。特にファーウェイは、ホール全体を占有し、AI中心のネットワークや5G-Advancedへの移行を前面に打ち出していました。これらは、モバイルネットワークの将来的な進化について議論された複数の基調講演でも強調されたテーマでした。
一部の市場における地政学的緊張や規制が続く中、中国企業の存在感は、彼らが依然として世界の通信エコシステムに深く根ざしていることを改めて示すものでした。
製品デモ以外にも、イベント開催日程を通じて、テクノロジー業界を形作る広範な地政学的環境について頻繁に話題が及んでいました。
サプライチェーンのレジリエンス、半導体の調達、そして変化する世界的な同盟関係といったトピックは、講演や業界パネルディスカッションで頻繁に取り上げられていました(米国・イスラエルとイラン間の戦争についても同様でした…)。展示会場では必ずしも目に見える形で表れてはいませんが、これらの問題は、通信エコシステム全体における投資判断やパートナーシップ戦略に引き続き影響を与え続けることでしょう。
日本企業も、展示ブースや会場内に派遣された大規模な企業代表団を通じて、イベント全体で存在感を示していました。日本からの通信事業者、電機メーカー、および産業グループは、会場全体や1週間にわたるサイドイベントで目立ち、その多くが展示会に出展している他の日本企業の展示品を視察している姿が見られました。
日本の通信事業者であるNTTとKDDIは、いずれも特に大規模なブースを出展し、幅広いネットワークおよびデジタル技術を展示していました。電通ラボがデザインを手掛けたNTTのブースでは、ネットワーク、データ、そして高度なコンピューティング機能を統合するという同社のビジョンが強調されていました。一方、KDDIのブースはまるでミニチュアの街並みのような構成となっており、非常にクールでユニークな仕上がりでした!
最新のテックトレンドやイベントの様子を先述してきましたが、MWCが示した日本企業にとって最も重要な点は、世界を目指す欧州スタートアップが、日本企業との連携に強い意欲を示していることです。この1週間を通して、さまざまな企業と直接話す機会がありましたが、展開市場としての日本への関心の高まりは確実なものであり、今こそ日本企業が欧州テック企業と連携し、協業を推進する絶好の機会であるということが改めて明確になりました。
そして地政学的な懸念、そして「レジリエンス」というテーマが、これまで以上に重要となる中、EU・日本間の貿易協定、EUのHorizon Europeプログラムにおける日本のアソシエイト・パートナーとしての参画、そして日本と英国のますます緊密化する関係は、他地域における不確実性という状況下で、日本と欧州のさらなる統合(およびその可能性)を示唆しています。
コネクティビティに焦点を当てつつ、より広範な分野を網羅したMWC 2026では、世界の通信エコシステムを注視する日本企業にとって特に関連性の高い動向が浮き彫りになりました。特に実験段階から実用化へと移行しつつあるAIにおいては、日本企業がAIネイティブなプラットフォームやサービスへと移行支援を提供可能な、成熟した実用可能な技術を持つ欧州スタートアップが多く存在していることも明確になりました。
AIからロボティクスに至るまで、本イベントで展示された多くの技術は、最終的には通信ネットワークの進歩に依存しています。今後もこの幅広い通信関連技術のグローバルトレンドを注意深くそモニタリングするためにも、MWCは、今後日本企業が参加すべき重要な指標となり続けるでしょう。
来年のこの時期、スペインでより多くの日本企業の皆さんにお会いできることを楽しみにしています!