世界的、特に北米において気候変動対策やクリーンテクノロジーに対する取り組み姿勢に変化が生まれる中、「世界で最も信頼性が高く、コスト効率に優れたクリーン電力供給国」を目指すカナダでは、政府主導の多様な政策や税額控除を通じて、クリーン技術分野への安定した投資とイノベーションが一層加速しています。
電力の約8割を非化石電源でまかなうカナダは、世界第2位のウラン生産国として原子力技術にも強みを持ち、小型モジュール炉(SMR)をはじめとする次世代原子力の導入において、国際的な先進事例を築くとともに、水素やCCUSでも豊富な資源を活用した大型プロジェクトが進行中です。これらの分野は、日本企業が持つ高度な製造技術やプロジェクトマネジメント能力の提供、また技術提携や共同開発、現地サプライチェーンへの参入など、あらゆる新規事業につながる可能性を秘めています。
本稿では、カナダにおける事業開発に長年従事してきたシヴァシュ・キアンプールが、カナダのクリーンテックが日本企業にもたらす事業機会を解説します。
カナダ政府は、エネルギー安全保障の確保と地域経済の支援を目的に、国産ウランの活用や先端技術による原子力分野の高度化に力を入れています。
1950年代から独自に開発してきたCANDU (Canada Deuterium Uranium)炉は、天然ウランをそのまま燃料として利用できる革新的な設計で、濃縮ウランへの依存とコストの削減という大きな利点を持ち合わせています。2025年には次世代CANDU炉の開発に向けて今後4年間で2億1,200万米ドルの投資を行う政府方針が発表され、さらなる技術革新と国内外での展開が期待されています。
また、コンパクトで効率的なクリーンエネルギー源として注目される小型モジュール型原子炉(SMR)の分野でも、2023年に4年間で2,960万カナダドルの予算を投じる「SMR実現プログラム(Enabling SMRs)」を発表し、SMRの安全かつ商業的な展開促進を目指し、供給網の整備や廃棄物管理に関する研究開発などが支援対象となっています。
次世代原子力の実用化に向け国内で複数のSMR導入計画が進行する中、 2025年5月には、オンタリオ州ダーリントン原子力発電所の敷地内で、GE日立製のSMR4基の建設計画に対し正式な建設許可が下り、そのうち最初の1基の建設が開始されました。このSMRは2030年までに運転開始の予定で、1基で約30万世帯分の電力供給が可能といわれています。
さらに、世界的に成長が期待されている核融合分野においても、カナダは着実に存在感を高めています。カナダ原子力研究所(CNL)やブリティッシュ・コロンビア州政府からの出資を受けるGeneral Fusionが、同州リッチモンドに新たな磁化標的核融合(MTF)装置の建設を進めており、2030年代の商用電力網への供給を目指しています。日本のスタートアップである京都フュージョニアリングも、カナダでの事業機会に着目し、CNLとの連携を通じて核融合技術の開発と事業化を加速させています。
水素やCCUSでも世界的な存在感
カナダでは、2020年に発表された「クリーン水素戦略」に基づき、これまでに80件を超える低炭素水素プロジェクトが立ち上がり、すでに13の生産施設が稼働しています。総額1,000億カナダドルを超える投資が見込まれており、ブリティッシュコロンビア州やケベック州における水力発電を活用したグリーン水素の生産、アルバータ州での蒸気メタン改質(SMR)によるブルー水素の生産など、グリーン水素とブルー水素の両分野で着実に進展が見られます。
一方で、カナダはCCUS(炭素回収・利用・貯留)においても世界的なリーダーであり、2023年時点で、全世界総容量の約7.3%を占め、年間約400万トンのCO₂を回収しています。現在はStrathcona ResourcesやLindeによる多額の投資を含む、複数の大規模CCUSプロジェクトが進行中で、年間数百万トンのCO₂回収・貯留を目指しています。
特に注目されているのが、カナダ最大のオイルサンド企業6社が連携して進める大規模CCSプロジェクトです。20ヶ所以上のオイルサンド施設から排出されるCO2を回収し、400kmのパイプラインでコールドレイク近郊の地下施設に輸送・貯留する計画で、2030年までに年間1,000万〜1,200万トンのCO2削減が見込まれています。
2025年3月には、北米初となるセメント産業向け商業規模のCCUSプラントへの政府支援が発表されました。この施設は年間100万トンのCO2を削減し、カーボンニュートラルなセメント生産を実現する見通しです。
カナダのクリーンテック分野は、政策支援や技術革新、豊富な資源といった強みを持つ一方で、他のOECD加盟国と比較して民間研究開発支出が少ない、ローカル投資家の不足などを理由に現地企業の多くが技術の商業化や事業のスケールアップに課題を抱えているのが実情です。こうした中、日本企業の持つ高度な製造・エンジニアリング技術やプロジェクトマネジメント能力、そして彼らの成長を後押しする資金力は、カナダが直面する課題の解決に貢献できると期待されています。
実際に、JAPEX(日本石油資源開発)は、アルバータ州政府の投資誘致機関と提携し、CCUSやブルー水素・アンモニアにおけるプロジェクト開発を進めています。
原子力分野においても、日本とカナダは国際的なクリーンエネルギー推進の枠組み「NICE Future(Nuclear Innovation: Clean Energy Future)」を通じて協力関係を深めており、日本企業にとっては技術提携や共同開発、現地サプライチェーンへの参入など、現地企業を支援する形での多様なビジネス機会が広がっています。
また、今後建設が予定されている原発やSMRに対しても、日本企業の精密な機器・部品の提供や、製造・品質管理における強みを活かした参画の可能性が高まる一方、核融合やCCUSといった商業化前の成長分野に対しても、早い段階から戦略的な投資を行うことで、技術実証や電力供給への貢献だけでなく、世界市場での競争優位の確立にもつながることでしょう。
カナダのクリーンテック分野に関するさらなる詳細や、その他の産業分野にご関心のある企業様は、ぜひお気軽にこちらまでお問い合わせください。