バルセロナに続く2回目は、北大西洋に位置するアイルランドの首都、ダブリンです。今回、我々が訪問したGuinness Enterprise Centre、DCU Ryan academy、NDRCの3社が新たに弊社のイノベーションネットワークパートナーに加わりました。
北大西洋に面する港湾都市ダブリン
アイルランド島東部にあるダブリンは、北海道よりも高緯度に位置しているものの、暖流の影響で年間を通して穏やかな気候に恵まれています。国家全体の44%にあたる約135万人、国外からの移住者約20万人を抱えるこの国際都市では、金融、ICT、コミュニケーションと専門的サービスが中心産業となっています。
欧米ビジネスからのアクセス
アイルランドの強みは、EU圏で唯一英語を公用語とし、欧米両市場にアクセスできるその立地です。ダブリンのシリコンドックスと呼ばれる運河エリアへのGoogle、Facebook、Twitterといった多くのテックジャイアントの欧州本社誘致に成功したことで、リーマンショックの経済危機からいち早く立ち直り、現在は過去4年連続で欧州一の経済成長率を達成しています。いまや大企業とスタートアップが活発に交流するダブリンは、「欧州のシリコンバレー」とも呼ばれています。また法人税が12.5%と周辺国より圧倒的に低い上、Enterprise Irelandに代表される政府のスタートアップ向けの支援など、起業家向けのビジネス環境が整っています。
世界第1位の海外直接投資
ダブリン発のスタートアップへの投資総額は、2018年には3億7200万ユーロに達し、過去5年の投資総額で欧州第7位を記録しています。またfDi Intelligence (Financial Times)発表のデータによると、2018年の海外直接投資では世界大都市の中で第1位、将来のグローバル都市ランキングでもシンガポール、ロンドンに続く第3位と、欧州のテック産業においてますます強化されるダブリンの経済的な強みと汎用性が高く評価されています。
ICT・金融産業
前述したように、ダブリンは米国テック企業の欧州拠点である上、グローバルソフトウェア、及びITサービス大手企業のほぼ全てが進出する同産業の欧州ハブとなっています。スタートアップもこれらの産業に関連してAI、AR/VR、ブロックチェーンやIoTを活用したテクノロジー企業やフィンテック関連企業が多い中、国全体の得意分野である生命科学や製薬、医療機器関連企業の進出や研究開発も多く展開しており、同都市内での強力なコラボレーションが進んでいます。
多様なプレーヤーが活躍するイノベーションエコシステム
1,190社を超えるダブリンのスタートアップは、その20%が100万ユーロ以上の投資を受けている、また有名な大企業や大学からのスピンアウトが多いのが特徴です。成功したスタートアップには、1億2500万ドルを調達したソフトウェア企業Intercomや、Verizonに24億ドルで買収された車両管理サービスのFleetmaticsがあります。 官民のビジネス支援を提供するNPO団体であるDublin BIC は、前述のEnterprise Irelandや民間資金を通じてEUと政府の投資を組み合わせ、1億2000万ユーロを調達し、起業家の事業立ち上げと拡大を後押ししています。同組織のもとで活動するインキュベーターGuinness Enterprise Centreは、2018年に9000万ユーロを調達し、各業界150以上の企業、500人以上を支援する一方、来年にはサポート企業数が倍増する予定で、その規模はさらに拡大中です。また日本を含む世界中の大学とパートナーシップを結び、コラボレーションを促進する形で多様なイノベーションを生み出すことを得意としています。 工学部とコンピュータ関連の学部が特に有名なDublin City Universityと提携するDCU Ryan academyは、設立5年以内のスタートアップを対象にしたアクセラレーターで、毎年約50社が参加する3ヵ月のプログラム、及び短期間のワークショップ、デザイン思考やメンタープログラム、大学の学生や女性起業家への特別支援など、多岐に渡るサポートを不動産テックや医療、旅行・航空機関連ビジネスを中心に提供しています。また自称Pre-AcceleratorのNDRCは、ダブリンだけでなく、その他国内都市やオマーンでも展開しているプログラムを通じ、300以上のPre-seedスタートアップ及びビジネスアイディアを、早い段階での顧客獲得とその関係性構築に重点を置きながらサポートしています。
ダブリンには世界トップレベルの大学も名を連ねています。上記DCUや、国内最大の総合大学でビジネススクールの評判が高いUniversity College Dublinに加え、世界で最も歴史がある大学の1つであり、同国のトップ大学でもあるTrinity College Dublinは、輩出してきた起業家数、スピンアウト数、VCの支援を受けた企業数で欧州一を誇っています。TCDは学部に関係なく全ての学生に無料の起業ディプロマコースを、また大学が運営するアクセラレーターTangentが多くの学生向けプログラムを提供しており、起業家精神の育成を重視しているのがユニークな点です。
米国企業だけでなく、現在約70社に上る日本企業も、同国内で主に航空リースや製薬事業を展開しています。武田薬品工業が、2016年にダブリンの新施設に4000万ユーロを投じた上、昨年製薬大手のシャイアー社を国内過去最大の6兆8000億円で買収した件は、よく知れた話かもしれません。
若くてフレンドリーなダブリンの魅力
上記エコシステムに加え、ダブリンの魅力はその人にあり、世界で最もフレンドリーな都市トップ10に選ばれています。実際、我々が訪れた訪問先や街の人々が、皆さん笑顔で優しかったのが印象的です。またアイルランドは人口の1/3が25歳以下、約半数が34歳以下と欧州で最も若い人口構成となっており、教育水準の高い、若い優秀な人材もダブリンのイノベーションハブの躍進を後押ししています。
最後に、、、
世界に名だたる米国のIT大企業に注目されているダブリンですが、中国や韓国といったアジア企業の進出はまだ多くありません。英語圏でビジネスのしやすい環境が整っているダブリンは、今後日本企業にとって隠れた投資スポットになりうるのではないでしょうか。 欧州のシリコンバレー、ダブリンのエコシステムにご興味がある方は、ぜひイントラリンクにご相談ください。またイントラリンクのフェイスブックページでも、今回の訪問先の詳細に加え、欧州のスタートアップ関連ニュースを定期的に発信しておりますので、合わせてご覧ください。 著者 植木このみ 松田育映