シリーズ第7回目は、モノづくりとIT双方に強みを持ち合わせ、ドイツ最大の経済力を誇るミュンヘンを特集します。今回もMUSTとThe InsurTech Hub Munichとの対談を通じ、現地エコシステムを支えるスペシャリストからミュンヘンの強みや特徴について話を伺いました。
国内最大規模のダイナミックエコシステム
ドイツ南部のバイエルン州に位置するミュンヘンは、約150万人の人口と国内トップの経済規模を誇り、国内外の主要大手企業、著名な大学や研究機関が集中しています。またそのダイナミックなエコシステムを理由に、特にB2Bに強いスタートアップが競争力のあるサプライヤー、潜在顧客、パートナーを見つけるために同都市で活動しています。
グローバル企業が名を連ねる成功の根源
弊社が今回話を伺った市内主要エコシステムビルダーのMUC SUMMIT GmbH(MUST)は、2015年に市内3つの大学付属起業家センターと国内イノベーションの促進を図るGerman Entrepreneurship GmbHによって設立され、起業家やイノベーションの交流機会を創出することで、市内の企業、研究者、政府、スタートアップなど主要なエコシステムプレーヤー間の関係構築を支援しています。 MUSTは、同エコシステムの特徴を以下のように語っています。「ドイツを代表するテックハブであるミュンヘンには、グローバルテック企業トップ10のうち8社が拠点を置くだけでなく、BMW、Google、Allianz、IBM、Siemens、Intelをはじめとする独大手企業と多国籍企業の本社及び戦略的な活動拠点となっています。つまり、ミュンヘンは世界的に有名な先進的企業の成功の根源となっており、今後数十年にわたり経済のホットスポットとしての地位を確立していくことでしょう。さらにミュンヘンは、国内で最も住みやすい都市にも選出されており、その優れたインフラや活気に満ちた街並み、オープンマインドな文化がエコシステムの繁栄に重要な役割を果たしているのです。」
セクターを超えたコラボレーションの可能性
ミュンヘンのスタートアップコミュニティは、2013年以降だけで170億ユーロ以上の価値を生み出してきました。2019年のVC投資は、欧州5位、国内ではベルリンに次ぐ過去最高の14億ユーロに達しました。またミュンヘンにはAIに優れた企業が多く、同領域における平均資金調達額は、ベルリンの約2倍となる637万ユーロを記録しています。さらにその経済規模を理由に、ミュンヘンにはエンタープライズソフトウェア、モビリティ、金融、ヘルスケア、旅行関連、Industry 4.0などあらゆる業界の企業が集まっているため、活躍するスタートアップコミュニティも幅広いセクターに広がっています。 今回、弊社がインタビューを行ったInsurTech MunichのChristian Gnam氏(Managing Director)は、同エコシステムがこれまでに強力で、イノベーションを求める企業にとって魅力的になった理由の一つとして、業界を超えたコラボレーションの可能性を指摘しています。InsurTech Munichは、ドイツ連邦政府に任命されたNPO団体で、保険以外の業界に属するキープレーヤーとも提携しながら、保険業界の成長を促進するプラットフォームとして活躍しています。 「特に近年、ビジネスにおいて顧客ニーズ志向が非常に高まっており、企業は自社のプロダクトポートフォリオ以上に多様な製品・サービスの提供を余儀なくされています。その結果、業界間の境界線が曖昧になり、変化の多い環境下における自社の位置づけと適切なエコシステムの活用が今まで以上に重要になりつつあります。例えば、ミュンヘンはインシュアテック関連のイノベーションではとても魅力的なエコシステムです。なぜなら保険ソリューションはリスク管理・削減、物事の実現のためにヘルスケア、モビリティ、金融など様々な業界でイネーブラーとして機能することができるからです。だからこそ、大企業は製品・サービス改善のためにもこのような業界を超えた取り組みに焦点をおくべきであり、あらゆるテクノロジーとセクターが混在するミュンヘンのエコシステムは、イノベーションを求める大企業にとって非常に魅力的なのです。実際、弊社にパートナー参画する企業も、保険関連企業だけではありません。」
欧州4位のユニコーン数を誇るコミュニティ
ミュンヘンでは現在、約1350社のスタートアップ(過去10年間に設立)が活動しています。またロンドン、パリなどに次ぐ9社のユニコーンを輩出してきました。有名どころではデジタルトランスフォーメーションを加速するプロセスマイニングツールを提供するCelonis、格安長距離バスのFlixbus、空飛ぶタクシーの商業化を目指すLiliumなどが挙げられます。またウェアラブルバーコードスキャナーのProGlove(Industry 4.0)や標的がん免疫療法開発のIOmx Therapeutics(バイオテック)などが潜在的なユニコーンとして期待されています。 投資家コミュニティにおいても、500以上のファンド(CVCを含む)、50以上のアクセラレータープログラム・インキュベーターが存在しています。特にVCにおいては、欧州最大級のアーリーステージファンドを運営するHV Venturesや北米にも展開するActon Capitalをはじめ、国内VCの20%以上がミュンヘンに拠点を置いていると言われています。
国内有数の教育機関と付属の起業家プログラム
さらにミュンヘンは、高等教育及び研究開発でも欧州トップレベルで、毎年約1.5万件の特許と優れた人材を輩出するだけでなく、各機関がそれぞれ起業家を支えるプログラムを積極的に提供しています。国内随一の工科大学であるTechnical University Munich(TUM)は、2002年に設立されたUnternehmerTUMを中心に各企業のレベルにあったあらゆるインキュベーション・アクレラレータープログラムを提供し、毎年50社以上、設立以来1000社以上をサポートしてきました。また同組織は、FacebookやAdidasをはじめとするパートナーとともにビッグデータ、Eモビリティ、自動運転の問題に関するプロジェクトに焦点を当てるThe Digital Hub Mobilityや、ミュンヘン市との共同でスマートシティに関するイノベーションと新規ビジネス創出を目的としたMUNICH URBAN COLABも運営し、大企業、スタートアップ、研究者が新しいソリューション開発に取り組む場を提供しています。一方、ドイツで2番目に多い生徒数を抱えるLudwig Maximilian University of Munich(LMU)が運営するThe LMU Entrepreneurship Centerでは、同大学の生徒・卒業生の起業意識の向上と起業促進のため、コワーキングスペースやコーチング、ネットワーキングイベントを無料で提供しています。
多国籍企業とCVCの高い存在感
ミュンヘンに拠点を置く多国籍・大手テック企業は、営業・本社機能だけでなく、最新技術の研究施設として、IBMがBMWやTUMと提携してIoTでのイノベーション創出を目的とするWatson IoTを設立したり、BMW、Volkswagen、Siemens、Allianz、Sixtなどの大手企業がCVCを設置したりとあらゆる形でその存在感を高めています。一方、近年の日本企業の活動においては、ミュンヘンにエンジニアセンターを構えるデンソーによる車載向け組み込みソフトウエア企業PiNTeam Holdingや、三井物産によるThe Mobility House への出資、また東レのグリーンイノベーション事業拡大のための技術開発拠点の設立などの事例が挙げられます。
最後に、、、
ミュンヘンは、モビリティやIndustry 4.0などに由来した製造業や、フィンテックやB2Bに強いソフトウェア企業など、モノづくりとデジタルの双方に強みを持ち合わせており、モノづくりに強い一方、今後さらなるデジタル化が必要とされる日本企業との高いシナジーが存在する都市と言えるかもしれません。またそれだけに留まらない業界のバライエティ、さらにその枠を超えたコラボレーションの可能性で世界中のグローバル企業の注目を集めています。既に多くの企業がCVCを設置しているという点は、今後欧州での投資拠点を展開したい日本企業にとっても、良い検討材料と言えるでしょう。ぜひこの機会に日本企業とのシナジーが高いミュンヘンエコシステムの活用を検討してみてはいかがでしょうか。 ミュンヘンのエコシステムにご興味がある方は、ぜひイントラリンクまでご相談ください。また無料配信している週刊ニュースレター「欧州イノベーションインサイト」や弊社のフェイスブックページでも、欧州の最新技術・エコシステムに関連する最新情報を定期的に発信しておりますので、ぜひご覧ください。