韓国では、消費者向けのフィンテックはやや立ち遅れていましたが、現在は急速に発展しています。韓国市場に適切なアプローチを取るための十分な知識があるならば、補完する分野の技術やサービスを提供できる欧米諸国企業にとって、大きなチャンスになっています。
規制による停滞
世界でも有数の高速インターネット接続があり、スマートフォンの普及率が77%以上あるにもかかわらず、韓国におけるフィンテックの進歩はこれまで、厳しい金融規制によって停滞してきました。消費者保護を目的として、韓国金融委員会(FSC)は電子決済のプロバイダーに、複雑な身元認証システムの構築を求めていたため、簡単に使えるべきサービスが煩雑で使いにくいものになっていました。 しかし欧米でのフィンテック分野の成長を受け、韓国当局も、規制を改変してイノベーションを起こしやすくする必要性があることを認識しました。2014年10月以降、FSCはついにその手綱を緩め、電子決済企業がユーザーのクレジットカード情報を保有することを認め、時代遅れのセキュリティー基準を撤廃しました。これによって、TossやSamsung Payといった韓国のモバイル決済サービスのパイオニアに道が開かれ、構築されたモバイル決済市場向けのエコシステムは、2017年末までに88億USドルを超える規模に成長しました。
韓国におけるメインプレイヤー
世界的な電子決済市場のサービスプロバイダーの多くが金融機関やIT企業の支援を受けているのとは対照的に、韓国の電子決済企業には、ハードウェア企業(サムスン電機)や小売業者(新世界グループ)、さらにはソーシャルメディアプラットフォーム企業(ダウム・カカオやNaverコーポレーション)など、様々なプレイヤーが存在します。 Tossは特に興味深いケースです。元々は韓国企業Viva Republicaによって2015年に開始されたスタートアッププロジェクトでしたが、この便利なピアツーピア(P2P)の送金サービスは、2017年までにPayPalとベンチャーキャピタルファームから4740万USドル以上を集めました。翌年には、シンガポールの政府系ファンド、GIC、Sequoia Chinaから、さらに3950万USドルの出資を受けることになります。元歯科医師であるViva RepublicaのCEOは、マイクロファイナンスや送金サービスといった商品を発表し、Tossを強力な消費者向け金融プラットフォームへ変貌させようとしています。 従来のクレジットカード会社もまた、迅速にフィンテックの流れに追随しており、現在ではモバイルアプリケーションを利用した簡易決済ができるようになりました。 この結果、韓国のペイメント市場の競争が激化しました。 様々な種類のトランザクションに多様なプラットフォームが使用されているため、簡易決済市場をけん引する一社を特定することは困難ですが、大韓民国金融委員会は韓国におけるもっとも一般的なサービスとして、Samsung Payを挙げています。米国でApple Payが始まった9カ月後の2015年8月にスタートして以来、Samsung Payは非常によく健闘し、Samsungのスマートフォンを所有するユーザーのうち、およそ55%の消費者を獲得しました。同社の処理総額は2018年4月までで171億USドルを超えています。 非接触決済市場におけるもう一つの突出したプレイヤーがPAYCOです。NHNエンターテインメントの子会社であるPAYCOはそのサービスを通じて、近年2億USドルを超える決済を処理しました。 一方、Naverペイとカカオペイは、既存のプラットフォーム上に決済サービスを構築し、こちらも非常に目覚ましいユーザー数を獲得しています。その数は、2017年第3四半期でそれぞれ2400万人と2000万人のユーザー数を持っています。Naverペイは、韓国最大の検索エンジンやYouTubeの有力な競争相手であるNaver TVを運営するインターネットジャイアント、Naverコーポレーションの傘下にあります。カカオペイは、韓国のインターネットユーザーの99%がメッセージのやり取りに使用する最も一般的なメッセンジャーアプリ、カカオトークに統合されています。
電子商取引の活況
韓国では現在、電子商取引が活況を呈しており、簡易決済がオンライン小売業者の成功にとって重要な要素になっています。2017年にはオンライン購入のうち60%がモバイル端末を通じて決済されており、電子商取引のプラットフォームと簡易決済サービスを統合することは、ロッテや新世界といった小売グループにとって必須事項です。サードパーティプロバイダーとの協業とは別に、これらの小売企業は独自サービスであるL PayやSSG Payを運営し、キャッシュバックサービスによって消費者を取り込もうとしています。しかし、このような決済サービスの拡充とマーケティングにかかるコストは膨大で、中小企業は強大な複合企業と競争することの難しさを認識しています。 従来の銀行やクレジットカード会社はこの傾向を十分に認識しており、イノベーションを真剣に受け入れる必要性にますます着目しています。実際のカードと連動しているモバイルカードアプリケーションはオンライン決済を簡素化し、従来の巨大金融機関によって提供されるフィンテック・イノベーションハブとアクセラレータが、銀行やクレジットカード会社と、韓国社会で急速に発展するフィンテックとを接続します。
発展する豊富なチャンス
このような急速な発展にもかかわらず、簡易決済とP2P融資やマイクロファイナンスといったその他のフィンテック分野は韓国ではいまだ初期段階であり、発展するチャンスは十分にあります。 韓国におけるフィンテックへの投資は2016年末までに7億6500万USドルを超え、今後3年間で、韓国政府単独による投資だけで22億USドルを上回ります。 もっとも重要なことは、韓国政府が金融サービスとデータ保護ポリシーを改変する必要性を認識していることです。FSCによる新しい「規制サンドボックス」イニシアチブは、イノベーションを促進するため、フィンテックのスタートアップが最長2年間、従来の厳密な規制から外れたオペレーションを実行することを許可しています。
欧米諸国とのパートナーシップへの要望
韓国企業への出資金は莫大です。金融プラットフォームは、購入パターンと消費者行動に関する情報を統合することで、巨大なデータプラットフォームへと発展していくことが期待されています。このようなデータを管理するテクノロジーでは、セキュリティーとプライバシーが最も重要です。ロンドンやシリコンバレーといった主要なフィンテック・イノベーションハブに後れを取っていることから、韓国の企業、スタートアップ、そして複合企業は一様に、こうした課題へ対処するのに適した海外プレイヤーと、パートナーシップを結ぶことを強く望んでいます。 このような要望は、情報セキュリティー、データアナリティクス、デジタル認証といった、補完的な分野に特化した米国やヨーロッパ企業にとって、利益を上げる絶好の機会になります。これらの分野では、韓国企業は国際的な競争相手にリードされています。 人工知能とブロックチェーン技術もまた、引き続き韓国の投資を非常に多く集めています。そして、フィンテックに統合されたこれらの技術に関するアプリケーションは、大きな関心を集めるに違いありません。 韓国において、電子商取引やITビジネスだけでなく、銀行やクレジットカード、保険会社といった従来の金融分野のどれもが、革新的な欧米企業がパートナーシップを結ぶのに魅力的な相手です。そして、このような韓国企業の技術発掘部門は、独自開発を強化できる可能性のある関連技術を世界中から探し出すことに責任を負っています。
大きな義務
欧米企業がアジアでパートナーシップとセールスプログラムを成功させるには、大きな義務を果たす必要があります。韓国も例外ではありません。 韓国人は、自国のチームと共に母国語で働くことを好み、どのような協業であっても、自国でのサポートを希望します。顧客となる韓国企業はパートナー会社からの直接的なサポートを常に求め、期待しています。 さらに、韓国の金融部門は非常に保守的であるため、信頼関係を築くには対面によるコミュニケーションが不可欠です。一度関係を構築できれば、戦略パートナーとの協力関係は、他の相手にも開かれたものになります。
大きなチャンス
適切な欧米企業にとって、韓国のフィンテックプレイヤーとのパートナーシップを結ぶチャンスは大きく、韓国市場には国際的な成長戦略の一環としてターゲッティングする価値が十分あります。 しかし、優れた技術を持っているだけでは、まだ半分しか勝ったことにはなりません。適切なコンタクトを取り、韓国語でビジネスを行う方法を学ぶこともまた、成功のための重要な要素です。