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欧州イノベーションハブをめぐる:第1回急速な成長を見せる地中海都市、バルセロナ

今回から欧州各都市をめぐり、イノベーションエコシステムや最新のスタートアップ動向などを紹介するブログをスタートします。イントラリンクの強みである欧州のイノベーションネットワークを駆使し、現地のアクセラレーターやインキュベーターを訪問取材。専門家が分析する各都市の特徴やトレンドを交えながら、日本企業の投資機会と欧州スタートアップとのオープンイノベーションの可能性を探ります。 初回は、南欧のイノベーションハブ、バルセロナです。

地中海都市、バルセロナ

バルセロナは、スペインのカタルーニャ州の州都であり、首都マドリードに続く第2の都市です。地中海沿岸に位置し、年間を通して比較的穏やかな気候に恵まれています。同都市の経済生産の89.9%は小売、ビジネス、観光などのサービス業で、中でも観光業のインパクトは大きく、昨年は3200万人もの観光客が訪れました。人口も、気候や経済的理由で国外からの移住者が多く、投資家にも住みやすいインターナショナルな都市であるバルセロナには、国家総人口の約3.4%を占める160万人が住んでいます。

イノベーションの活性化を後押しする政策とライフスタイル

 バルセロナは、欧州や米国、さらに同じスペイン語圏の南米へのアクセスしやすさで、世界各地から多様な人材とビジネスを引きつけています。加えて、周辺欧州諸国より低い法人税、州内でのR&D活動における外国企業への税金優遇策、雇用インセンティブプログラム、ビジネス目的の移民ビザの取得簡易化など、海外企業誘致政策に積極的に取り組んできました。 また都市自体も比較的コンパクトであるため、人同士の繋がりが容易であった上、開放的で活動的なライフスタイルが生活の質を高め、人々が幸せにかつ意欲的に働き続けることも、バルセロナがイノベーションハブとして躍進した背景にあると言えるでしょう。

欧州第5位、急速する投資規模

 バルセロナ発のスタートアップへの投資総額は、2018年に前年の約倍額となる8億7100万ユーロを記録した上、ベンチャーキャピタルが投資を行ったスタートアップの数も550社に達し、それぞれの投資規模で欧州第5の都市となりました。 2014年には、経済成長と市民福祉の向上のため、新しいテクノロジーの利用促進を目的とした2011年発足のプロジェクト、「人の都市としてのバルセロナ」による成果が認められ、欧州委員会より最も革新的な都市“iCapital”の第一回受賞都市に選出されました。

モバイルワールドキャピタル

バルセロナに拠点を置く1,300以上のスタートアップの多くが、インダストリー4.0(17%)、生命科学(13%)、モバイル&ソフトウェアテクノロジー(11%)を専門分野とする中、他にもスマートシティやゲームが強い領域として挙げられます。しかし、モバイル業界のキャピタルと呼ばれる同都市は、モバイルワールドコングレス(Mobile World Congress)の開催地として最も名が知られており、この世界最大級の見本市には、社会のデジタル化を推進することを目的に、VR、IoT、AI、ビッグデータなど、モバイル・通信関連のメーカーが多く出展し、2019年は、198を超える国と地域から10万以上が来場しています。   

イノベーションエコシステム

バルセロナには、スタートアップの事業成長をサポートする組織として、50以上のアクセラレーターとインキュベーターが存在します。今回我々が訪問した企業のうち、Conector Startup Acceleratorは、プレ・シードでの投資を主要とし、バイオテック、ゲーム、デジタルライフスタイルなど、同都市の強い領域での成功を目指すスタートアップの発展をほぼ0の状態から育成しています。 「社会的インパクト」にフォーカスするユニークなアクセラレーターであるShip2bは、気候や人々の健康をテーマにする企業をサポート。その取り組みが認められ、現在欧州投資基金から新たに3000万ユーロの投資を集めています。他にも、市内の港湾に建てられたバルセロナ・テックシティというイノベーションハブ内にて、包括的な実践的なサービスを提供する101 Startups/101 Venturesは、資産管理向けのAIプラットフォームで成功を収めたCognicorを輩出してきました。 このようなサポートで事業成長を後押しされた1300以上のスタートアップのうち、IPOまで完了した企業は30以上にのぼり、大企業からの買収を中心としたその取引総額は、2018年に過去最高の約3億ユーロを記録しました。有名なユニコーン企業には、フリーマーケットアプリのLetgoや、楽天が2500万ユーロ以上出資したオンデマンド配達プラットフォームGlovoがあります。 高等教育面においても、バルセロナには世界トップクラスのビジネスクール、ESADEIESEがあり、様々な人材やメンタープログラム、スピンオフ企業をスタートアップシーンに輩出。さらにIBMとスペイン政府が共同開発した南欧で最速のスーパーコンピューターを保有するバルセロナ・スーパーコンピューティング・センター(BSC)や、6つの施設から成り立つ南欧有数のバイオ医療研究機関のバイオメディカル・リサーチ・パークなど、最先端の科学技術を追究する研究所も多く存在します。 先述した当地エコシステムの強みはその結果、大手海外企業の投資を誘致してきました。近年では、フェイスブックのフェイクニュース問題と闘うCompetence Call Centreや、Payment Innovation Hubという商業取引と支払いサービスに特化したスペイン発のイノベーションハブが設立され、そこにスペインのLa Caixa Bank、Visa、サムソンといった大企業が参画しています。日本企業も遅れを取らず、数年前からスペインで複数のAIプロジェクトを行ってきたNTTデータが、今年5月にスペインの子会社エヴェリスとともにAI技術のグローバル集約拠点、AI CoE(Center of Excellence)を新たに設置しています。

人々を夢中にさせる環境

上記エコシステムに加え、増え続ける共同ワーキングスペース、北欧等に比べて手頃な人件費、また質の高い生活はスタートアップや投資家にとって非常に快適な労働生活環境です。実際、起業経験者を対象とした調査において、起業先として人気な都市に欧州内で第3位、国際的にも第5位に選出。さらにバルセロナで起業されたビジネスが、その後同都市から撤退する比率も約3%と、パリ(5%)やイスラエル(11%)と比べて極めて低く、一度バルセロナの魅力にはまった投資家が他に拠点を移すことが少ない点も、ユニークな魅力と言えます。

最後に、、、

欧州だけでなく、アメリカ大陸からも優れた人材を惹きつける、国際色の豊かなバルセロナは近年、海外からの投資や都市内エコシステムの急速な成長により、イノベーションハブとしての頭角を現しています。さらに現地のライフスタイルも有益に働き、安定した成長が見込める要因が多く存在しており、今後も同ハブ内でイノベーションに携わる人々と、その活動に対する投資の数は増え続けていくのではないでしょうか。 モバイルキャピタルという名のもと、様々なビジネスやイノベーションを生み出すバルセロナのエコシステムにご興味がある方は、ぜひイントラリンクにご相談ください。 著者 ジェームス・フランシス 植木このみ 松田育映

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