『ベルリン発Quantica、積層造形技術で1,970万ユーロ獲得』、『英Amber Therapeutics 、尿失禁治療薬で1億ドル調達』、『EU気候政策: 仏製造業にて4,300万トンの炭素排出量削減』、『核融合技術で地球のエネルギー供給を目指すXcimer、1億ドル調達』、『Prolific Machines、「光」の活用でタンパク質細胞増殖に挑む』、『Twelve Labs、マルチモーダルAI基盤モデルで5,000万ドルを調達』、『フィリピンMober、EV配送で600万ドル調達』、『ASEAN-6市場回復、AIブームとESGリスク対応が後押し』を取り上げた「イノベーションインサイト:第87回」をお届けします。
ベルリンを拠点とする積層造形スタートアップのQuantica は、韓国のVCである Big Bang Angels を含む投資家からシリーズA資金として1,970万ユーロを調達したと発表した。2018年に設立されたQuanticaは、「NovoJet」と呼ばれるインクジェット3Dプリンターシステムを開発している。同システムは、歯科やヘルスケア、エレクトロニクス分野および研究開発における2Dおよび3Dアプリケーションのために、超高粘度かつマルチマテリアルの印刷を可能にする点で、他のインクジェットシステムとは一線を画している。同社はこの技術に関して7つのパテントファミリーを所有しており、インクジェットプリントヘッドメーカーのXaar社、特殊化学品開発企業のALTANA社、研究機関のFraunhoferなど、業界をリードする企業・組織とのコラボレーションを進めている。最初のシステムは2024年に出荷を開始する予定だ。同社はドイツに本社を置き、英国とスペインにもオフィスを構えている。今回の資金調達により、Quanticaは従業員を増強し、積層造形システムの生産を加速させることができるという。
英国を拠点とする医療技術スタートアップのAmber Therapeuticsは、シリーズAで1億米ドルの資金調達を行ったと発表した。これは欧州のメドテックスタートアップとして最大規模のシリーズAラウンドの一つになると考えられている。2021年にオックスフォード大学からスピンオフして設立された同社は、混合性尿失禁に対処するため、骨盤神経系をターゲットとした低侵襲の生体電気デバイス「Amber-UI」を開発した。尿失禁は、米国では4,000万人以上の女性が罹患している非常に一般的な疾患であるが、現在何らかの治療を受けているのは1,600万人に過ぎず、混合性尿失禁に対応する単独の治療法は存在しない。Amberのソリューションは、個人のニーズに合わせて設定可能で、さまざまな事象に動的に反応し、必要に応じて動作モードを調整することができる。同社は、欧州と米国でパイロット試験の計画を開始しており、今回の資金調達により、Amber-UIを米国で承認取得するための戦略の次の段階を実行する。
Imperial College London とそのパートナーによる新しい研究によると、EU排出量取引制度(EU ETS)政策の最初の8年間で、フランスの製造業者の炭素排出量は15%減少し、収益性への悪影響はなかったことが判明した。EU ETSは、12,000以上の発電所や製造所に対してCO2を排出する権利に価格を設定する政策であり、EUの総排出量の40%をカバーしている。研究者たちは、ETSによって規制された企業が排出量を削減しながらも、財務的な健全性と競争力を維持していることを発見した。炭素税はしばしば、製造コストの上昇や生産拠点の海外移転につながるのではないかという懸念がある。しかし、調査によると、2005年から2012年の間に、フランスの製造業者は省エネ生産技術に投資することで4,300万トンの排出量を削減したという。この調査は、EU ETSが欧州全域でより多くのセクターに拡大され、収益性を維持しながら脱炭素化を進めることが可能であることを示している。
エネルギー供給を現実にするための核融合技術を開発するデンバー発Xcimer Energyは、Hedosophiaが主導するシリーズAラウンドで1億ドルを調達した。核融合反応を達成するためには、まず水素をプラズマに変換する必要がある。核融合装置は次に、プラズマを圧縮して閉じ込め、解放された原子核を接近させ、反発する静電気力に打ち勝って最終的に融合させる。このプロセスによって放たれる中性子エネルギーを利用しようとするスタートアップが幾つもある中、Xcimerは、もともと1980年代の戦略防衛構想プログラムのために開発された高エネルギーレーザー技術と、レーザー駆動慣性核融合のための最新の開発技術を活用している。同社のアーキテクチャーは、2022年12月に核融合科学的損益分岐点を達成した国立点火施設(NIF)のレーザーシステムよりも、最大10倍のレーザーエネルギーを、10倍の効率で、1ジュールあたりのコストを30倍以上低くできるということで、大きく期待されている。
2年前、培養肉などにおける細胞増殖の独自製造アプローチの技術を発表したProlific Machinesが、Ki Tua Fund主導のシリーズBラウンドで5,500万ドルを調達し、商品化へと歩み始めた。細胞を使って食品や食材を作る現在のバイオ製造法は、時間がかかり、高価で、不正確であることが多い。この課題を解決するため同社は、光、生物工学、ハードウェア、AIを活用し、細胞の性能を制御・最適化するバイオ製造のためのプラットフォームを開発した。光学(optics)と遺伝学(genetics)を融合させた学問領域のオプトジェネティクスにヒントを得て、過去4年間に開発されたProlific Machinesのテクノロジーは、これまで不可能と考えられていた新たなソリューションや、全く新しいバイオソリューションを提供し、より安価で高品質なバイオ製品につながる可能性があるという。その例として、栄養タンパク質、病気を治療する抗体、培養肉などの高価値製品をより効率的にバイオ製造できるとの期待が高い。
人間のように動画を理解できる生成AIモデルを開発するサンフランシスコ拠点Twelve Labs Inc.は、New Enterprise AssociatesとNVenturesが共同主導、Korea Investment Partnersを含む既存投資家も参加したシリーズA資金調達ラウンドで5,000万ドルを調達した。Twelve Labsは、膨大なビデオのライブラリから、正確な瞬間を「ピンポイントで抽出」できる自然言語プロンプトをユーザーが入力可能にする、生成AI基盤モデルを開発・提供している。同社のモデルを使用することで、ユーザーは何時間もの映像の中から、通常であれば失われてしまうシーンを素早く探し出すことができる。現在一般販売されているMarengo-2.6は、テキストからビデオ、テキストから画像、テキストからオーディオ、オーディオからビデオ、画像からビデオなど、ビデオ、オーディオ、画像の検索タスクが可能な最先端の基礎モデルである。同社によると、包括的なビデオ理解技術を使用しているため、競合他社よりも飛躍的に高機能だそうだ。
フィリピンのグリーン・ロジスティクス・サービス・プロバイダーであるMoberは、低炭素社会への移行を促進するシンガポールのClime Capital Managementが運営するSouth East Asia Clean Energy Facility II (SEACEF II)から最大600万ドルの投資を受けた。この新たな資金調達は、株式と転換社債の両方を通じたものであり、これを活用してMoberはEV保有台数を238台に増強し、2025年初頭までに3,000平方メートルの充電施設の新設を目指す。2015年7月に設立された同社は、企業の配送プロセスの脱炭素化を支援することに重点を置き、初期費用をかけずにシームレスなソリューションを提供する点に特徴をもつ。東南アジア最大のEV配送事業者として持続可能なロジスティクスをリードするMoberは、Nestle、IKEA、Maersk、Kuehne+Nagelなどのクライアントに、EVによる配送サービスを提供している。同社はまた、EVの効率と寿命を向上させる最先端のバッテリー管理システム(BMS)を開発し、技術的な優位性を高めている。さらに、EVをOEMから直接調達し、各車両を特定の運用要件に合わせて調整することで、最大限の効率と信頼性を確保している。
マレーシア最大の銀行グループに所属するMaybank IBG Researchによると、AIブームによって拍車がかかった世界のエレクトロニクス需要の拡大は、2024年前半の緩やかな景気回復を支え、ASEAN-6市場(マレーシア、シンガポール、タイ、インドネシア、ベトナム、フィリピン)の下半期の見通しを明るくしているという。同社は、ASEAN-6のGDP成長率が2023年の4%から2024年には4.5%、2025年には4.7%に回復すると予測している。米中の地政学的対立の結果、製造業のサプライ・チェーンが中国からASEANへとシフトしており、この傾向は今後も続くと予想される。また、同地域におけるもう一つのトレンドは、ASEAN企業によるESGリスク軽減に向けた投資の継続であり、サステナブル・ファイナンス案件は、特にエネルギー、電力、不動産などのセクターに集中している。
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