『独Black Semiconductor、チップの連携技術で2.7億ドル調達』、『英Highview Power、エネルギー貯蔵プラント建設のため3.6億ユーロ調達』、『川崎重工とダイムラートラック、液体水素サプライチェーン確立に向け提携』、『15分で80%のEV充電を実現、FLOが新規資金調達』、『Apex、衛星バス増産に向け9,500万ドル調達』、『Enveda、古代治療法とAIを組み合わせた創薬で5,500万ドルを調達』、『ArrowBiome、腸内フローラケアの普及を目指し100万ドル調達』、『Paper.id、B2Bフィンテックサービス拡大に向け資金調達』を取り上げた「イノベーションインサイト:第88回」をお届けします。

ドイツに拠点を置くBlack Semiconductorは、 Porsche Ventures やドイツ連邦経済エネルギー省などの民間および公的資金によるシリーズA資金調達ラウンドで2億7,300万ドルを調達した。2020年に Aachen Universityのスピンオフとして設立されたBlack Semiconductor社は、グラフェンを用いた新世代のチップ技術を開発しており、性能の向上、エネルギー効率の向上、および60%少ない生産工程による製造コストの大幅な削減を実現している。同社は、ASMLなどの大手チップメーカーや、チップの最大の購入者であるクラウドコンピューティング等のハイパースケール企業と直接協力することを目指す。この資金を活用し、Black Semiconductorはアーヘンにパイロット施設を建設し、2026年までに従業員を現在の30名から120名に増やす予定である。また、2031年までに初となる商業用量産製品の生産開始を計画している。

英国を拠点とする大規模エネルギー貯蔵開発企業Highview Powerは、UK Infrastructure Bankとエネルギー企業Centricaから3億ポンドの資金調達に成功した。 2005年設立のHighview Powerは、再生可能エネルギーを数週間にわたり貯蔵できる液体空気エネルギー貯蔵ソリューションを開発しており、他のバッテリー技術よりも長い保存期間を実現している。今回の資金は、マンチェスターに建設予定の英国初となる商業用液化空気エネルギー貯蔵プラントの建設に充てられ、これは世界最大の長期エネルギー貯蔵(LDES)施設となる可能性がある。この施設は、300MWhの貯蔵容量と毎時50MWの出力電力を6時間にわたり提供し、英国の電力網を支えることになる。2026年初頭に運用開始予定で、建設とサプライチェーンで700名以上の雇用創出が見込まれている。Highview Powerは、さらに4つの2.5GWhの大規模施設の計画も開始し、その総投資額は30億ポンドと見込む。

Daimler Truckと川崎重工業は、欧州における道路貨物輸送の脱炭素化に貢献する液体水素サプライチェーンの確立と最適化にむけた共同研究を行うための覚書を締結した。この取り組みは、液体水素ターミナル、大中型の海外輸送および大規模な液体水素貯蔵を含む。川崎重工業は、すでに水素液化装置、液化水素運搬船ならびに液体水素貯蔵タンクなどのコア技術を開発している。一方、Daimlerは、液化水素で駆動する燃料電池トラックを開発している。道路輸送における液化水素の利用可能性を実証するため、同社のプロトタイプであるメルセデス・ベンツ GenH2 トラックは、液化水素の1回の補給で、ドイツ国内1,047キロメートル走行することに成功した。両社のソリューションには良好なシナジーがあり、両社の協力は水素経済の発展に向けて重要な前進となる。


ケベック拠点の FLOは、カナダ輸出開発省(EDC)主導によるシリーズE資金ラウンドで、1億3,600万ドルの長期資金を確保した。この資金は、北米におけるEV充電器と充電ネットワークの展開を加速するために使用される。FLOは超高速充電器、次世代住宅用充電器FLO Homeなど、いくつかの新製品も展開する予定である。中でもFLO Ultra DC急速充電器には、新しいFLOモーター駆動ケーブル管理システムが採用され、ほとんどのEVを最大320kWにて15分間で80%まで充電可能だという。同社は、今回の資金調達の一部を新たな充電ソリューションの開発と継続的なネットワーク拡張支援に充てることを予定している。Pew Research Centerによる分析では、米国成人の64%が公共EV充電器の2マイル以内に住んでおり、充電器の近くに住む人々はEV購入を検討する可能性が高いことがわかった。現在、アメリカ人の95%以上が、公共のEV充電ステーションが1つ以上ある区域に住んでいる。

ロサンゼルス拠点の衛星製造スタートアップ Apexは、 XYZ Venture CapitalとCRVが共同で主導するシリーズBラウンドで9,500万ドルを調達した。Andreessen Horowitzなどの既存投資家に加え、Toyota Ventures、Point72 Ventures、Mirae Asset Capitalなどの新規投資家も参加した。新たな資金により、同社は「製品化」された衛星バスの生産を拡大し、特に国家安全保障の顧客からの需要の高まりに対応する。Apexは今回の資金調達で、3月に初の実証ミッションで打ち上げられた衛星バスAriesの生産を加速し、NovaとCometと呼ばれるより大きなモデルを開発する計画だ。Ariesは最大150kgのペイロードを収容できる100kgのバスで、Novaはその2倍の容量を持ち、Cometは最大500kgのペイロードをサポートする。この3つのバスはすべて「製品化された」ものであり、顧客が希望する容量設定での大量生産も可能だそうだ。

コロラド拠点の Enveda Biosciencesは、マイクロソフトを含む投資家参加のもと、5,500万ドルを調達した。今回のシリーズB2資金調達により、同社の総資本は2億3,000万ドルに達する。世界保健機関(WHO)は、現代の医薬品の40%は祖先が使用した治療薬に由来していると推定している。しかし、科学者たちは、医薬品として開発可能な天然化合物のごく一部しか発見していないと見積もっている。CEOのコルル氏はRecursion Pharmaの在籍中に、AIなどの技術により自然界から新薬を発見するプロセスを迅速化できると考えて同社を退社し、植物化学を分析して潜在的な医薬品を発掘するためにEnvedaを設立した。Envedaのデータベースには、約12,000の病気や症状に関連する38,000の薬用植物が登録されている。同社のAIが治療薬効果の可能性が高い植物を特定すると、チームはその材料を収集し、実験室とAIを使用してそれらをテストする。従来の分子研究方法とは異なり、Envedaモデルはサンプル全体の「化学言語」を解読することができる。


ArrowBiomeは、パーソナルケア企業や特殊化学品メーカー向けにリジンの生産・製造を行っている。一般的な皮膚治療は、善玉菌と悪玉菌を両方とも破壊し、腸内フローラのバランスを乱し、抗生物質への耐性を増加させることが多い。その一方で、ArrowBiomeのソリューションは、リジンによって有害な細菌のみをターゲットにする。同社のプラットフォームは、従来の製品よりも副作用が少なく、少量の有効成分で作成できる製品を顧客に提供できるという。ArrowBiomeは、新たな資金を研究開発部門の強化および更なる商業提携の模索に使用する予定であり、皮膚科学以外の分野にも進出する計画である。

インドネシアのB2Bフィンテック企業Paper.idは、Square Peg主導のシリーズB資金調達ラウンドで、非公開の金額を調達した。このラウンドには、新規投資家としてSMBC Asia Rising Fund(三井住友銀行とIncubate Fundの共同設立)と、既存の投資家であるArgor Capitalが参加した。 Paper.idのCEO兼共同設立者である Yosia Sugialam 氏は、今回の資金調達により、サービスの強化・拡大を図り、事業主が効率的に取引を管理・処理できる主要プラットフォームとしての地位確立を目指すという。2017年に設立されたPaper.idは、包括的な請求書発行および支払いプラットフォームを通じて、インドネシアの企業の債権・債務を管理するのを支援してきた。また、支払者向けの長期分割払いを含むさまざまな支払い方法へのアクセスも提供する。これまでに、Paper.idはインドネシアの多様なセクターで60万社以上の中小企業を支援してきた実績を持つ。

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