『サムスン、英ナレッジグラフ企業を買収』、『AquaGreen、丸紅から約870万ドルの投資を獲得』、『蘭半導体のNearfield Instruments、1億3,500万ユーロを調達』、『Saronicが1億7,500万ドル調達、企業価値は10億ドルに』、『Peak Energy、ナトリウムイオン電池製造の拡大に注力』、『Infinitum、高効率モーターで3,500万ドルを追加調達』、『マレーシアがデータセンター市場ハブとして急拡大中』『フィリピン不動産テックLhoopa、8,000万ドルを調達』、を取り上げた「イノベーションインサイト:第93回」をお届けします。

サムスン電子は、英国オックスフォード発のOxford Semantic Technologiesを買収し、消費者向けデバイスのAI機能を強化していく旨を発表した。同社は2017年にオックスフォード大学からスピンアウトし、人間の情報・知識の処理方法に類似した方法でデータ処理を行う技術を開発した。この技術は、情報を相互に関連付けられた概念のネットワークとしてデバイス・クラウド上で保存し、人間のようにデータを処理、記憶、想起、推論することを可能にする。金融、製造、eコマース企業が既にこの技術を利用している。サムスンは2018年から同社と協力しており、2019年には投資も行っている。この買収により、モバイルデバイスや家電製品などでAI能力が強化され、顧客に対する超個別化体験が可能になる。

デンマークのクリーンテック、AquaGreenは、日本の総合商社丸紅から6,000万DKK(約870万ドル)の投資を獲得した。同社は2014年に設立され、下水処理時に生成される湿ったバイオマスを、補助燃料を使用せずに乾燥・熱分解してバイオ炭を生産する技術を開発している。この技術により、CO2排出を削減し、下水汚泥中のPFASなどの有害物質を除去できる。丸紅は、水供給および下水処理プロジェクトで豊富な経験を持ち、世界で約1,660万人に水サービスを提供している。AquaGreenとの協力により、丸紅は下水汚泥処理ビジネスを拡大し、より広範な水サービスを提供することが可能になる。そしてAquaGreenとしては丸紅のネットワークを活用し、同社の技術のグローバル展開を進める。

オランダの半導体スケールアップ企業Nearfield Instrumentsは、1億3,500万ユーロのシリーズC資金調達を発表した。この資金調達は、シンガポールの投資会社Temasekなどが参加し、過去5年間で欧米の半導体製造装置市場における最大級の資金調達の一つとされている。2016年にオランダの研究機関TNOからスピンアウトした同社は、高量半導体製造向けの計測・検査(M&I)ソリューションを開発している。半導体チップの需要が増加し、設計が小型化・複雑化する中で、Nearfieldの検査ソリューションへの需要も高まっている。同社はオランダに本社を置くが、海外拠点として韓国の平澤(ピョンテク)市内にもオフィスを持ち、サムスンを顧客とすることに成功している。この新たな資金により、生産能力の拡大、製品ポートフォリオの拡充、市場での地位強化を図る。


防衛テックのSaronicは、自律型水上艦船(ASV)の生産拡大に向け、シリーズB資金ラウンドで1億7,500万ドルを調達した。テキサス州オースティン拠点のSaronicは、米海軍とその同盟国のために、迅速かつ大規模なASVを提供することで、海上優位性を再定義している。SaronicのASVは、既存の艦隊の力を倍増させるもので、有人システムと連携し、生命と任務に対するリスクを軽減しながらより長距離の航行が可能になる。同社は主にASVの設計・建造に注力しており、現在はSpyglass 、Cutlass、Corsairと呼ばれるそれぞれ6、12、24フィートのモデルを持ち、ミッションに応じて多様なペイロードを輸送できるオープンシステム・アーキテクチャの無人自律型艦船においては先駆的存在だと言えるだろう。

Peak Energy は、Xora Innovation主導、TDK Venturesなどの投資家も参加したシリーズA資金ラウンドで5,500万ドルを調達し、ナトリウムイオン電池の本格生産を開始した。米国のエネルギー需要は急増しており、AIの台頭やEVの普及により、電力需要は2030年までに20%も増加すると予測されている。再生可能エネルギーは、理想的な条件下では極めて低コストで大量のエネルギーを生産できるが、発電量のばらつきが大きいため、それだけでは24時間の需要を満たすことができない。ナトリウムイオン電池のような費用対効果の高い技術による実用規模の貯蔵は、米国が送電網に電力を供給するクリーンエネルギー源の恩恵を最大限に享受するための唯一の方法である。Peak Energyのナトリウムイオン電池は、早ければ来年にも、試験プログラムに参加する一部の顧客に提供される予定だ。同社は米国内で蓄電池の本格生産を開始する意向で、2027年には国内初のギガスケールの電池工場を開設する。

InfinitumはシリーズEエクステンションラウンドで、丸の内イノベーションパートナーズとRice Investment Groupから3,500万ドルを調達し、シリーズE総額は2億2,000万ドルに達した。Infinitumの空芯モーター・システムは、データセンター、病院、ビル、物流、製造、産業施設などで使用されるエネルギー集約型のアプリケーションに、より少ない電力、CO2排出量、廃棄物で持続可能に動力供給することができる。従来のモーターと比較して、消費エネルギーが最大65%まで減り、サイズと重量も50%減である。同システムには可変周波数ドライブが内蔵されており、アプリケーション固有のパワーとトルクの要件に合わせてカスタマイズすることが可能で、消費電力を抑えることで電力網への負担を軽減する。製造に使用する原材料が少なく、モジュールごとの設計により、モーターの保守、修理、再製造、リサイクルが容易であるというのも利点だ。


アジアの不動産テクノロジーグループのJuwai IQIは、マレーシアが2024年末までに世界のデータセンター市場で最も急成長を遂げることを予測している。同社は、マレーシアの急速な成長を強調し、日本とインドに次いでアジアで3番目に大きなデータセンター市場になると見通している。これには、戦略的な立地、AWS、Microsoft、Googleなどのグローバル企業からの投資の増加が寄与している。また、電力インフラ、および接続性を向上させるための海底ケーブルネットワークなどに対する政府による積極的な投資やインセンティブ政策も市場拡大を支えている。現在、マレーシアは3,221MWのデータセンター容量の拡大を計画しており、特にクアラルンプール大都市圏とジョホールで大規模な新プロジェクトが進行中である。この急速な発展は、多くの熟練した職業を創出し、マレーシアの東南アジアデータセンター市場における地位をさらに固めると期待されている。

フィリピンの不動産テックのLhoopaは、直近の資金調達ラウンドで8,000万ドルを調達した。内訳は、2,000万ドルの株式と6,000万ドルの債務であり、株式資金調達に関しては、世界銀行の国際金融公社(IFC)とWavemaker Partnersが共同主導し、Pavilion Capital、10X Group、その他の著名な投資家が参加した。2018年に設立されたLhoopaは、手頃な価格の住宅開発を専門としており、技術と地元のパートナーシップを活用してフィリピンの58都市で2,500以上の住宅を建設している。この新たな資金は、他の新興市場への拡大、技術能力の強化、グリーン住宅オプションの立ち上げに活用される。中期計画として、3年以内に15,000戸の手頃な価格の住宅を提供し、東南アジアの深刻な住宅不足を解消することを目指す。
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