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イノベーションインサイト:第72回

イノベーションインサイト:第72回

『富士通と独Celonis、DX加速に向けてグローバル協業強化』、『武田薬品、機械学習のAtinary Technologiesと提携』、『ドイツ、脱炭素化に向けてマイルストーン戦略を発表』、『地熱発電のFervo Energy、2.2億ドルを調達』、『臨床記録用AIモデルのAbridge、1.5億ドルを新規調達』、『持続可能なバッテリー材料のAscend Elements、新工場建設へ』、『東南アジアにおける垂直型AIのトレンドを探る』、『Climate Impact X、みずほなどから2,200万ドルを追加調達』を取り上げた「イノベーションインサイト:第72回」をお届けします。

 

富士通と独Celonis、DX加速に向けてグローバル協業強化

富士通とドイツ発SaaSスケールアップのCelonisが今週、戦略的パートナーシップをさらに拡大すると発表した。2011年設立のCelonisは、企業が様々な社内システムのデータを分析することで、ビジネスプロセスの現状と課題を可視化し、AIと自動化を活用して改善するためのSaaS型プロセスマイニング・ソリューションを提供している。2020年12月にパートナーシップを締結した両社は、富士通が日本市場におけるCelonisの販売・提供パートナーとして、これまで製造、通信、金融、小売など約30社の顧客に対してデジタル・トランスフォーメーション(DX)を支援してきた。今年4月以降、富士通はこの連携をさらに拡大し、Celonisのプロセス・インテリジェンス・プラットフォームと富士通のDX能力を組み合わせ、様々な業種の顧客にオーダーメイドのソリューションを提供するエンド・ツー・エンドのコンサルティング・サービスを全世界的に展開していく。その実現に向け、富士通は2024年度末までに、150人のグローバルな有資格技術コンサルタントの育成完了を目指すという。

 

 

 

 

武田薬品、機械学習のAtinary Technologiesと提携 

スイスの機械学習(ML)スタートアップAtinary Technologiesが、武田薬品と戦略的提携を締結した。2019年に設立されたAtinaryは、化学、食品、エネルギー、製薬など様々な業界の研究開発ワークフローにMLを統合することを専門としており、企業が触媒や製剤を最適化し、デジタルツインを作成してプロセスを効率化できるようにする。この戦略的提携は、AtinaryのAI、データサイエンス、ロボット工学、クラウドコンピューティングの知識と、武田の医薬品研究開発の専門知識を組み合わせることにより、武田がAtinaryのSelf-Driving Labs(SDLabs)プラットフォームを活用し、創薬・開発プロセスを改良、新治療法の製品化までの時間を大幅に短縮できる可能性を秘めている。なお、Atinaryは現在までに500万ドルのシード資金を確保し、JAGグループやIBM Research Europeといった企業とも戦略的パートナーシップを結んでいる。

 

 

 

 

 

ドイツ、脱炭素化に向けてマイルストーン戦略を発表

今週、ドイツ政府は炭素管理戦略(Carbon Management Strategy)を発表し、CO2削減が困難なセクターの脱炭素化を支援し、2045年までにカーボン・ニュートラルを実現するための既存のCO2貯蔵法を改定した。炭素回収・貯留(CCS)は世界的に注目されているが、ドイツでの導入は困難を極めてきた。独国内でCO2を貯蔵し、パイプラインで輸送することは、現在のところまだ違法である。しかし、政府はこの状況を変える方向に動いており、今回の規制改定は、EU域内排出量取引制度(EU-ETS)を通じて脱炭素化への圧力が高まるセメント、化学、廃棄物焼却などの産業に焦点を当てている。CCUSは電力部門の石炭火力発電所にも許可されるが、政府の支援はない。またCO2貯留は、陸上ではなく海上でのみ許可される。一方で、政府はCO2輸送パイプラインの建設と国境を越えた協力の必要性を強調した。総じて、CCSは「必要な追加」であり、再生可能エネルギーや水素を含むドイツの脱炭素化に向けた既存努力を損なうものではないとしている。

 

 

 

 

 

 

地熱発電のFervo Energy、2.2億ドルを調達

ネバダ州における系統連系地熱発電所の成功を受け、Fervo Energyが2億2,100万ドルを調達した。同社はこれまでに、ジェフ・ベゾス、リチャード・ブランソン、ビル・ゲイツ、孫正義といった著名エンジェル投資家の支援を受けてきた。ヒューストンに本社を置く同社は、指向性掘削技術により、地面で必要とされる範囲をはるかに超えて坑井を拡張する。そして、さまざまなセンサーに接続された光ファイバー・ケーブルを坑井に張り巡らせ、取得したデータを地上チームに送る。そのデータは地下の熱パターンをマッピングするために活用され、各坑井の性能を監視する。同社は昨年から、相次いで大きな成功を収めている。昨年11月には、業界初となる3.5メガワットのProject Red 発電所をネバダ州の送電網に接続した。この発電所から得られる電力は、同州にあるグーグルのデータセンターに年中無休で供給され、バッテリーも不要。また、今年2月にはユタ州のプロジェクトにおいて、2022年に同社が最初に掘削した坑井から70%削減した水平坑井を完成、コスト半減にも成功した上、米エネルギー省から2,500万ドルの助成金を受け取ったばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 

臨床記録用AIモデルのAbridge、1.5億ドルを新規調達

ジェネレーティブAIの進歩により、患者診察における音声記録を自動的にカルテに変換する取り組みが増加している。先週、この巨大市場となりうる市場を狙う企業の一社であるAbridgeが、最新のシリーズCラウンドで1億5,000万ドルを調達し、その評価額も8億5,000万ドルに達した。同社はすでに、音声認識、言語処理、カルテを構造化するためのAIモデルを社内で構築している。この臨床文書改善技術は、AIを活用して記録の完全度を向上させるもので、医師だけでなく、ケアチーム間のコミュニケーションから、患者向けの診察記録の作成、さらに会計部署に向けた適切なコードの取得に至るまで、後に続くすべての作業に役立つ。Abridgeは現在、10ヶ所の医療施設で導入され、1万人以上の臨床医がそのソフトウェアを使用している。今回の資金調達は、より多くの病院への販売促進や技術研究開発への投資に充てられる予定だ。

 

 

 

 

 

 

 

持続可能なバッテリー材料のAscend Elements、新工場建設

マサチューセッツ州に本社を置くAscend Elementsが、昨年9月にDecarbonization Partners、Temasek、カタール投資庁が主導した5億4,200万ドルの大型ラウンドに続き、ケンタッキー州に持続可能な大規模リチウムイオン工場を新設するための資金として、1億6,200万ドルを調達した。2015年に設立された同社は、EVバッテリーのリサイクルから、リチウムイオン電池の前駆体(pCAM)とカソード活物質(CAM)の商業規模生産まで、循環型のバッテリー材料ソリューションを提供する。Ascendは、使用済みリチウムイオン電池から新しいカソード材料を製造しており、既存方法よりも効率的な独自技術を活用することで、低コスト、性能向上、排出量削減を実現している。同社によると、ケンタッキー州を拠点とする新プロジェクト「Apex 1」は、2025年初頭に稼働予定で、北米初の持続可能なpCAM製造施設となり、年間最大75万台のEV向けに持続可能なpCAMとCAMを生産する。なお、同プロジェクトは、米エネルギー省と超党派インフラ法案から一部支援を受けている。

 

 

 

 

 

 

 

東南アジアにおける垂直型AIのトレンドを探る

東南アジアでは、シーフードから金融まで幅広い分野において、特定の業界やセクターに特化した垂直型AIスタートアップが台頭しつつある。シンガポールを拠点とするVCのAntlerによると、東南アジアを拠点とするスタートアップはAIアプリを通じ、顧客第一のアプローチを取り、異なるセクターや市場に特有のペインポイントを解決できるという。一方で、これらの企業には、その地域の特性に合わせたスタートアップごとの戦略により、各国で異なるトレンドが生まれつつある。例えば、ベトナムは技術力の高い人材が豊富で、よりグローバル志向のB2Bスタートアップが多い一方、インドネシアは国内市場が大きいため、スタートアップは国内にとどまる傾向がある。そんな中、すでに活躍する東南アジアの垂直型AIスタートアップの例としては、国境を越えた物流向けにインボイス・ファイナンス・プラットフォームを開発するBorderDollar、市場調査向けデータ取得を自動化するCapGo、企業に直接販売することで効率的な水産物サプライチェーンを実現するSeafoody、注文管理プロセスを短縮するために食品サプライチェーンを簡素化するZolo、建設業界におけるプロジェクトおよび数量請求書をデジタル化するCoexなどが挙げられる。

 

 

 

 

 

 

 

Climate Impact X、みずほなどから2,200万ドルを追加調達

質の高い炭素クレジットの世界的なマーケットプレイスと取引所であるClimate Impact X (CIX)は、最新の資金調達ラウンドで2,230万ドルの追加確保に成功した。今回の投資ラウンドは、みずほファイナンシャルグループが主導し、既存の投資家であるStandard Chartered Bank、DBS Bank、およびシンガポール取引所も参加した。DBS銀行、SGX、Standard Chartered、またTemasekのGenZeroの連合によって2021年に設立されたCIXは、炭素クレジットに対する市場の信頼を促進することに注力している。CIX Marketplace、CIX Auctions、CIX Exchange、CIX Intelligence、CIX Clearといった包括的なサービス・ポートフォリオを通じて、CIXは炭素クレジットの取引、価格変動、流動性を活性化する。また設立以来大きな進歩を遂げてきたCIXは、特に標準化されたスポット契約と特定の炭素プロジェクトに特化した取引所を通じて、100万トンを超える炭素クレジットの取引と清算を達成した。現在までにそのプラットフォームを通じて、200万トンを超える炭素クレジットの取引を促進した実績を持つ。

 

 

 

 

 

 

 

イントラリンクについて

イントラリンクは、日本大手企業の海外イノベーション・新規事業開発、海外ベンチャー企業のアジア事業開発、海外政府機関の経済開発をサポートするグローバルなコンサルティング会社です。

植木 このみ
About the Author

植木 このみ

オックスフォード本社を拠点に、プロジェクト実行チームの一員として、日本ならびにアジア大手企業を対象としたマーケティング事業をリードしている。2020年より海外エコシステムの最新情報を日本語で提供する「イノベーション・インサイト」を執筆。また欧州におけるイベント企画・運営も担当。

ラフバラー大学にて国際経営学修士号を取得後、ロンドンの日系企業でEMEA在日本企業の経営ビジネス戦略構築をサポートした経験を持つ。

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