『「The State of European Foodtech 2024」が発表に 』、『Mission Zero Technologies、SAF向けDAC技術で資金調達』、『蘭チップメーカーInnatera、1,500万ユーロを調達』、『クラウドCAEプラットフォームLuminary、1億ドル超調達』、『生成AI特化のビッグデータUnstructured、4,000万ドル調達』、『テラワット規模地熱エネルギー開発のQuaise Energyが資金調達』、『シンガポール国立大学、ディープテックに2,000万ドル投資』、『TOPPAN、シンガポールに半導体基板工場を設立 』を取り上げた「イノベーションインサイト:第75回」をお届けします。

Dealroomの最新レポートによると、フードテックは欧州で6番目に資金調達が多く集まるセクターで、2023年にはその額が45億ドルに達した。サブセクター別に見ると、代替タンパク質が8億4,100万ドルで最大のセグメントであり、これにペットフード(6億800万ドル)、水産養殖(4億9,800万ドル)が続いた。2023年のトレンドを見てみると、精密発酵やYnsectのような昆虫ベースのスタートアップが代替タンパク質分野の成長を牽引している。ペットフード分野も2023年に記録的な高成長を遂げたが、これは主に新鮮なドッグフードを提供するButternut Boxのメガ・ラウンドに牽引されたものだった。また、サステナブル・パッケージングは昨年、2022年の2倍となる1億1,700万ドルを調達した。この分野には、菌糸体パッケージング・プロバイダーのMagical Mushroomのようなバイオマテリアル&バイオプラスチック企業や、ダイナミックな賞味期限ラベルを提供するMimicaのようなスマート・パッケージング企業が含まれる。地域別では、9億400万ドルを集めた英国がフードテック投資先としてトップとなっているが、その他イノベーション・ハブも顕著な成長を遂げており、その一例としてスイスは前年比197%増の4億4,000万ドルを調達したという。

ロンドンを拠点とするMission Zero Technologiesは、ビル・ゲイツ率いるクリーンエネルギーVCファンドのBreakthrough Energy Venturesを含む投資家から、シリーズAラウンドで2,180万ポンドを確保した。2020年設立のMission Zeroは、年間最大250トンの大気中のCO2を回収できるダイレクト・エア・キャプチャー(DAC)技術を開発している。このソリューションはモジュール式で、輸送用コンテナに収まるほど小型であるため、さまざまな場所や業種で展開できる。同社は、2024年末までに、持続可能な航空燃料(SAF)、CO2の無機化、カーボン・マイナス建材を開発するプロジェクトで、3つのDACシステムを稼動させることを目標としている。最初のプロジェクトは、シェフィールド大学と共同で、回収したCO2を活用してSAFを製造するもの。今回の資金援助により、年間1,000トンのCO2を回収する大型導入可能なDAC製品の開発を加速させることができるという。

チップメーカーは、最近の人工知能への注目の高まりから大きな恩恵を受け、Nvidia のような企業は2019年以降、株価が2,000%近くも急騰している。そして投資家たちは今、次の半導体サクセスストーリーの発掘に向けて躍起になっている。今週、オランダに本社を置くInnateraは、スマートセキュリティカメラやウェアラブルなどの「エッジ」アプリケーション向けマイクロプロセッサーを対象に、1,500万ユーロのシリーズA資金を調達した。従来、スマート・デバイスからのデータはクラウドで処理されてきたが、データ量が増加するにつれ、遅延と高コストが問題となり、デバイス上で直接処理できるチップ(エッジ・コンピューティング)へのニーズが高まりを見せている。Innateraのチップは、従来のマイクロプロセッサーに比べて消費電力が約500分の1、データ処理速度が100分の1であると主張する。同社は今回の資金調達により、生産規模を増強し、センサーメーカーやデバイスメーカーの顧客基盤を拡大する。長期的には、2030年までに10億台のデバイスを提供するとしている。


プロトタイプを作成し、それが実世界でどう機能するかを理解する上で、シミュレーションは、エンジニアリングに不可欠なステップだ。今日のエンジニアリング・シミュレーターは実行に時間がかかり、スケールアップが難しい傾向にある中、これとは対照的に、クラウドとGPUに依存するコンピューター支援エンジニアリング(CAE)によるシミュレーション実行プラットフォームを構築するLuminaryが、1億1,500万ドルを調達した。このプラットフォームは、デスクトップ・コンピューターの最大100倍の速度でのシミュレーションに加え、市場投入までの時間の短縮、洞察の迅速化、チームの生産性向上、プロトタイプ製作費用の有効活用が可能となり、エアタクシー企業のJoby Aviationなどが既に採用している。オブジェクトやシーンをメッシュと呼ばれる小さな個別のセルや要素に分割するメッシュ生成は、シミュレーションプロセスの重要な要素だが、このメッシュ生成タスクを自動的に処理するAIアシスタント、Lumi AIも提供される。

生成AIにおけるビッグデータに特化した Unstructured Technologies Inc.は、Menlo Venturesが主導し、NvidiaのVC部門、IBM Venturesなどが参加したシリーズBラウンドで4,000万ドルを調達した。画像、メモ、音声、動画などの非構造化データを、大規模言語モデル(LLM)で容易に読み取れる形式に変換する分野のパイオニアという点で注目を集めている。OpenAI ChatGPTやGoogle Geminiのような生成AIサービスを支えるLLMに多くの企業が関心を寄せている中、Unstructuredは、オープンソースのPythonライブラリ、コンテナ、クラウドホスティングのアAPIを含むプラットフォームを提供する。このAPIは、生データやLLM対応ファイルを含む20以上の自然言語ファイルを処理できる上、マイクロソフトOneDrive、AWS S3、Google Cloud Storage、さらにDropboxなど、サービスに対する複数のエンタープライズグレードのデータコネクタも提供される。

地熱エネルギーのための新しいハイブリッド深層掘削技術を開発するQuaise Energyは、Prelude VenturesとSafar Partners主導、三菱商事などの新たな投資家も参加したシリーズA1ラウンドで2,100万ドルを調達した。深部地熱発電所は、従来の地熱資源の10倍のエネルギーを生み出し、24時間365日のベースロード電力を供給、小さな土地面積でクリーンエネルギーへのほぼ普遍的なアクセスを可能にする。Quaiseは、地表下3~20kmの深部地熱エネルギーを世界中で研究し、MITでの10年以上にわたる研究とオークリッジ国立研究所での最近のテストに基づき、ミリ波帯の高出力マイクロ波を使用して岩石を気化させる斬新な技術を開発した。当初のMITでの実験は、現在100倍にスケールアップされ、今年後半には現場での実証実験が開始される予定だ。今回の資金提供は、パイロットプラントでの地質学的理解を深めることを目的としている。


シンガポール国立大学(NUS)は、ロボット盲導犬開発から培養肉製造まで、ディープテックにおけるスタートアップやイノベーションの取り組みに対し、2,000万ドルの資金を投入すると発表した。出資資金の半分は、NUSのGraduate Research Innovation Programme(Grip)の強化に充てられる。Grip2.0は、大学の研究から生まれたテック企業の立ち上げを支援するために設計されたプログラムであり、大学院生、卒業生などに対し、産業界とのパートナーシップへのアクセスとともに、最高25万ドルを授与するもの。一方で、イノベーション・フェローシップやベンチャー・アワードなど、プロトタイプのスケールアップを対象に、研究をさらに発展させるために教員や研究者にも資金が提供される予定。それぞれの資金提供額は8万ドルから25万ドルで、開発段階と、商業化あるいは広く採用できるような実用的な応用を見出す開発者の能力によって決まるという。なお、今回の発表を受けて、シンガポールのヘン・スイキャット副首相は、同国の研究・イノベーション・企業2025計画の一環として、ディープテックとその商業化へのコミットメントは最優先事項であると述べた。

TOPPAN株式会社は、シンガポールに高密度半導体パッケージのFC-BGA(Flip Chip Ball Grid Array)基板の生産拠点を新規設立すると発表した。 2026年末に稼動開始予定の同工場への正確な投資額は明らかになっていないが、その額は約500億円(3億3,800万ドル)と推定されている。パッケージ基板は、集積回路チップを載せてプリント基板に接続する部品で、TOPPANは、回路密度の向上に対応した基板の生産を強化しながら、チップ性能向上のためにチップの大型化が進む中、通信やAIなどの半導体に搭載されるパッケージ基板の大型化・多層化により、性能向上に向けてチップの大型化が進む業界を支えていく狙いだ。同社は現在、新潟県の工場でパッケージ基板を生産しているが、計画されているシンガポール工場は、マレーシアや台湾にて半導体の組立やテストを行う多くの後工程請負業者の近くに拠点を置くことになる。また新潟工場での生産能力拡大と同新規工場開設により、2027年度までに基板生産能力を2022年度比で2.5倍以上拡大するという。

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