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イノベーションインサイト:第138回

イノベーションインサイト:第138回

『LLMを最大95%圧縮するMultiverse Computing、約1.9億ユーロ調達』、『Proxima Fusion 、ステラレーター核融合技術商業化に向け1.3億ユーロ調達』、『Yamaha Motor Europe、マリン事業DX推進でフィンランドに拠点設立』、『Shinkei Systems、魚処理自動化技術拡充で2,200万ドル調達』、『AIケアマネージャー拡充へ、Ellipsis Healthが4,500万ドル調達』、『Slide、カナダ進出と市場拡大加速へ2,500万ドル調達』、『フィンテックのフィリピン発Salmon、8,800万ドルを調達』、『ダイムラー、インドネシアに3,070万ドルのトラック・バス工場を開設』を取り上げた「イノベーションインサイト:第138回」をお届けします。

LLMを最大95%圧縮するMultiverse Computing、約1.9億ユーロ調達

スペイン発Multiverse Computingが、HP Tech VenturesHPCVC部門)と東芝が参加した最新ラウンドで18,900万ユーロのシリーズB資金を確保した。2019年に設立された同社は、精度を維持したまま、大規模言語モデル(LLM)を最大95%削減できる量子に着想を得たAIモデル圧縮技術を開発する。この圧縮されたAIモデルは4倍から12倍高速で、ランニングコストも50%から80%削減可能なことから、費用対効果が高い上、エネルギー効率にも優れているとされ、クラウド、プライベートデータセンター、ならびにPC、電話、自動車、ドローンなどのデバイス上で直接動作する。160以上の特許と、Iberdrola、Bosch、カナダ銀行を含む100社以上の顧客を持つというMultiverse Computingは、すでに提供しているLlamaMeta製)、DeepSeekMistralの圧縮モデルに加え、近日中に追加モデルを発表する予定だ。 

 

 

 

Proxima Fusion 、ステラレーター核融合技術商業化に向け1.3億ユーロ調達

ミュンヘンを拠点に核融合技術に取り組むProxima Fusionが、シリーズAラウンドで13,000万ユーロを調達した。マックスプランク・プラズマ物理学研究所IPPからのスピンオフとして2023年に設立された同社は、磁場を利用して高温プラズマをリング状に閉じ込め、核融合を起こす核融合炉の一種「ステラレータ」を開発している。これは既存の核分裂技術とは異なり、ウランのような物質を使用しない上、競合する核融合技術に比べても安定性が高い。80人以上のチームを擁し、強力な研究に支えられているだが、ミュンヘンの本社と研究所に加え、スイス・チューリッヒPaul Scherrer Institute と、核融合研究に特化した英国の国立研究所であるCulham Centre for Fusion Energyにもチームを置いている。なお、今回の調達資金は、2027年に予定されている「ステラレータ・モデル・コイル」と呼ばれる重要なハードウェア・コンポーネントのデモへの支援、そして2031年に予定されている完全なステラレータ・デモンストレーションに向けた施設の最終決定に活用される予定だ。 

 

 

 

Yamaha Motor Europe、マリン事業DX推進でフィンランドに拠点設立 

ヤマハ発動機の欧州統括会社であるYamaha Motor Europeが、マリン事業向けのデジタル・ソリューション開発に向け「Yamaha Motor Connected Innovation」をフィンランドに設立した。同時に、2023年に出資したフィンランドSkipperiのソフトウェアプラットフォームとIP権も取得し同新事業のさらなる拡大を図る。Skipperiは、ピアツーピアのボートレンタルシステムやボートレンタル用プラットフォームにより、ボートの予約、港へのアクセス、ボート旅行の管理などで、より快適なユーザー体験を提供する。Yamaha Motor Connected Innovation15人のチームとともにSkipperiデジタル・プラットフォームのさらなる開発に注力する。この取り組みは、ヤマハのCASE戦略(Connected、Autonomous、Shared、Electric)に沿ったもので、世界のシェアリング市場における同社のデジタル・プラットフォーム拡大を促進する。 

 

 

Shinkei Systems、魚処理自動化技術拡充で2,200万ドル調達

シーフードロボティクスのShinkei Systemsが、Founders FundInterlagos共同リードしたシリーズAラウンド2,200万ドルを調達した。新規投資家としてヤマトホールディングスなども参加している。Shinkeiは、人間が行う魚の処理方法により近い形で、さらに鮮度と旨味を高める自動化技術を提供する。同社の「Poseidon」は、商業漁船に搭載できるボックス型装置で、漁獲直後に魚を自動処理するのが特徴。魚が機械に入ると、AIが種類とエラ・脳・尾の除去方法など最適な処理方法を判別する。その後、魚を気絶させ、血液を浸透圧と心臓のポンプ作用で抜き取り、コーシャ処理に近い手法で肉の質を保つ。最後にアイススラリー冷蔵庫で急冷し、船の保冷庫に保管する仕組みだ。日本の「活け締め」技術に着想を得て開発されたという。 

 

 

 

AIケアマネージャー拡充へ、Ellipsis Healthが4,500万ドル調達

AIボイスエージェント「Sage」の拡充を目的に、Ellipsis HealthがシリーズA4,500万ドルを調達した。Salesforce、Khosla Ventures、CVS Health Venturesがリードし、Mitsui Global Investmentなどの既存投資家も参加した。Sageは医療従事者不足や患者ニーズの高度化に対応するAIケアマネージャーで、リスク評価、ケア調整、フォローアップなどを担い、運営効率と患者対応を向上させる。同社独自の「Empathy Engine」は数百万件の臨床通話を学習済みで、患者の感情に応じて声のトーンや話し方を調整し、治療順守や成果向上に貢献する点が特徴。UnitedHealthAetnaなど大手医療機関と提携済みで、今回の資金により導入拡大を進める。Sageは事務作業を60%削減し、登録を6倍高速化、4倍のROIを実現するとして、AIケアマネジメント市場での存在感を強めている。 

 

 

 

Slide、カナダ進出と市場拡大加速へ2,500万ドル調達

マネージドサービスプロバイダー(MSP)向けの次世代バックアップ・災害復旧(BCDR)プラットフォームSlideが、Base10 Partners主導のシリーズAラウンド2,500万ドルを調達した。Outsiders FundTop Down Venturesも出資する同社はMSPの進化するニーズに対応する高速・安全なハイブリッドクラウドBCDRを提供する。今年2月に米国でローンチ後、パートナーネットワークを急拡大し、今回新たにカナダ市場にも進出する。資金はプロダクト開発、海外展開、チーム強化に活用される予定だ。長期契約不要で高性能NVMEハードウェアを提供し、Backup RadarRewstなどとの連携も可能。1TBから150TBまでの多様なアプライアンスを揃え、パートナーファーストの姿勢でMSP向けBCDRの新たな標準を目指している。 

 

 

 

フィンテックのフィリピン発Salmon、8,800万ドルを調達 

フィリピンにおいて中央銀行(BSP)認可の下、銀行業務および貸付プラットフォームを運営するフィンテック企業Salmon Group Ltdが、8,800万ドルの資金調達を実施した。本ラウンドには、1億5,000万ドルのノルディック債券枠組みから6,000万ドルの引き出しが含まれ、加えて、IFC(国際金融公社)、ADQ/Lunate、Northstar、Antler Elevateなどの機関投資家から2,800万ドルの新規株式出資が行われた。同社は、東南アジアのテクノロジー企業として初めてノルディック債券を発行した企業となり、新興市場における金融サービスの変革を推進するという同社のミッションに対する投資家の信認を反映しているまた3,000を超える小売店舗高評価を得ているモバイルアプリを通じて、「Salmon Credit」「Installment」「Cash Loans」など、独自のAIクレジットエンジンを活用したクレジット主導型製品を提供している。さらに、同社が提供する預金商品は年利8.88%と、フィリピン国内で最高水準を誇る。これは、テクノロジーを中心とした低インフラ型のオペレーションモデルによって実現されている。今回調達された資金は、東南アジア地域における事業拡大に充当される予定 

 

 

ダイムラー、インドネシアに3,070万ドルのトラック・バス工場を開設

ドイツのダイムラー・トラック傘下であるPT Daimler Commercial Vehicles Manufacturing Indonesia(DCVMI)は、西ジャワ州チカランにおいて、約3,070万ドルを投資した新たな製造施設を正式に開設した。同施設は15ヘクタールの敷地に設置され、インドネシア市場向けに最適化されたメルセデス・ベンツのアクソル・トラックおよびバスシャシーを生産する。年間5,000台の生産能力を備え、DCVMIはこれによりインドネシア国内の商用車メーカー上位5社に位置づけられる見通しである。本工場の開設は、同社が旧ワナヘラン工場からの撤退を経て実施されたものであり、現在その旧施設はインチャープおよびインドモビルによって乗用車生産拠点として運営されている。新工場は、国内需要への対応と輸出市場への供給の双方を視野に入れており、インドネシアを地域における製造拠点として強化するというダイムラーの戦略的意図を体現している。加えて、同社は現地での雇用創出、技術イノベーションの促進、ならびに長期的な経済貢献への継続的なコミットメントを表明している。 

 

 

 

植木 このみ
About the Author

植木 このみ

オックスフォード本社を拠点に、日本ならびにアジア大手企業を対象としたマーケティング事業を統括する。2020年より海外エコシステムの最新情報を日本語で提供する「イノベーション・インサイト」を執筆。また欧州におけるイベント企画・運営も担当。

ラフバラー大学にて国際経営学修士号を取得後、ロンドンの日系企業でEMEA在日本企業の経営ビジネス戦略構築をサポートした経験を持つ。

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