『AI駆動工業テックの英PhysicsX、有名投資家から1.3億ドル超えを調達』、『独Ostrom 、国内スマート・エネルギー強化に向け2,000万ユーロ調達』、『日本郵船、船員向け給与支払いソリューションの独Kadmosを買収』、『Snowcap Compute、超伝導AIチップ開発で2,300万ドル調達』、『メタン排出管理のInsight M、3,000万ドルを調達』、『ブランド向けAI可視化プラットフォームのProfound、2,000万ドル調達』、『EDGNEX、ジャカルタにAI特化型データセンター建設へ』、『InstaPay Technologies、デジタル決済プラットフォームで300万ドルを調達』を取り上げた「イノベーションインサイト:第139回」をお届けします。

英国を拠点とするPhysicsXが、Temasek、Siemens、Applied Materialsなどの著名投資家が参加したシリーズBラウンドで1億3,500万ドルを調達した。2019年設立の同社は、従来の数値シミュレーションに代わり、複雑なシステムや機械の設計、検証、運用によりエンジニアを支援するAIベースのシミュレーション・プラットフォームを開発している。これにより、設計サイクルの短縮やコスト削減だけでなく、あらゆる業界製で品の設計、製造、運用段階の自動化が可能となる。2023年11月のシリーズAラウンド以降、急速な事業拡大により、チームは150人超え、過去2年間で収益も4倍以上に増加したPhysicsXは今後、航空宇宙・防衛、自動車、半導体、材料、エネルギーなどの分野でのプラットフォームの世界的な普及を加速させる予定だ。

ドイツ発クリーンテックのOstromは、蘭エネルギー会社Enecoの投資部門であるEneco Venturesが主導したシリーズBラウンドで2,000万ユーロを調達した。2021年に設立され、家庭用電力の完全な透明性と制御を提供するエネルギー・プロバイダーと位置付けられているOstromの利用者は、月々の費用を定額料金、またはスマートメーターを活用した1時間単位の変動価格制から選択することができ、費用対効果が高く、環境にも優しいエネルギー消費を支援する。またEVや充電器、太陽光発電、蓄電池とも接続し、利用者向けにエネルギーを監視、管理、最適化するためのアプリとともに、これらのエネルギー資産を仮想発電所(VPP)と連携してグリッドサービスも提供する。同社は今回の資金調達により、利用者にスマートメーターを補助金付きで提供、ドイツ国内での事業拡大をさらに進める同時に、顧客のコスト削減に向け、家庭用機器を接続して送電網の電力供給調整を行うVPPを急成長させる計画だ。

日本郵船は、海運業界における金融サービス事業拡大に向け、船員向け給与支払いプラットフォームを世界的に展開するドイツ発Kadmosを買収すると発表した。2019年に設立されたKadmosは、船主や船舶管理会社向けに、より安価で透明性の高い給与支払いプラットフォームを提供しており、すでにMercmarine Seafaring、NSB Group、Lubeca Marineなど40社以上の企業顧客に導入されている。一方、日本郵船も2019年にフィリピンのマニラで「MarCoPay」という金融サービスプラットフォームを立ち上げ、フィリピン人船員やその家族向けに融資や保険を提供してきた。Kadmosの買収は、このMarCoPayのデジタル決済事業をフィリピン以外にも拡大する計画の一環として実施され、日本郵船は今後KadmosのプラットフォームをMarCoPayに組み込み、あらゆる国籍の船員への給与ソリューションを提供する予定だという。


超伝導AIチップを開発するSnowcap Computeが、Playground Global主導、 Cambium CapitalやVsquared Venturesも参加した最新ラウンドで2,300万ドルを調達した。 また、元Intel CEOのPat Gelsinger氏が新たに取締役に就任した。同社は、現在のAIシステムを凌駕しつつ、消費電力を大幅に削減できるチップの実現を目指している。電気抵抗ゼロで動作するこの超伝導チップは、長年冷却に多大なエネルギーを要する点が課題だったが、データセンターの電力需要が急増する中、Snowcapはその可能性に注目している。同社によると、冷却を考慮しても従来比で最大25倍の電力効率を実現できるという。創業チームにはImec、Northrop Grumman、Nvidia、Google出身の科学者や元幹部が名を連ね、最初の商用チップは2026年の完成を目指す。なお、チップには、ブラジルおよびカナダから調達されるニオブチタンナイトライドが使用される予定だ。

エネルギー業界向けにメタン排出管理ソリューションを提供するInsight Mが、 Morgan Stanley Investment Managementの気候変動プライベート・エクイティ戦略「1GT」を通じて3,000万ドルの成長資金を確保した。この戦略は、2050年までに10億トンのCO₂排出削減を目指すもので、温室効果ガスの中でもCO₂の最大80倍の温暖化効果を持つメタン削減は、気候変動対策において即効性の高い手段とされる。2014年設立のInsight Mは、独自の高解像度センサーを搭載した航空機により、メタン漏洩を検出・定量化・修復できる技術を提供。これにより米国および海外の石油・ガス事業者の排出削減を支援してきた。これまでに約1億1,000万トンのメタン排出を防止し、顧客に5億ドル超のガス回収価値をもたらしたとされている。

ブランドがAIの回答内でどう語られるかを可視化・最適化するマーケティング支援プラットフォームのProfoundが、Kleiner Perkins主導し、 NVIDIA投資部門のNVenturesやKhosla Venturesなども参加したシリーズAで2,000万ドルを調達した。同社は、AIが生成するナラティブを分析・調整する「Answer Engine Insights」や、データ分析と実行可能なインサイトを提供する「Agents」などのツールを展開。月間1億件超のAIクエリを処理し、IndeedやMongoDBを含む18ヶ国 hello・6言語の顧客に対応している。初期導入企業の中には、導入後2カ月以内にAI回答内でのブランド露出が25〜40%向上した例もある。今回の調達とあわせて、スタートアップ向けに月額499ドルのセルフサーブ版「Profound Lite」もローンチしたProfoundは今後、エンジニアリングやデータサイエンスの強化、製品開発、対応AIプラットフォームの拡大に注力する。


ドバイに本社を置くグローバル複合企業DAMAC Groupの支援を受けるデジタルインフラ企業であるEDGNEX Data Centers by DAMACが、インドネシア・ジャカルタにおいてAIに特化した次世代型データセンターの建設を発表した。同社にとってインドネシア市場で2件目の展開となる同施設は、東南アジア最大級のAI特化型データセンタープロジェクトの一つであり、将来的なIT容量は144MWに達し、総投資額も23億ドルを見込む。施設には高密度AIラックを導入し、地域における次世代インフラの新たな標準を打ち立てる計画だ。このプロジェクトは、インドネシアにおけるデジタル経済への移行を加速する基盤資産と位置付けられており、アナログからAI主導の強固なデジタル基盤への転換を後押しする。インドネシアは東南アジアでも高成長が期待される市場である一方、デジタルインフラの整備不足、ハイパースケール対応の遅れ、通信遅延といった課題が顕在化している。AI導入の加速により、同国ではスケーラブルかつエネルギー効率に優れたインフラへのニーズが高まっており、本プロジェクトはこうした市場要求に的確に応えるものである。
マレーシア発フィンテックのInstaPay Technologies Sdn Bhdは、300万ドルのシリーズA2ラウンドを完了したと発表した。今回の資金調達により、同社は製品ラインナップと地理的なサービス展開の拡大、技術インフラの強化、さらに国境を越えた決済機能における継続的なイノベーションを推進する方針である。出資者の一社であるACAパートナーズは、同社が初回出資を行ってから約3年間でInstaPayの売上高が10倍以上に拡大し、黒字化を達成した点を高く評価している。InstaPayは、マレーシアおよび東南アジアにおける銀行口座を持たない個人や中小企業を主要ターゲットとしており、取引コストを削減、正式な支払いチャネルへのアクセスを改善するデジタル決済プラットフォームを提供している。同社は2019年に事業を開始し、特に銀行口座を持たない移民労働者層を対象とした給与支払いソリューションとして、電子ウォレットおよびMastercardを提供してきた。そして、低所得労働者の金融アクセスを拡大する代替銀行サービスとしての地位を確立してきた。
