『Climeworks、DAC技術の拡大に向け1.6億ドル超を調達』、『UKイノベーション・エコシステム、最新レポート』、『独Talon.One、ブランド・マーケティング支援ツールで1.1億ユーロ調達』、『Tailor、小売業向けヘッドレスERP構築へ2,200万ドル調達』、『次世代調達プラットフォームLevelpath、5,500万ドル確保』、『汎用ロボット基盤モデルとAIプラットフォーム開発へ、Genesis AIが1億500万ドルを調達』、『シンガポールDayOne Data Centers、日タイ市場に本格進出』、『ベトナムAI Hay、シリーズAで1,000万ドル調達』を取り上げた「イノベーションインサイト:第141回」をお届けします。

CO2回収技術に取り組むスイス発Climeworksが、関連領域における過去最大規模となる1億6,200万ドルの資金を調達した。これにより、2009年創業以来の資金調達総額は10億ドルを超え、同社は炭素除去技術におけるグローバルリーダーとしての地位を確固なものとした。ClimeworksはCO2の直接空気回収(DAC)を専門としながらも、森林再生やマングローブ、バイオ炭、炭素回収・貯留を伴うバイオエネルギー、強化された岩石風化など、幅広い炭素除去ソリューションのポートフォリオも提供し、既にTikTok、H&Mグループ、商船三井、Microsoft、Stripe、British Airways、LEGOなどを顧客に抱えている。今回の調達資金は、コスト削減に繋げるDAC技術のさらなる開発、そして自然ベースおよびハイブリッド・エンジニアリング・ソリューションを含むCO2除去ポートフォリオの拡大に充てられる予定だ。

DealroomがHSBC Innovation Bankingとのコラボレーションで発表した最新レポートによると、英国スタートアップは、2025年上半期に欧州全体で調達されたVC資金の30%にあたる、80億ドル以上の投資を受けたことが分かった。産業別では、それぞれ23億ドルが投入されたヘルステックとフィンテックに資金が集まったと同時に、テクノロジー別でも、AI関連企業が国内VC投資の30%を占め、2025年上半期だけで24億ドルを調達しているという。2025年上半期の大型ラウンドの事例には、創薬AIスタートアップのIsomorphic Laboratories(3月に6億ドル調達)、バイオテックのVerdiva Bio(1月に4億1,100万ドル調達)、フィンテックのDojo(5月に1億9,000万ドル調達)、AI動画生成スタートアップのSynthesia(1月に1億8,000万ドル調達)などが挙げられる。また国内の投資先としてはロンドンが引き続き上位を独占している一方で、ケンブリッジ、オックスフォード、カーディフ、グラスゴーをはじめとするテックハブが上位5位以内にランクインした。これらの最新の数字は、英国が依然として欧州有数のイノベーション・エコシステムを構築していることを示している。

ブランド・ロイヤルティならびにプロモーション・ソフトウェアを通じて、ブランドの顧客獲得・維持を支援するベルリン発Talon.Oneが、1億1,400万ユーロの資金を確保した。2015年に設立されたTalon.Oneは、ロイヤリティ、プロモーション、ゲーミフィケーションを1つのプラットフォームに統合することを目的としたインセンティブ・エンジンを開発している。これにより、Talon.Oneを導入するマーケティングチームは、割引価格の適用、あらゆるロイヤルティ・スキーム、キャッシュバックキャンペーン、ゲーミフィケーションなどのパーソナライズされたプロモーション・プログラムを設計、編成、構築できるようになる。同社は現在ベルリン、ロンドン、ボストン、シンガポールにチームを有し、H&M、Adidas、Sephora、BOSCH、Carlsbergをはじめとする270社以上の顧客を持つ。なお、同社はこの資金を用いて、同プラットフォームの継続的なイノベーション加速、そして米国、欧州、APAC市場における地位強化を推進する意向だ。


小売業向けヘッドレスERPを手がけるスタートアップTailorが、シリーズAで2,200万ドルを調達した。今回の資金は、米国市場での展開強化に加え、日本を含む製品開発とパートナーシップ拡充に充てられる予定だ。Tailorのモジュール型プラットフォームは、ユーザーインターフェースをデータとロジック層から切り離すことで、中堅・大企業が自社に最適化したERPを構築できる仕組みを提供する。これにより、SaaSツールとのシームレスな統合や、社内外のアプリ向けのカスタムUIの構築、クロスシステムのワークフロー連携が可能となる。開発者やAIエージェントが業務ロジックや運用データにプログラム経由でアクセスできる点も特徴だ。共同創業者兼CEOの柴田陽氏は「企業の成長と共に進化するERPをつくる」ことをミッションに掲げており、レガシーなオンプレERPからクラウド型への移行が進む中、拡張性、コスト効率、開発者フレンドリーな選択肢を提供する。同分野ではリアルタイムデータ活用や柔軟性、従量課金モデルへの需要が高まり、中小企業にとっても高度なERP導入が現実味を帯びている。

次世代の調達プラットフォームを開発するLevelpathが、Battery Ventures主導のシリーズBで5,500万ドルを調達した。BenchmarkとRedpointも出資に参加し、今年の売上を4倍に拡大し、CoupaやAribaといった大手が支配する市場の変革を狙う。Levelpathのモバイルファーストのプラットフォームは、AIを基盤に契約データの解析やコスト削減提案などを実現しており、すでにAce Hardware、Amgen、Coupang、SiriusXMなどが利用中だ。調達は人件費に次ぐ企業の主要コストであり、旧式ツールでは「不正な支出」が多発する課題がある中、Levelpathは従業員が積極的に使いたくなる直感的なソフトウェアでこの分野の近代化を目指す。Coupaへの支援実績もあるBattery VenturesのNeeraj Agrawal氏が取締役に加わり、創業チームの実行力を評価している。ZipやOro Labsなどの競合に比べ規模は小さいものの、経験豊富なチームとAI統合、顧客基盤を武器に次の調達プラットフォームの有力候補として存在感を高めている。

汎用ロボット開発を目指す物理AIのグローバル研究所Genesis AIが、1億500万ドルの調達に成功、EclipseとKhosla Venturesが共同でリードし、BpifranceやEric Schmidt氏も出資した。デジタルAIとは異なり、物理AIはロボットに現実世界での認知、推論、行動を人間のように適応的に行わせる技術だ。Genesisは、専門特化型の産業用ロボットと人間の器用さのギャップを埋めるべく、ロボティクス基盤モデル(RFM)と、シミュレーションと実世界のデータ収集を組み合わせたデータ中心のプラットフォームを開発する。人と共存し、動的環境に適応し、複雑な作業を安全に遂行できるロボットの実現がミッションだ。Google、Nvidia、MITなどから集まった精鋭チームが開発を担う。AI搭載ロボットの稼働台数が世界で2,000台未満と言われる中、Genesisは工場、医療、農業、物流など幅広い分野で数兆ドル規模の労働価値を生み出す可能性を見込んでいる。


シンガポールを拠点とし、同国および近隣諸国でITインフラの開発を手がけるDayOne Data Centersは、日本およびタイにおける新規プロジェクトを通じて、アジア全域での事業拡大を加速している。同社は、日本市場において香港の資産運用会社Gaw Capital Partnersと提携し、2027年を目処に東京都西部に40メガワット規模のデータセンターキャンパスを開設する計画である。また、タイでは2026年にバンコク南東部において、総容量130メガワット以上となる大規模施設を段階的に開設予定で、これはタイ国内でも最大級の規模となる見込みだ。なお、このタイのプロジェクトには、今後5年間で総額10億ドル規模の投資が見込まれている。現在、同社はマレーシア南部ジョホール州およびインドネシアのバタム島において、合計150メガワット規模のデータセンターを運営しており、主な顧客には米国およびアジアの大手テクノロジー企業、ならびに地域企業が含まれる。DayOneの積極的な拡大は、アジア太平洋地域におけるデータセンター需要の急増を背景としている。Cushman & Wakefieldによると、同地域の需要は2028年までに年率約32%のペースで成長すると予測されており、これは米国の年率18%を大きく上回る水準である。

AIを活用した知識発見プラットフォームを開発するベトナムのスタートアップAI Hayは、東南アジア市場に特化したベンチャーキャピタルArgor Capitalが主導するシリーズA資金調達ラウンドにおいて、1,000万ドルの資金を調達したと発表した。このラウンドには、既存投資家であるSquare Peg、Northstar Ventures、AppWorks、Phoenix Holdingsも参加しており、今回の資金調達により、同社の累計調達額は1,800万ドルを超えた。今回のシリーズAラウンドは、同社が掲げる「ベトナム国内の1億人に向けて、ハイパーローカルかつインテリジェントでアクセスしやすいAIツールを提供する」というミッションの実現に向けた重要なマイルストーンと位置付けられている。調達資金は、ウェブベースのユーザー体験の強化、教育およびエンターテインメント分野でのプロダクトイノベーションの推進、AIコンパニオンの開発支援などに活用される予定であり、同社のサービスがベトナム国内のデジタルライフにより深く統合されることを目指す。AI Hayは、ベトナムの主要コンシューマープラットフォームを率いた実績を持つ経営陣と、現地エンジニアチームにより設立された企業である。生成AI技術とソーシャルネットワーキング機能を融合させることで、知識探求のあり方を再定義しており、ユーザーは大規模言語モデル、厳選されたローカルコンテンツ、活発なコミュニティおよび専門家から、信頼性が高く文脈に即した回答を得ることが可能となっている。
