『住友商事、英クリーンエネ事業に100億ドル投資』、『アスエネと英Manufacture 2030、Scope3排出削減で連携』、『MOTOR Ai、認知科学型自動運転で2,000万ドルを調達』、『Harmonic、数学的推論AIで1億ドルを調達』、『Centivax、ユニバーサルインフルワクチン開発で4,500万ドル調達』、『BYD、タイ工場で生産9万台を達成 現地製「SEAL 5」を初公開』、『Zhuoyue、新バイオ燃料工場に約9,800万ドル投資』を取り上げた「イノベーションインサイト:第142回」をお届けします。

英国政府は、住友商事との間で新たな協定を締結し、2035年までに75億ポンド(約1.5兆円)規模の対英投資を促進する方針を発表した。投資対象は、洋上風力発電および水素関連プロジェクトを中心とするインフラおよびクリーンエネルギー分野であり、英国の成長戦略における中核領域に位置づけられる。この発表は、企業の対英投資をより円滑にすることを目的とした「Modern Industrial Strategy」の一環として行われたものである。同戦略では、クリーンエネルギーが国家的優先分野として明示されている。住友商事は、これまでに培ってきたエネルギー関連事業の知見を活かし、英国市場における脱炭素化と再生可能エネルギーの拡大に貢献する意向だ。今回の協力枠組みは、今年初めに締結された「日英産業戦略パートナーシップ」および「日英経済・安全保障2+2対話」の具体化としても位置づけられ、両国間の戦略的経済関係を一層深化させるものとなる。

日本のカーボン・アカウンティングプラットフォーム提供企業アスエネと、英国オックスフォード拠点のスタートアップManufacture 2030は、サプライチェーン全体における温室効果ガス排出量、特にScope3の削減加速を目的とした覚書を締結したと発表した。Manufacture 2030は、欧州および北米で存在感を持つカーボン削減プラットフォームを展開しており、企業の脱炭素経営支援に注力している。一方、アスエネは日本国内で広く認知されており、Scope3排出量の可視化と削減支援で多くの実績を有する。両社は、各プラットフォームを統合することで、ユーザー間でのシームレスなデータ連携を実現する予定であり、技術基盤の相互補完を図る。またアスエネは、アジア地域においてManufacture 2030のユーザー企業へのコンサルティングおよびカスタマーサポートを提供する。今後は、エネルギー管理ソリューションの共同展開も視野に入れた協業が進められる見通しだ。

ドイツ・ベルリン拠点のスタートアップMOTOR Aiは、安全性と説明可能性を重視した自動運転技術の開発を加速するため、2,000万ドル(約31億円)のシード資金を調達したと発表した。同社は2017年創業で、既存の大規模データ学習モデルとは異なり、認知神経科学の知見を取り入れた独自の論理モデルに基づくレベル4自動運転インテリジェンスを開発している。この技術は、人間のように「世界の仕組みを理解しながら運転判断を行う」点に特徴があり、行動の理由や背景を内在的に考慮するシステム設計となっている。2025年中には、同社の技術を搭載した車両がドイツ国内の公共交通機関に導入される予定であり、既にルードヴィヒスルスト=パルヒム地域のオンデマンド型自動運転バスや、ゲエストランド市の2026年導入予定のバスプロジェクトでの運用が決定している。今回の資金調達により、MOTOR Aiは自治体との連携強化を図るとともに、欧州各国市場への本格展開を進めていく方針である。


形式的な数学的推論に特化したAIスタートアップHarmonicは、シリーズBラウンドで1億ドルの資金調達を実施した。評価額は約9億ドルに達し、Kleiner Perkinsが主導、Sequoia、Index Ventures、Paradigmなどが参加した。同社は、Robinhood共同創業者のVlad Tenev氏が2023年に設立した企業であり、Lean 4ベースの証明支援ツールを活用した自然言語からの数学的証明変換AI「Aristotle」を開発している。Aristotleは、IMO(国際数学オリンピック)レベルまで含むMiniF2Fベンチマークで90%の成功率を記録しており、自己生成した証明問題を用いた「自己プレイループ」により、自律的な性能向上を実現している。Harmonicは、人間の限界を超える「数学的スーパーインテリジェンス」の構築を目標に掲げており、同技術の応用先として、物理学、工学、セキュリティ、金融など数学依存の産業分野を視野に入れている。現在のところ、現実世界で信頼性・スケーラビリティのある推論AIの実装に最も近づいている企業の一つとされる。

南サンフランシスコを拠点とするバイオテック企業Centivaxは、汎用インフルエンザワクチンの商業化に向け、シリーズA資金調達で4,500万ドルを確保した。リード投資家はFuture Venturesであり、調達資金は同社の主力候補であるユニバーサルインフルエンザワクチンを8ヶ月以内に第1相臨床試験へ進めるために活用される。Centivaxの技術は、急速に変異する病原体に対して広範囲にわたる免疫応答を誘導する独自の免疫工学プラットフォームを基盤としている。前臨床段階では、H5N1型を含む複数の株に対する交差保護が確認されており、対象市場はグローバルで70億ドル規模とされている。同社の技術は、インフルエンザ以外にもHIV、RSV、マラリア、がん、神経変性疾患への応用が期待されており、開発チームにはDistributed Bio出身のCEOジェイコブ・グランビル博士と、14種類の承認済みワクチン開発を手がけたCMOジェラルド・サドフ博士が参画している。加えて、ゲイツ財団、CEPI、NIH、米軍などから総額2,400万ドル超の非希薄化資金(助成金)を獲得しており、支援体制も盤石である。

米Intelの社内部門として14年間活動してきた3Dステレオ画像技術企業RealSenseが、スピンアウトにより独立企業となり、シリーズAラウンドで5,000万ドルの資金調達を実施した。出資にはIntel Capitalなどが参加。RealSenseは、赤外線強化ステレオカメラを用いた3次元認識技術に強みを持ち、ロボットやドローン、さらには顔認証や物流などの分野で活用されている。現在は3,000社超の顧客基盤を持ち、ロボット工学やアクセス制御における応用が拡大している。新CEOにはIntel出身のNadav Orbach氏が就任し、独立により営業や事業展開の自由度を大きく高めた。とりわけ、食品追跡(例:Chipotle)や公共空間における人間・ロボットの安全なインタラクションなど、新たな市場機会への対応が期待されている。


中国の電気自動車大手の比亜迪(BYD)は、タイ東部ラヨーン県にある現地工場の稼働1周年を迎え、新エネルギー車(NEV)の累計生産台数が9万台に達したことを発表した。記念すべき9万台目の車両は、タイサッカー協会会長である Nualphan Lamsam氏に引き渡され、同社幹部および地元行政関係者が出席する式典にて納車された。式典では、現地生産による初のプラグインハイブリッド車(PHEV)「SEAL 5」も公開された。同モデルは、東南アジア市場でのプレゼンス拡大と、タイをEV製造の地域ハブと位置づけるBYDの中長期戦略を象徴するものとなっている。2024年に操業を開始したラヨーン工場は、現在6,000人以上の従業員を抱え、年間最大15万台の生産能力を有する。BYDは2022年にタイ市場へ参入して以来、急速に販売網を拡大し、現地で有力なEVブランドの一角を占めるまでに成長している。

中国の大手バイオディーゼルメーカーZhuoyue New Energyは、タイのチョンブリー県において、総額9,760万ドル(約153億円)を投じた大規模バイオ燃料製造施設の建設計画を明らかにした。本プロジェクトは2段階での開発を予定しており、第1段階では年間30万トンのバイオディーゼルを生産し、第2段階ではさらに10万トンの能力を追加。加えて、水素化植物油(HVO)および持続可能な航空燃料(SAF)への対応も視野に入れる。同社は、タイ投資委員会(BOI)の支援を含む両国政府からの必要な承認をすでに取得済みである。本件は、東南アジア市場におけるZhuoyueの低炭素燃料供給体制の強化と、国際展開の一環として位置づけられる。Zhuoyueは、使用済み食用油などを原料とするバイオディーゼルの中国最大の輸出企業であり、シンガポールでは船舶用燃料向け製造施設の建設が最終段階にある。EUによる対中バイオ燃料製品への関税措置など、国際貿易環境が変化する中でも、同社は一貫して供給網の多角化と市場適応に取り組んでいる。
