『 EC、長期予算において研究・イノベーション資金を倍増』、『定額制モデルで太陽光発電普及を目指すSunsave、1.3億ユーロを調達』、『独Q.ANT、AIと高性能計算向けの光子プロセッサで6,200万ユーロ調達』、『Firestorm Labs、移動型ドローン製造拡大に向け4,700万ドル調達』、『Radical AI、次世代材料研究の事業化加速へ5,500万ドルの資金確保』、『Recurrent Energy、ケンタッキー州での94MW施設建設で2.6億ドル調達』、『NEC、Singtelなど9社と東アジアを縦断する光海底ケーブル供給に向け提携』、『タイ発生成AIのSpacely AI、シード資金を調達』を取り上げた「イノベーションインサイト:第143回」をお届けします。

欧州委員会は、2028年から2034年までの期間を対象とした研究・イノベーションプログラム「Horizon Europe」の予算として、175億ユーロを提案すると発表した。これは、総額2兆ユーロにのぼる2028年から2034年までの新たなEU長期予算の一部で、現在の2021年から2027年までの予算€93.5億ユーロから大幅な増加となる。そして、「最先端研究」(440億ユーロ)、 「共同研究」(758億ユーロ)、 「イノベーション」(387億ユーロ)および「研究政策」(162億ユーロ)の4つのカテゴリーに充てられるという。Horizon Europe自体は独立した取り組みであるものの、「共同研究」の資金は、新たに提案された欧州競争力基金(European Competitiveness Fund:ECF)によって管理されることになる。ECFの総予算は409億ユーロで、そのうち175億ユーロがHorizon Europeに、また234億ユーロがその他資金調達スキームに配分される。なお、この提案は加盟国間で議論され、欧州議会での承認が必要となる。

英国で家庭向け太陽光発電の普及を目指すSunsaveが、株式と債務の組み合わせで1億3,000万ユーロの資金調達を行なった。英国世帯の70%が太陽光パネルへの関心を示していると言われているものの、1万ユーロを超える高額な初期費用を理由に、実際に設置している家庭は約5%にとどまっている。そんな中、2022年設立のSunsaveは、初期費用を一切必要とせず、月額79ユーロの固定料金のみで利用可能なサブスクリプションモデルで太陽光パネルを提供し、この問題の解決に取り組んでいる。一方で、所有権を希望される顧客向けには、設置時にシステム全体の所有権を取得できるファイナンス・オプションも提供している。多くの顧客は、年間でサブスクリプション価格よりも高い節約効果を実感しており、場合によっては年間791ユーロを超える節約を実現しているという。なお、今後はEV充電器、ヒートポンプ、また家庭のエネルギー使用を最適化し、電力網のバランスを保つためのソフトウェアツールなど、新たなサービスを拡充していく予定だ。

シュトゥットガルトを拠点に、伝統的なトランジスタベースのシステムに代わる光計算ソリューションを開発するQ.ANTが、imec.xpandなどが出資に参加したシリーズAラウンドで6,200万ユーロの資金調達を完了した。電気の代わりに光を用いて計算を行うことは、AIと高性能計算に必要とされるエネルギー消費を大幅に削減すると同時に、その性能も向上させると期待されている。実際のテスト結果によると、エネルギー効率は最大30倍、性能も50倍向上し、データセンターの容量は最大100倍増加する可能性があるという。2018年に世界最大規模の板金機械メーカーであるTRUMPFからスピンオフして設立されたQ.ANTは現在、IMS CHIPSとの提携のもと自社製のチップパイロットラインを保有しており、そのソリューションは早期アクセス評価に活用されている。今回の調達資金は、光プロセッサの開発・生産の拡大、そして米国市場への進出推進に充てられ、増加する顧客の導入ニーズに迅速に対応する方針だ。


移動型ドローン製造のFirestorm Labsが、4,700万ドルのシリーズA資金を調達した。同ラウンドは、New Enterprise Associatesが主導し、Booz AllenやLockheed Martin Venturesが参加。さらにJPMorgan Chaseから1,200万ドルのベンチャーデットも加わった。Firestormが開発する「xCell」は、コンテナ型の自動製造ユニットで、現地でドローンやペイロード、交換部品などを迅速に生産できるのが特長だ。1ユニットあたり月50機の製造が可能で、偵察、攻撃、電子戦など用途に応じた構成変更も現場で対応できる。サンディエゴを拠点とする同社は、米空軍との1億ドル規模の契約も抱えており、ミッション計画ツールやオンボード・コンピューティングを統合した、次世代型ドローンエコシステムの構築も進めている。インフラ制約がある現場でも対応できる柔軟性とスピードが評価されている。

材料開発と製造プロセスをAIで変革するRadical AIが、 RTX Ventures がリードし、 NVenturesなども参加した最新のシードラウンドで5,500万ドルを調達した。Radical AIは、理論計算や機械学習、実験データ、ロボット実験設備を一体化した独自のプラットフォームを開発。従来の試行錯誤に頼った方法ではなく、AIが素材の特性を予測し、新しい組成を設計することで、最適な製造プロセスを導き出す。文献やシミュレーション、実験結果を統合的に分析し、人間の想像を超える新素材を発見できるのが強みだ。宇宙、再生エネルギー、交通、バイオテック、半導体といった素材依存度の高い産業において、ブレイクスルーを加速させることが期待されている。なお、今回の調達資金は、AIプラットフォーム開発やチーム拡充に充てられる。

Canadian Solar傘下のRecurrent Energyが、米ケンタッキー州ハリソン郡で進めている太陽光発電プロジェクト「Blue Moon Solar」に向けて、U.S. Bankから2億6,000万ドルのプロジェクトファイナンスと税額控除型出資を獲得した。この発電所は出力94MWで、2023年3月に着工、2026年の稼働を予定している。年間で約1万4,000世帯分の電力をまかなえる規模となる同施設は、全体で1,581エーカーの敷地のうち、651エーカーを最終的に活用。建設期間中には数百人規模の雇用が創出され、地域には約240万ドルの税収(うち140万ドルはハリソン郡)が見込まれる。今回の案件はRecurrentにとってケンタッキー州での初プロジェクトとなり、太陽光発電の導入が遅れる同州(全米38位)の導入拡大にも寄与する。稼働後は同社が施設を所有・運営し、グローバルでの太陽光発電容量(累計12GW)および蓄電プロジェクト(累計6GWh)に加わるという。


Singapore Telecommunications(Singtel)をはじめ、主要な通信会社およびテクノロジー企業など9社からなるコンソーシアムが、新たな8,900kmの海底ケーブルシステム建設に向けて、NECとシステム供給契約を締結した。この東アジアを縦断する大容量光海底ケーブル「Asia United Gateway East(AUG East)」は、地域全体の帯域幅、ネットワークの耐障害性、およびデジタル接続性を向上させることを目的に、日本、台湾、韓国、フィリピン、マレーシア、インドネシア、ブルネイ、シンガポールを結ぶもので、2029年末までに完成を目指している。最新の光ファイバー技術を採用して建設されるAUG Eastは、高密度光ファイバーペアシステムを採用することで、飛躍的な帯域幅容量の提供を可能にする。また既存の海底ケーブルシステムを補完する追加の帯域幅を提供することで、デジタルや生成AI技術への強い投資意欲を持つアジアのAIインフラ・ニーズにも対応するという。なお、テクノロジー調査会社Omdiaによると、AIアプリケーションからの世界的なデータ通信量は、2031年までに従来のアプリケーションからのを通信量を上回る見込みだという。

タイを拠点に生成AIに取り組むSpacely AIが、SCB 10Xから受けたプレシード投資に続き、PropTech Farm Fund IIIをリードインベスターとするシード資金調達で100万ドルを調達した。Spacely AIは、建築家の創造性を最大限に引き出し、コストを削減しながらより多くの案件を獲得することを支援する。同社のクラウドスイートは、室内外空間のAIレンダリング、使いやすい画像編集ツール、AIバーチャルステージング、自動化された3Dモデル生成などを提供する。Extension Warehouse経由でSketchUpと完全に統合されているこのプラットフォームは、主要なCADツールへの対応を拡大中で、今後より多くのユーザーが慣れ親しんだソフトウェア内で作業できるようになる。同社は、このシード資金を活用してSpacely AIの2Dから3Dへの次世代自動化エンジンをリリースし、手作業によるコンセプト作業の最大80%を削減をと目指すとともに、米国市場への展開、そしてグローバルパートナーに販売とマーケティングのリソースを提供する。
