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イノベーションインサイト:第146回

イノベーションインサイト:第146回

『スウェーデン発Aira、住宅用暖房の電気化加速に向け1.5億ユーロ調達』、『米Tesla、英国電力小売市場参入へ』、『ピーナッツアレルギー中和に挑むMabylon、3,180万ユーロを調達』、『Apreo Health、肺気腫向け人工肺スキャフォールドの開発に向け1.3億ドルを調達』、『次世代サプライチェーンインテリジェンスを手がけるLyric、4,350万ドルを確保』、『Capacity、コンタクトセンター向けAI支援プラットフォーム拡大へ』、『三井住友銀行やJICAら、ベトナムVPBankへ3.5億ドル融資』、『マレーシアNaluri、デジタルヘルスで500万ドル調達』を取り上げた「イノベーションインサイト:第146回」をお届けします。

スウェーデン発Aira、住宅用暖房の電気化加速に向け1.5億ユーロ調達

ストックホルムを拠点に住宅向けヒートポンプ・ソリューションを開発するAiraが、シンガポールのTemasekStatkraft VenturesNesta Impact Investmentsなどから15,000万ユーロの株式調達を実施した。2023年設立のAiraは、製品設置からメンテナンスまでを網羅した完全統合型サービスのサブスクリプションモデルでヒートポンプを提供することで、住宅用暖房の電気化加速を支援している。スウェーデンで設計された後、ポーランドで製造されているこのヒートポンプには、15年間の製品保証も付帯する。同社はスウェーデンだけでなく、ドイツ、イタリア、英国にも市場展開しており、年間売上高が年間2億ユーロに達しているという。今回の調達資金により、Airaはスウェーデンの研究開発センターへの投資、ポーランド工場での生産能力拡大、住宅とエネルギー分野における戦略的パートナーシップを通じた既存市場内でのプレゼンス強化に注力する予定だという。 

 

 

 

 

米Tesla、英国電力小売市場参入へ

EV大手Teslaが、間もなく英国電力小売市場に参入し、British Gas、Octopus Energy、E.ONどとの競争に挑むという。同社は、英国ガス・電力市場局のエネルギー部門規制機関であるOfgemに対し、電力供給免許の取得を申請しているOfgemの決定には最大9ヶ月かかる可能性があるものの、承認されれば今後1年以内にイングランド、スコットランド、ウェールズの家庭や企業に電力を供給できるようになる同社は米テキサス州でも同様のモデルを展開しており、テスラのEVPowerwall家庭用バッテリーを所有するユーザーは、車を低コストで充電できるだけでなく、テキサス州の電力網を支援したことに対する報酬を受け取ることができる。英国における事業拡大の重要な一歩と期待される同新事業「Tesla Electric」は、EVと家庭用蓄電池と密接に連携し、家庭の光熱費削減を実現する。なおTesla2020年に電力発電事業者としてのライセンスを取得し、英国エネルギー市場への参入を開始している。 

 

 

 

ピーナッツアレルギー中和に挑むMabylon、

3,180万ユーロを調達

バイオテックのチューリヒ発Mabylonは、アレルギー、神経変性疾患、炎症の治療にヒト抗体の可能性を応用するため、Rocheの元経営陣および取締役会メンバーを主とする複数の既存投資家から3,180万ユーロを調達した。2015年に設立されたMabylonは、非常に高い需要を持つピーナッツアレルギー中和に貢献する抗体の開発を進めており、今年末までに第1相臨床試験2027年までに第2相臨床試験完了を予定している。この資金調達により、同社はピーナッツアレルギー治療法の臨床的有効性確認段階(臨床試験の概念実証)を達成するだけでなく、ブナ花粉アレルギー(2027年に第1相臨床試験を予定)、草花粉アレルギー、またその他果物やナッツアレルギーに関するプログラムの開発も進めていく方針だ。 

 

 

 

 

Apreo Health、肺気腫向け人工肺スキャフォールドの開発に向け1.3億ドルを調達

重度の肺気腫に対する新たな治療法の開発を進めるApreo Healthが、Bain Capital Life SciencesNorwestが共同リードするシリーズBラウンドで13,000万ドルを調達した。同社は、気管支鏡を用いて体内に留置される自己拡張型のインプラントを開発することで、ダメージを受けた気道を広げ、呼気で排出されずに肺内に残ってしまう空気を減らす。これにより、肺の過膨張を改善し、呼吸困難の軽減を目指す。オーストラリアと欧州で実施された初期のヒト臨床試験では、60名の被験者において、6ヶ月後の呼気後肺容量が平均750mL減少。インプラントの成功設置率は92.4%、肺機能や運動能力、生活の質にも改善が見られた。肺穿孔といった他治療法でよく見られる合併症は確認されず、肺炎が10%、COPD悪化が5%の割合で報告された。このデバイスは2024年に米FDAのブレークスルー指定を受けており、肺組織を切除せず、病変のパターンに左右されない新たなアプローチとして期待されている。2021年に医療系インキュベーターThe FoundryからスピンアウトしたApreoは、Zephyrバルブの開発経験を持つ創業メンバーによって設立されており、より安全で効果的な治療法の提供を目指している。 

 

 

次世代サプライチェーンインテリジェンスを手がけるLyric、4,350万ドルを確保

次世代のサプライチェーンインテリジェンスを提供するLyric(旧社名:ChainBrain Inc.)が、Insight Partners主導のシリーズBラウンドで4,350万ドルを調達した。Primary Venture PartnersNewBuild Venture Capitalも参加している。Lyricが提供する「Lyric Studio」は、在庫管理や需給予測、物流計画などを支援するAI搭載のコンポーザブル(再構成可能)プラットフォーム。データプラットフォームとの連携性が高く、非エンジニアのチームでも使える「体験レイヤー」、AIアルゴリズムライブラリ、ワークフロービルダーなどを備えている。サービスは提供開始から18で収益は500%以上成長、Mondelēz Internationalなどフォーチュン500企業も導入している今後はプロダクト開発をさらに加速し、再利用可能なロジックモジュールや、シミュレーション自動化実験機能を強化していく計画だ。「もはや、固定されたソフトウェアではなく、変化に適応できるプラットフォームが求められている」と語る同社は、柔軟性とインテリジェンスを兼ね備えた基盤で、現代の複雑化するサプライチェーン課題に挑む。 

 

 

 

Capacity、コンタクトセンター向けAI支援プラットフォーム拡大へ

コンタクトセンター向けにAIを活用した自動化プラットフォームを提供するCapacityが、9,200万ドル超の資金を新たに調達した。あわせて、音声AIや品質管理の強化を目的に、Call CriteriaおよびVerbio Technologies2社を買収した。 同社はすでに年商6,000万ドルで黒字化を達成しており、2万社以上の顧客企業に、収益改善コスト削減顧客満足度向上を支援するツールを提供している。 買収したCall Criteriaは、生成AIと音声分析を組み合わせて、コンプライアンスやコーチング、オペレーター評価の自動化を行う。一方、スペインバルセロナ拠点のVerbioは、自然な音声でスケーラブルな対話を実現する「インテリジェント音声バーチャルエージェント」を展開している。 これらの技術を取り込むことで、Capacityはマルチチャネルでの自動応答やパーソナライズ対応をさらに強化する一方、有人対応の負担を減らし、顧客体験の質を高める狙いだ。今回の買収により同社のグローバルチームは約250名に拡大。現代のコンタクトセンター運営における包括的なAIソリューションプロバイダーとしての存在感を強めている。

 

 

 

三井住友銀行やJICAら、ベトナムVPBankへ3.5億ドル融資 

三井住友銀行、 JICA、カナダの開発金融機関FinDev Canada英国の政府系金融機関 British International Investment BIIおよびオーストラリアの豪州輸出金融公社EFA)は、ベトナムのVPBankに対し、5年間で総額3億5,000万ドルのシンジケートローンを共同組成した。本融資は、社会金融、グリーン金融、重要インフラ戦略を支援し、ベトナムにおける包括的な経済発展と環境改善を後押しするもの。そして、ベトナム企業とグローバルなサプライチェーンおよび国際市場を結びつける機会を創出し、特に投資元となっている国々において、現地企業や投資家、ネットワークと強い連携を維持することを目指す。FinDev Canadaは7,500万ドルを拠出し、そのうち少なくとも40%を気候関連プロジェクトに、さらに40%を女性経営の中小企業向けに充当する。これらの資金はすべてジェンダーレンズ投資基準を満たす「2Xチャレンジ」の要件を充足しており、包括的成長への強固なコミットメントを示している。加えて、女性経営企業の国際展開を支援し、重要インフラ整備を通じて生活の質の向上に寄与する。本案件は、ベトナムの合弁商業銀行による調達としては最大規模の多機関融資の一つとして、国際的ベストプラクティスの導入を通じベトナム企業の地域・グローバルサプライチェーンへの統合促進を図る。 

 

 

マレーシアNaluri、デジタルヘルスで500万ドル調達 

マレーシア拠点のデジタル従業員健康・ウェルネスプロバイダーNaluriは、500万ドル資金を確保し、シリーズBラウンド計調達額は1,400万ドルに達した。本ラウンドはTELUS Global VenturesのPollinator Fund for Goodが主導し、既存投資家である住友商事アジアおよびM Venture Partners参加した。調達資金は、1年以内の収益化達成およびフィリピン・ベトナム市場への進出に重点的に投資される予定Naluriは、テクノロジー、専門的コーチング、臨床的知見を組み合わせた統合型デジタルヘルスプログラムを提供し、メンタルヘルス改善、慢性疾患管理、予防医療を支援している。また、独自のメンタルヘルスデータセットと医療経済モデルにより、健康改善効果を定量化する分析機能を雇用主や保険会社に提供している。現在、同社は銀行、保険、エネルギー、通信、物流、専門サービスなど多様な業種の企業顧客を持ちインドネシアおよびマレーシアで強固な事業基盤を築いている一方でシンガポールやタイにも市場展開している。さらに、TELUS Healthとの新たな商業提携により、8つの地域市場で従業員支援プログラムを提供し、事業拡大を加速させる方針 

 

 

 

 

植木 このみ
About the Author

植木 このみ

オックスフォード本社を拠点に、日本ならびにアジア大手企業を対象としたマーケティング事業を統括する。2020年より海外エコシステムの最新情報を日本語で提供する「イノベーション・インサイト」を執筆。また欧州におけるイベント企画・運営も担当。

ラフバラー大学にて国際経営学修士号を取得後、ロンドンの日系企業でEMEA在日本企業の経営ビジネス戦略構築をサポートした経験を持つ。

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