『英Hubber、都市型EV充電ソリューションで6,960万ユーロを調達』、『建設業界におけるAI変革推進へ、Plancraftが3,800万ユーロを調達』、『欧州規制、2025年後半の展望』、『Aalo Atomics、小型原子炉とデータセンターの同時建設で1億ドル調達』、『Squint、大手メーカーの製造現場を支えるAIソリューションで資金調達』、『Citizen Health、患者に寄り添う医療支援サービスの展開で3,000万ドル調達』、『Waterhub、インドネシア全土で持続可能な飲料水アクセス拡大へ』、『シンガポールSUNRATE、中国で決済事業免許を取得』を取り上げた「イノベーションインサイト:第147回」をお届けします。

ロンドンを拠点とするHubberが、商用車向けの都市型EV充電ソリューション開発に向け、6,960万ユーロの株式資金調達を行った。テスラUKのスーパーチャージャーチーム元メンバーによって2024年に設立されたHubberは、利用頻度が高く、より頻繁に充電する必要があるタクシー、ライドシェアサービス、配送用バンなどの車両向けに大規模な充電ハブを構築している。同社によると、特にタクシーは個人車両の5倍の頻度で充電しなければならず、高速EV充電インフラへのアクセスが重要になるという。そして今週、Hubberにとって初となる施設が、ロンドン南部のフォレストヒルにオープンする。RAW Chargingが運営する同施設には12のEV充電ベイが設置され、そのうち3基は150kW、3基は300kWのデュアルヘッド充電器となるという。なお、同社は新たな調達資金を活用し、英国主要都市に30の高出力充電ハブを設置し、総計100MWの送電容量を整備する計画だ。

ハンブルク発SaaSスタートアップのPlancraftが、最新のシリーズBラウンドで3,800万ユーロを調達した。2020年設立のPlancraftは、塗装、左官工事、屋根工事、大工作業など建設業界における作業プロセスのデジタル化を支援するソフトウェアソリューションを提供している。これは職人向けに顧客対応、カスタム見積書の作成、業務の最適化を可能にするAIエージェントで、手間のかかる建設管理業務を代行するもので、すでに20,000人以上に活用され、彼らの作業時間を週平均8時間ほど節約しているという。2024年6月のシリーズAラウンド以来、Plancraftは従業員数を40人から100人を超える規模に倍増させ、ドイツ以外でもオーストリア、オランダ、イタリアにチームを有している。新たな資金は今後、建設業界のルーティーン業務をさらに効率的に処理するためのAIツール開発、そして新たな市場におけるチーム拡大推進に充てられる。

2025年に、欧州委員会(EC)は数多くの政策イニシアチブの策定に取り組んできたが、今年後半にはどのような展開が予想されるだろうか。まず、ECは7月に2027年以降のEU予算と次期のフレームワークプログラム(FP10)を提案し、9月と12月に議論と見直しの機会が予定されている。次に、欧州でも重要な役割を果たすAIに関して、第3四半期にはECが「AI活用戦略(Apply AI strategy)」を推進し、AIの新たな産業利用を促進する上、11月にはEUが「欧州AI研究評議会」(RAISE)を設立し、AIの開発と応用に取り組む研究者への支援を強化する。さらにスタートアップ向けには、EU域内での迅速な事業拡大支援を目的に、破産法、労働法、税法に関する一連の規定「第28の制度」を策定中で、2026年前半に改定が予定されている。最後に、11月末に次期3年間の予算が決定される予定であることから、欧州宇宙機関(ESA)にとっても今後の数ヶ月間は重要な時期となる。


小型原子力リアクターを開発するテキサス州オースティン発Aalo Atomicsが、Valor Equity Partnersが主導し、NRG Energyや日立ベンチャーズを含む十数社の投資家が参加したシリーズBラウンドで1億ドルを調達した。同社は、初号機となる小型原子炉「Aalo-1」を2026年夏にアイダホ国立研究所で稼働させる予定。Aalo-1は、5基の小型リアクターを1基のタービンに接続する「Pod」と呼ばれる構成で、50MWの出力を実現だ。このリアクターは、従来の原子力発電のような長期化・遅延の課題を克服し、迅速にスケーリング可能な新しい形の原子力技術として注目を集めている。将来的には、このPodを数千単位で展開し、天然ガスや太陽光と競争可能な1kWhあたり3セントというコストでの電力供給を目指す。また、試験運用としてプロトタイプ炉に併設されるデータセンターも計画中で、ビッグテック企業の原子力への関心の高まりを反映している。クリーンでスケーラブルな電力供給を求める大規模クラウド事業者やエネルギー需要の急増に対応する手段として、Aaloは新たなモジュール型原子力発電の担い手になる可能性を秘めている。

製造現場などで働く現場スタッフに対し、機械の修理や操作をAIで支援するプラットフォームSquintが、最新のシリーズBラウンドで4,000万ドルを調達した。リード投資家はThe Westly GroupとTCVで、企業評価額も約2億6,500万ドルに達した。Squintは、従来の紙マニュアルや熟練技術者に頼る作業を、スマートフォン上の視覚的ステップバイステップ・ガイドに置き換えることで、産業現場の知識継承と効率向上を実現する。もともとはSplunkの社内アイデアから生まれたこのサービスは、製造業界が抱える人材の入れ替わりという構造課題に対処するために設計されており、新人でもすぐに戦力になれるよう、リアルタイムでのナビゲーションを提供する。すでにPepsiCo、Ford、Nestlé、Colgate-Palmolive、Volvo、Siemensなど多数の大手企業が導入。契約は拠点単位でのエンタープライズ契約形式を採用している。今回の資金調達を受けて、今後は物流やフィールドサービス分野への展開も視野に入れており、長期的には一般消費者向けにも展開し、「修理マニュアルのいらない時代」をつくることを構想しているという。

一人ひとりの患者に寄り添った医療支援をAIで実現するCitizen Healthが、3,000万ドルのシリーズA資金を調達した。2023年の創業以来、その累計調達額は4,400万ドルとなった。同社が開発するのは「AI Advocate」と呼ばれる患者支援ツールで、特に希少疾患を抱える患者に向けて、診療記録の解釈、症状の記録、同じ病気を持つ患者との交流、通院管理などをサポートを提供する。同プラットフォームには臨床データ、遺伝子情報、画像データ、患者報告アウトカム(PRO)などが組み込まれており、よりパーソナライズされた医療支援を可能にする。初期版は2025年第3四半期のリリースを予定。今後はエンジニアやプロダクト開発者、デザイナーの採用を進めると同時に、製薬会社、政策立案者、患者団体との連携も深めていく。TeleRare Healthなどの競合やグローバル製薬企業の取り組みが広がる中で、希少疾患領域におけるデジタルヘルスのイノベーションに対する期待が一段と高まっている。


ろ過システムを通じて清潔かつ手頃な価格な飲料水を提供するインドネシア発Waterhubは、国内全土での事業拡大を目的にシード資金を調達した。同社によると、本ラウンドにはArchipelago VCが主導し、The Radical Fundが参加した。調達資金は機械生産能力の増強、チーム拡大、研究開発の推進に充当され、ろ過技術と業務効率の向上を目指す。Waterhubは、東南アジアが2030年までに水需給の40%不足に直面するという危機認識を背景に、地域的な成長機会を見出している。その戦略として、ボトル飲料水メーカーとの提携を含むパートナーシップ強化を優先し、普及加速を図る方針である。

シンガポールを拠点とする決済・財務管理プラットフォームのSUNRATEは、深セン上場企業Transfar Group傘下のTransfar Payを100%買収し、中国での決済事業免許を取得したと発表した。これによりSUNRATEは、成長著しい市場の一つである中国へのアクセスを拡大することになる。加えて、シンガポール、香港、英国、インドネシアなど既存の主要市場での規制登録体制をさらに強化し、今後も他法域での登録を順次進める計画だ。2016年に設立されたSUNRATEは、独自のプラットフォームと広範なグローバルネットワーク、堅牢なAPIを活用し、190ヶ国以上で企業の多国籍展開を支援してきた。またすでにCitibank、 Standard Chartered、Barclays、J.P. Morganなどの国際金融機関とも提携を行なっている。
