『日本とインド、経済とテクノロジーでの協力強化で合意』、『OpenAI、1ギガワット規模のデータセンター建設へ』、『スイス、透明性の高い多言語言語モデルApertusを開発』、『パナソニック、ヒートポンプ生産能力拡大でチェコ工場に大型投資』、『Debut、AIによる成分開発を加速しフォーミュレーション事業拡大へ2,000万ドルを調達』、『Reframe Systems、プレハブ建設向けマイクロファクトリーのスケールアップに向け2,000万ドルを確保』、『シンガポールのBluente、Informed Ventures主導で150万ドルを調達』、『シンガポールのOriggin Ventures、福岡拠点に3,000万ドルファンド設立』を取り上げた「イノベーションインサイト:第149回」をお届けします。

先週、インドのモディ首相の訪日を受け、同国と日本は安全保障、経済、クリーンエネルギー、人的交流などの分野における協力強化で合意した。今後10年に向けて策定されたロードマップの焦点は、投資、イノベーション、経済安全保障、環境、技術、健康に当てられ、日本からの10兆円の民間投資も約束された。両国はまた、日本の技術とインドの人材という互いの強みを活用し、次世代の課題に対して相互に支援し合うことの重要性を強調した。特に理工系をはじめとしたインドからの優秀な人材により、日本の経済成長に繋げたい考えだ。一方で、モディ首相も、すでに成功を収めている自動車業界での両国間の連携を強調した上で、バッテリー、ロボット工学、半導体、造船、原子力など、幅広い分野での協力関係を期待し、日本企業のインドへのさらなる投資を通した協力加速を訴えた。

OpenAIが、AIサービス運営に必要となるインフラ拡大に向けた取り組みの一環として、インドに大規模なデータセンターを建設する計画を進めている。昨年12月に発表されたCRISILの報告書によると、組織がクラウド・ストレージへの投資を拡大するにつれて、デジタル化が進むことを主な要因として、インドのデータセンター容量が2026-27年までに2~2.3GWへと倍増以上すると予想されている。このOpenAIのデータセンターは、少なくとも1ギガワットの容量を誇り、インド国内最大級の施設となる見込みだという。これにより、同社はデータ移転に関する懸念を持つことなく、同国内で産業規模のAIサービスを提供できるようになる。OpenAIはすでに2025年末までにニューデリーに初となるインド拠点を開設する計画を発表しており、この急成長市場における大幅な拡大を進めている。この動きは、インドが米国に次いで世界で2番目に大きなChatGPTユーザー基盤として台頭する中で発表されたもの。今年7月にはGoogleが同様に、インド南部のアンドラ・プラデシュ州で1ギガワットのデータセンターとその電力インフラを開発するため、60億ドルを投資すると表明したばかりで、米国テック大手のインド投資が立て続いている。

パナソニックは、欧州市場向けヒートポンプ生産能力の大幅拡張に向け、3億2,000万ユーロを投じた拡大工事を終え、チェコ・ピルゼンにある「ギガファクトリー」にて新棟の稼働を開始した。これは、近年で欧州の冷暖房分野における最大規模の製造投資の一件となる。拡張された施設は、大気中の熱を水へ換えるヒートポンプ・ソリューションにおける欧州主要生産・研究開発拠点として機能し、2030年までに年間生産能力が140万台に達する見込みだという。同社は、2030年までに3000万台の新規ヒートポンプを設置するという欧州委員会の方針をに伴い、ガスボイラーから電気式暖房への転換を進めるEU内で拡大する住宅用・商業用ヒートポンプの需要に対応したい考えだ。主要事業を欧州に移管することで、同社はサプライチェーンの混乱やアジアにおける地政学的緊張の高まり、さらに輸入品に関連する排出量への監視強化といったリスクをヘッジすると同時に、欧州クリーン暖房市場における先駆的企業としての地位確立を目指す。

スイスは、ChatGPTやLlama、DeepSeekなどの代替となる国家規模の大型言語モデル(LLM)を立ち上げ、AI競争に参入した。EPFL、チューリッヒ工科大学、スイス国立スーパーコンピューティングセンター(CSCS)が共同開発したApertus LLMは、スイス初の大規模・オープン・多言語言語モデルとして公開された。これは透明性と多様性を追求する生成AIにおける画期的な成果となった。科学研究者や商業分野向けに、より安全でアクセスしやすく設計されたこのAIシステムは、研究者、プログラマー、スタートアップ、公共部門などがApertusのコピーを自社のサーバーにダウンロードし、プロジェクトを構築することで、自身のデータを管理し続けることができる。またデータセキュリティに重点を置いていることから、国内の科学者や産業界から歓迎されているApertusは、すでに医療、教育、気候などのあらゆる分野のプロジェクトで採用されている。

AIを活用した成分開発に取り組むDebutは、Fine Structure Venturesが主導し、EDBI、Wealthberry、L’OréalのBOLDファンド、GS Futures、Sandbox Industries、Material Impactなどが参加する資金調達ラウンドで2,000万ドルを調達した。今回の資金は、エイジングに関わる14の生物学的因子をターゲットにしたバイオ成分の開発と、米国・アジア市場における事業拡大に充てられる。Debutのプラットフォームは、500億以上の分子をスクリーニングし、これまで未活用だった化学空間の99.999%にアクセス。肌の健康と長寿に寄与する成分を効率的に発見する。独自に構築した肌の健康に関するデータセットは99%という高い一貫性を実現しており、一般的な公開データ(85%)よりも高精度な予測を可能にしている。CEOのジョシュア・ブリトン氏は、Debutの目指す方向性について「既存の天然成分をなぞるのではなく、まったく新しい化学的構造を創り出す」と述べている。同社はまずシンガポールからアジア展開を開始し、現地ニーズに合わせたカスタム成分を開発するため、美容ブランドとの連携を強化する方針だ。市場全体が慎重な姿勢を見せるなかでも、Debutはスケーラブルなバイオ技術をもとに、グローバルなスキンケアイノベーションの推進を狙う。

元Amazon Roboticsの幹部が設立したReframe Systemsは、EclipseとVoLo Earth Venturesが共同リードし、MassMutual Catalyst Fundsも参加したシリーズAラウンドで2,000万ドルを調達した。同社は、ロボティクス、物理AI、独自ソフトウェアを活用し、いまだに手作業と旧態依然とした工程に依存する住宅建設業界の変革を目指している。Reframeが展開する地域密着型の「マイクロファクトリー」は、設置から稼働までを最短100日で完了可能。週あたり最大5棟の住宅を生産し、建設コストを最大35%削減できる。従来のモジュール住宅とは異なり、地域の法規制や気候条件に合わせた大量カスタマイズが可能で、工場水準の精度で太陽光対応・完全電化住宅を提供する。2045年までに100万戸の住宅を供給するというミッションのもと、現在はマサチューセッツ州やカリフォルニア州で、戸建て住宅や集合住宅、気候変動に強いバンガローなどのプロジェクトが進行中。住宅不足と気候課題の両方にアプローチするReframeは、スケーラビリティと柔軟性を備えた住宅生産モデルとして、全米展開に向けた体制を整えている。

シンガポール拠点のAI翻訳プラットフォームBluenteは、Informed Venturesが主導する150万ドルのシードプラスラウンドを完了した。調達資金は、国境を越えるコミュニケーション需要の高まりを背景に、同社の地理的拡大に充当される。ターゲット市場は中東、アジア太平洋(APAC)、米国の3地域である。Bluenteは、精度と信頼性を武器に顧客基盤を拡大してきたが、今回の資金調達により成長加速の基盤を固めた。Informed Venturesからは資金のみならず、戦略的知見も提供され、同社が直面する市場課題への対応力を高める。同社のプラットフォームは、120以上の言語間で文書の書式を保持しつつ翻訳を可能にするワンクリックソリューションである。テキスト、画像、数値、単位などを正確に変換できる点が特徴であり、グローバル企業に利用されている。

シンガポールのベンチャー共創企業Origgin Venturesは、福岡に日本拠点「Origgin Ventures Japan(Origgin Japan)」を正式に設立し、3,000万ドル規模のファンドを立ち上げたと発表した。同社は声明で、この展開はディープテックの商業化を加速し、日本と東南アジアのイノベーション・投資連携を強化する上で重要なマイルストーンであると述べた。OrigginはInteruniversity Venturesと共同でジェネラルパートナーを務め、日本のスピンオフ企業、特に大学発研究開発に基づくベンチャーに特化した専用ファンドを運営する。このファンド設立は、日本のディープテック領域における初期資金調達と実行力不足という課題を埋める取り組みでもある。さらに、Origginは企業と連携してイノベーションを推進する国内プラットフォーム「GxPartners」とも協業している。両者のパートナーシップは、PoC、パイロットテスト、社内技術の商業化といった共同創出に重点を置いて展開される。