『英国エコシステム、2025年第3四半期の最新レポート』、『ソフトバンク、ABBのロボット事業を54億ドルで買収へ』、『米国の太陽光・蓄電事業、資金調達額が10億ドルに迫る』、『Glide Identity、デジタルIDセキュリティ強化に向けシリーズAで2,000万ドルを調達』、『Vycarb, 低コスト炭素回収・貯留技術で出光興産やSGInnovateらから500万ドル調達』、『Qapita、シリーズBで2,650万ドル調達』、『仏ENGIE、スタートアップ連携強化へプログラム開始』、『フィンテックのRaise、1.2億ドル調達でユニコーン入り』を取り上げた「イノベーションインサイト:第155回」をお届けします。

Dealroomが発表した英国エコシステムに関する2025年第3四半期レポートによると、英国スタートアップが、2022年以来の四半期最高額となる90億ドルにのぼるVC資金を調達したという。これにより、2025年の調達総額は173億ドルに達し、2023年と2024年の低迷期からの市場回復を示唆した同四半期における最大の資金調達ラウンドには、AIインフラのNscale(11億ドル)、量子コンピューティングのQuantinuum(6億ドル)、コンシューマーハードウェアのNothing(2億ドル)が名を連ねた一方、アーリーステージでは、最大規模のシリーズAラウンドとして、AI材料探索のCusp.ai(1億ドル)などが含まれた。セクター別では、フィンテック(53億ドル)とヘルスケア(32億ドル)がリードした。またテクノロジー別では、AIと量子技術が引き続き注目を集め、genAI Synthesiaなどを含むAIは、現在SaaS投資のほぼ半分を占めているという。さらに量子スタートアップへの投資も過去最大の年となっており、2025年現在までに、昨年の4億ドルを大幅に上回る6億8,800万ドルが調達されている。

ソフトバンクは、ロボット工学と人工知能を融合させる戦略の一環として、スイスのエンジニアリング企業ABBのロボット事業を買収すると発表した。買収額は、54億ドルにのぼる。この合意により、ABBは産業オートメーション事業の分社化という当初の決定を撤回した。同事業はファナックや安川電機といった日本企業、およびドイツのKukaなどと競合する工場用ロボットの製造を手掛けていた。ABBのロボット部門は従業員7,000人を擁し、昨年の売上高は、同社総収益の7%に相当する。23億ドルに達していた。しかし、同事業は主に電化と自動化に焦点を当てており、他事業部とのシナジー効果が限定的であったという。ABBは、ロボット事業は成長率と利益率の両面で不安定な市場と位置付けていたものの、ソフトバンクはAIにおける中核プレイヤーとしての地位確立を目指しており、孫正義CEOは「ソフトバンクの次のフロンティアはフィジカルAIだ」とも述べている。なお、本取引は2026年半ばから後半にかけて完了する見込みだ。

大規模エネルギー貯蔵を手がけるEnergy Vaultは、Orion Infrastructure Capitalから3億ドルのエクイティ投資を受け、新子会社「Asset Vault」を設立。今後、世界各地でのエネルギー貯蔵プロジェクトの開発と運用を担っていく。一方、地域密着型の太陽光発電開発を行うNexampは、合計3.3億ドルの建設資金枠を確保。最大の貸し手である三菱UFJ銀行(MUFG)が2億ドルを拠出し、約120MW規模・20件の分散型太陽光プロジェクトの建設資金として活用される。これらのプロジェクトは短期的には同社の開発パイプラインを支えたのち、長期的な資金スキームに移行していく予定だ。再生可能エネルギーへの需要が高まるなか、こうした資金調達により、地域住民向けの安価で持続可能な電力提供体制の強化が進む。今回の調達は、NineDot Energyなど他社による大型ファイナンスとあわせて、米国における太陽光・エネルギー貯蔵市場への投資家の信頼が継続していることを示しており、太陽光発電が米国で第二の発電容量源となる未来に向けた動きを後押しするものとなっている。

デジタルIDセキュリティの革新を目指すGlide Identityは、Crosspoint Capital Partnersが主導し、Amigos Venture Capital、Singtel Innov8 Ventures、Sir Ronald Cohen、Fidelity International Strategic Venturesなどが参加するシリーズAラウンドで2,000万ドル超を調達した。これにより、累計調達額は2,500万ドルに達した。同社は、従来のワンタイムパスワードに代わるSIMベースの暗号認証技術を開発。モバイルキャリアの安全な通信信号を活用することで、フィッシング耐性の高い、シームレスな本人確認を実現する。これにより、オンライン取引における不正防止とユーザー体験の両立を図る。米国では2024年にオンライン詐欺による損失が125億ドルにのぼり、また、複雑さや信頼性への懸念によりショッピングカートの約70%が放棄されているという状況のなか、同社の技術は大きな課題解決につながる。Glideは現在、T-Mobile、Verizon、Google Cloudと連携し、AI・AGI時代に対応したスケーラブルかつ人間中心のデジタルID基盤の構築を進めている。CEOは「AIによる詐欺の脅威に立ち向かうには、グローバルな協調が不可欠。安全なデジタルIDこそ、今この時代における最大の課題だ」と強調している。

気候テック企業のVycarbは、自然水を活用した新たな形の恒久的かつ定量可能な二酸化炭素回収・貯留(CCS)技術の開発を進めており、このたび500万ドルのシード資金調達を完了したと発表した。今回のラウンドはTwynamが主導し、MOL Switch、Hatch Blue、Clocktower Ventures、出光興産、SGInnovateなどが参加した。調達した資金は、水をベースとする同社の革新的な炭素貯留技術の商業化を加速させるために活用される予定である。Vycarbはすでに複数の実証実験を通じて技術を実際に示しており、その中にはニューヨーク市ブルックリン・ネイビーヤードでの大規模展開も含まれる。同社は同地でイーストリバー上のCO₂を恒久的に回収・貯留している。また、海洋モニタリングおよび検証のリーダーであるat depth社や、CO₂管理・利活用システムに強みを持つTOMCO社などと連携し、沿岸部や工業用水を活用して低濃度CO₂排出を現場で経済的に貯留できることを実証している。

シンガポールに拠点を置き、インドおよび米国でも事業を展開するエクイティマネジメント・プラットフォーム企業Qapitaは、シリーズBの資金調達ラウンドで2,650万ドルを調達したと発表した。同社によると、このラウンドは米国の大手金融機関 Charles Schwab 社が主導し、戦略的少数持分投資を行ったという。既存投資家であるCitiグループおよびMassMutual Venturesも引き続き参加した。今回の資金は、Qapitaのエクイティマネジメント・プラットフォームを米国市場にさらに拡大するとともに、複数市場でのファンド管理プロダクトの展開を推進するために活用される。また、今回の出資を契機に、Qapitaと Charles Schwabは「Schwab Private Issuer Equity Services powered by Qapita」と題した新サービスを共同展開する。同サービスは、米国の非公開企業がキャップテーブルを効率的に管理し、株式報酬制度を最大限に活用し、IPOへの移行を円滑に行えるよう支援する柔軟なプラットフォームである。

欧州最大規模の電力会社である仏ENGIEが、インドの再生可能エネルギー分野における運用上および技術上の課題解決に向け、商業展開の準備が整ったスタートアップとの連携を目的とした「Global Enterprise Startup Program」を開始する。この取り組みは、AIとデジタル技術に基づくソリューションに焦点を当て、効率性の向上とインドのエネルギー転換目標の支援を目指すもので、戦略的パートナーシップを通じたイノベーション加速のために設計されたENGIEの独自プラットフォーム「Urja.ai」が中核的な役割を果たす。本プログラムは、特に再エネとバッテリーのバリューチェーンにおける主要分野(事業開発、EPC、運用・保守を含む)において、ENGIEとスタートアップ企業間の連携を強化するとともに、デジタルツールと高度な分析技術を持つEENGIE Indiaが新たに設立したエネルギー取引事業にも拡大される予定だ。この相乗効果を促進することで、ENGIEはスタートアップの機敏性と業界の専門知識を融合したソリューションを共同開発し、インドのクリーンエネルギー移行にイノベーションを通じた実践的な成果をもたらしたい意向だ。

株式取引プラットフォームDhanの親会社であるRaise Financial Servicesは、Hornbill Capitalが主導し、日本の三菱UFJフィナンシャル・グループが参加した最新のシリーズBラウンドで1億2,000万ドルを調達した。これにより、同社の企業価値は12億ドルとなり、ユニコーン入りを果たした。2021年にムンバイに設立されたRaiseは、テクノロジー主導の金融商品エコシステムを構築している。そのポートフォリオには、小売向け取引プラットフォーム「Dhan」、リアルタイム市場調査ツール「ScanX」、投資家教育プラットフォーム「Upsurge」、Z世代向け金融コンテンツハブ「Filter Coffee」、大規模金融データセットで訓練された文脈的洞察を提供するAIモデル「Fuzz」が含まれる。その中でも2021年末にローンチされたDhanは、約100万人のアクティブユーザーを抱え、一連の取引ツールを提供している。新たな資金は、Dhanの事業拡大、その技術基盤とAIスタックの強化、新たな投資・流通特化型商品の導入に充てられる一方で、信用取引の資金調達枠拡大、オムニチャネル流通への投資、AIモデル「Fuzz」のさらなる開発も計画されている。