『英Econicと三洋化成、CO2ポリオール製造で提携』、『ステラレーター核融合のProxima Fusion、2,000万ユーロを調達』、『欧州投資家が注目する先端素材スタートアップ』、『人型に似せる、ではなく「人間の問題解決」の優先を目指すCobot』、『エネルギー貯蔵・管理のTorus、6,700万ドルを調達』、『数百万トンのダンボールを断熱材へ、CleanFiberの挑戦』、『スペーステックAliena、エンジン生産増強へ』、『Peptobiotics、農業向け抗生物質代替品の販売に向け資金調達』を取り上げた「イノベーションインサイト:第79回」をお届けします。

CCUを専門とするEconic Technologiesが、三洋化成工業とCO2 ポリオールの製造事業開発に関する覚書を締結した。これにより、両社は持続可能な高性能ポリウレタンに使用すべく、CO2ベースのポリオールを製造するEconicの技術を評価する。2011年にインペリアル・カレッジ・ロンドンからスピンオフして設立された同社は、独自の触媒とプロセスで、ポリオールに含まれる化石由来成分の最大30%を、回収したCO2で置き換える技術でカーボンフットプリントの削減を実現している。すでに中Changhua Chemical Technology、米Monument Chemical、印Manali Petrochemicalsなどで採用されているEconicのソリューションは、家具、自動車、建築、履物、アパレルなどの業界に製品を供給する数多くのポリオールや界面活性剤メーカーにライセンス提供されている。今回の提携は、脱炭素化と循環型経済への移行を支援するCO2活用技術の魅力がさらに高まっていることを示唆している。

ドイツ発Proxima Fusionは、核融合発電所の建設を開始するためのシード資金として、2,000万ユーロを調達したと発表した。マックスプランク・プラズマ物理学研究所(IPP)から生まれた最初のスピンアウト企業として2023年に設立されたばかりの同社は、新しいステラレーターに基づく核融合技術の商業化を目指している。ステラレーターとは、核融合エネルギーが生まれるプラズマを封じ込めるため、正確に配置された磁石式のドーナツ型リングのことである。この技術は60年以上にわたって研究されてきたものの、ステラレータの実現は非常に難題で、極めて精密なエンジニアリングが必要とされている。そんな中、Proxima Fusionはプラズマの特性をシミュレーションするためにAIを活用しながら、高度なコンピューティングを駆使している。同社のチームは以前、世界最大のステラレーターで、10億ユーロ以上の公共投資を受けたマックス・プランクIPPのWendelstein 7-X (W7-X)の建設に携わった経験も持つ。今回のシード資金は、ハードウェアおよびソフトウェアの開発加速と、エンジニアや物理学者の人材強化に充てられるという。

プラスチック、鉄、皮革など、世界がこれほどまでに依存している汚染素材に代わる解決策として期待が高まる先端素材の分野で、現在VCが注視するアーリーステージの欧州企業をいくつか紹介したい。プラスチック代替品では、クモの糸をベースにしたバイオポリマーを開発する英Xamplaや、海藻を使ってプラスチック包装の代替品を生成するNotpla、さらに生産に厳しい目が向けられている皮革においては、水産養殖の副産物であるコラーゲンから、皮革のようなバイオマテリアルを開発するPact Earthなどが注目を集めている。他にも、自動車や建設産業における鉄やアルミニウムの使用を、木材から作られた複合材料に置き換えることを目指す独Strong by Formや、プラスチックをポリマーフォーム製品にリサイクルし、建物の断熱材や液体のカプセル化(例えば、繊維製品向け香料など)に利用するSumteqなどが名を連ねている。


Collaborative Robotics(略称Cobot)は、Sequoia Capital、 Khosla Ventures、Mayo Clinicなどの既存投資家の参加のもと、General Catalystが主導するシリーズBラウンドで1億ドルを調達した。2022年の創業以来、すでに1億4,000万ドル以上を確保した同社、製造、医療、小売などの分野で、人間が使用する道具や環境に適合させ、人間と共に働く「実用的ヒューマノイド協働ロボット」を開発している。今年初めのロボット市場投入と今回の最新ラウンドは、Cobotが人間レベルの能力を持つ協業ロボットを産業に導入するための大きな節目となる。なお、Cobotの競合であるFigureも今年2月、危険な仕事をこなし、労働力不足を解消するAI強化ロボットの開発のため、6億7,500万ドルという巨額の資金を調達している。見た目も動きも人間のようなヒューマノイドロボットは話題作りに魅力的だが、技術開発が進むいま、デザインの有効性と拡張性の両方を証明することが求められている。

ユタ発Torusは、Origin Venturesが主導し、Epic VenturesやICONIQなども参加した最新ラウンドで6,700万ドルを調達した。家庭用、商業用、大規模ユーティリティ向けのエネルギー貯蔵・管理製品の設計、エンジニアリングを行う同社ソリューションには、バーチャルパワープラント・エコシステムも含まれ、効率的なグリッド管理のため何千ものエネルギーリソースを接続し、顧客の需要対応プログラムやエネルギー裁定取引に使用する予測分析を目的とした広範なデータを収集する。Torusはまた、インバーター、バッテリー、EV充電器などのサードパーティ製品と接続するエネルギー貯蔵・管理システムも提供しており、あらゆる顧客層に対応できる。Torus Flywheelと呼ばれるエネルギー・ストレージは、化学電池とは異なり、95%リサイクル可能で、周囲温度の変動に影響されず、25年の耐用年数を持つ。同社は余剰電力を企業施設や送電網に供給し、送電網の回復力を拡大することで、持続可能な地域社会の実践促進に貢献している。

何十年もの間、古新聞を細断してセルロース断熱材を製造してきた断熱材業界は、新聞紙の減少で窮地に立たされている。古新聞の入手が困難になるにつれ段ボールが台頭、特にEコマースの爆発的なブームで、毎年5,000万トンものダンボールが廃棄されるのが現状だ。ダンボールは断熱材の不足を補うソリューションのように見えるが、実際段ボールを断熱材に変えるのは新聞紙よりもはるかに難しい。そんな中、ニューヨーク州バッファロー拠点、段ボールから建築用断熱材を製造するCleanFiberは、これを予測し何年もこの問題に取り組んできた。現在まで約2万戸の一戸建て住宅に断熱材を提供した同社は、Spring Lane主導、Climate Innovation Capital、東急建設・Global Brainなどが参加したシリーズBラウンドで2,800万ドルを調達した。米国断熱材市場は一握りの大手企業が独占、その市場規模は125億ドルにものぼるという。異なる原料を既存のセルロース断熱材代替品に作り替えるため、CleanFiberは製造工程の改良と採算の合う製品開発に目下奮闘中だ。


シンガポールを拠点とし、小型衛星市場向け電気推進システムを専門とするスペーステック企業Alienaは、最新のシリーズAラウンドで560万ドルを確保した。このラウンドはWavemaker Partnersが主導し、Seeds Capital、Cap Vista、Paspalis、NTUitiveなどが参加した。この調達資金は、ジェット推進実験用施設のアップグレードと移転に充てられる。同社の技術は、通信や観測用の衛星、量子鍵配送、安全な情報配信、深層探査など様々な領域に応用可能であるという。現在、アジアでの事業展開に加え、英国および欧州の顧客を含む5社へサービスを提供している。またAlienaは、超低軌道(VLEO)衛星の建設を支援する契約を締結しており、シンガポールのリモートセンシングVLEO衛星向けにカスタムメイドしたシステムの構築を手掛ける予定。VLEOの推進システムは、低い飛行高度により空気抵抗が増加するため、高い電力と燃料効率が求められ、その結果強力な推力を提供できるエンジンが必要となる。なお、同社はVLEOにおける衛星運用は、2025年ごろとなる見込みだ。

シンガポール発Peptobioticsは、シリーズA資金として620万米ドルの資金を確保した。同社は農業・水産養殖セクター向けの抗生物質代替品の市場投入を計画しており、今回の資金調達により、食品供給チェーンから抗生物質の使用削減を実現する製品の大規模商業生産に向けた運転資金を確保した形だ。2020年設立のPeptobioticsは、養殖業における抗生物質の過剰使用が引き起こすバクテリア耐性問題の解決を目指している。同社によると、米国では使用されている抗生物質の約80%が動物に投与されており、これが特に大きな問題となっている。Peptobioticsのソリューションは、自然に存在するバクテリアを抑制するタンパク質である組み換え抗菌ペプチドを活用するものだという。

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