『フルスタックスタートアップの可能性:ヘルスケア』、『パーソナライズ検索アプリのXaynが資金調達』、『iVenturesに見る今後のCVCの方向性』、『コスメ・ケアグッズに最適な植物由来成分』を取り上げた「欧州イノベーションインサイト:第71回」をお届けします。
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このニュースレターでは、日本企業のグローバル展開、新規事業開拓に役立つ欧州の最新イノベーション、エコシステム、テクノロジー情報を、毎週ピックアップして現地から配信しています。
フルスタックスタートアップの可能性:ヘルスケア
欧州で多くの食料品宅配スタートアップが成功してきた理由は、注文から在庫、配送までサプライチェーンチェーン全体を可視化する『フルスタックアプローチ』にあるという。そして今、優れたカスタマーエクスペリエンスを実現するこのアプローチのヘルステックへの活用が提案されている。ヘルスケアにおけるフルスタックは、独自の医師、診察、処方など患者にエンドツーエンドのサービスを提供し、カスタマージャーニーの各側面をサポートするものと定義される。例えば、心拍情報などリスク診断に貢献する情報から、医療トレンドの把握に繋がる血液検査や来院状況など様々な情報を1ヶ所で管理することで、すでに負担がかかる医療システムのコストとリソースを節約しながらより良いケアを提供できる。またハードウェア、ソフトウェア、マーケティングなどを組み合わせることで、一貫した患者体験の提供も可能になる。最後に、デジタルプラットフォームの活用により、遠隔医療や情報管理が容易になることで、医者や看護婦への負担の削減にも繋がる。今後どのようなフルスタックヘルステック企業が登場するか、期待が高まる。
パーソナライズ検索アプリのXaynが資金調達
近年、特にプライバシーに対する世間の意識向上に伴い、個人に合わせた検索結果を提供するためのユーザー追跡が問題視されるようになってきた。そんな中、プライバシーへの配慮を強調する米
DuckDuckGoや仏
Qwantもなどの検索エンジンが登場しているものの、今週、さらにパーソナライゼーションに大いに配慮した
Xaynが、日系1200万ドルの調達に成功した。ベルリン発Xaynのコア機能には、広告なしでネット全体からパーソナライズされた検索結果やフィードがある。これらはユーザーが画面をスワイプすることから学習されるため、同社サーバーへの情報アップデートを含む個人データの収集・共有はもちろんない。またXaynはOEMデバイスに組み込むことができることもあり、アジア企業からの注目を集めており、今後も今回の調達資金をもとに、欧州だけでなくアジア市場へ展開していく予定だ。
iVenturesに見る今後のCVCの方向性
BMWは2011年から体系的な企業投資を開始し、2017年の5億ユーロファンドを有した
iVentures設立以降、数多くの有望企業に投資を行い、成功を納めてきた。近年は組織変更に伴いその戦略にも変更が生じ、新たに3億ドルを調達した今、その投資フォーカスはサステイナビリティに向かっているという。過去にはモビリティ、自律運転や工業テックを中心としたディープテックに焦点を当てていたものの、消費者の考え方の変化や規制の強化に伴い、サステイナビリティにおいても責任を持った目的主導型のテック企業などへの投資を決断したという。現在までに100%植物由来レザーの
Natural Fiber Welding、再生可能電力による鉄鋼製造の
Boston Metal、廃棄物による透明プラスチック製造の
Purecycle、CCUSを活用した合成燃料の
Prometheus Fuelsなど車両に適した技術をはじめ、HVACシステムに使用されるコスト・エネルギー効率の高い電気モーターの
Turntide Technologiesなど自動車業界に直接関係ない技術にも出資してきた。iVenturesは、関心の高い企業に関する情報と知識を幅広くBMWグループ内で共有・協議しながら、業界一部ではなくセクター全体の未来を担う有望企業に投資することで、戦略的価値を生み出すことを目指している。
コスメ・ケアグッズに最適な植物由来成分
消費者製品に使用されるパーム油、化石燃料、食品由来の代替成分を開発する
Innomostが、500万ユーロを調達した。2016年にフィンランドに設立されたInnomostは、これらの材料が多く使用されている化粧品原料や包装材に関連する業界をターゲットに、樺の木(バーチ)に由来する生分解性で再生可能な成分を提供している。そのポートフォリオにはバーチチャコールパウダー、ベツリン、スベリン、アゼライン酸などが含まれており、化粧品、スキンケア、ヘアケア、ボディケア、オーラルケアの分野に革新をもたらすと考えられている。例えば、アゼライン酸は、フェイスマスクの日常的な使用で発生するにきびの効果的な解決策である上、バーチ樹皮パウダーは、マイクロプラスチックに取って代わり、肌と髪に深いクレンジングを提供する。なお、同社は、2023年までに年20トンのバーチ樹皮由来製品を生産する施設の設立を目指している。

植木 このみ
Open Innovation Group, Intralink Limited
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