『欧州エコシステム、上半期は史上2番目のVC投資額 』『英Clean Food Group、パーム油の代替品で躍進 』『衛星データ解析プラットフォームの独LiveEOが資金調達 』『欧州イノベーション・技術機構、セルビアにハブを設置』を取り上げた「欧州イノベーションインサイト:第122回」をお届けします。
欧州エコシステム、上半期は史上2番目のVC投資額
DealroomがSilicon Valley Bankと共同で発表したレポートによると、欧州エコシステムは2022年上半期、半年間におけるVC投資額では史上2番目となる586億ドルを記録した。分野別では、総額の4分の1以上を占めたフィンテックが156億ドルとなる過去最高額を記録し、昨年に続き最もアクティブなセクターとなった。2位にはヘルステックを抜いたエンタープライズソフトウェア、その後僅差でエネルギー、運輸と続いた。またM&Aの案件数も過去最高で、欧州における買収とバイアウトは1,600件に達している。さらにVCによる投資は英国、フランス、ドイツに集中しているものの、ユニコーンの創出は大陸全体に分散しており、アイルランドのキルケニーからブルガリアのソフィア、フィンランドのオウルからギリシャのアテネにいたるまで、実に多彩な都市が「ユニコーンシティー」入りを果たしている。
英Clean Food Group、パーム油の代替品で躍進
世界のパーム油市場は2027年までに約650億ユーロに達すると予想されているが、森林破壊や温室効果ガスの排出などの悪影響が懸念要因となっている。そんな中、英
Clean Food Group は、University of Bathにおける過去8年間の研究成果に基づき、パーム油の代わりに酵母を用いた代替品を開発している。Clean Food Groupは、今後この技術を確立し、市場投入を目指すため、既に同大学と2年間の共同研究契約を結んでいる。また今月初めに、細胞農業を専門とする英VCの
Agronomicsがリードするシードラウンドで196万ユーロを調達したばかりで、この資金は今後大規模なパイロットプラントの設置と、新製品に対する規制当局からの承認にあてられる予定だ。
衛星データ解析プラットフォームの独LiveEOが資金調達
近年、スペーステック業界では開発ラッシュが続き、特に宇宙から採取したデータの活用方法に注目が集まっている。その一例として、独ベルリンの
LiveEO は輸送やエネルギーインフラに携わる企業からの強い要望を背景に、衛星データ解析プラットフォーム開発のため1,900万ユーロの調達に成功した。同社のソリューションは、鉄道、送電線、また石油や天然ガスなどのパイプラインの運営者向けに、植生、地盤の変化、第三者などからもたらされるリスクについてアクショナブルな情報を提供する。また基幹インフラのメンテナンスを最適化することで、輸送・物流の中断、停電、あるいはサプライチェーンの遅延を減らすことができるという。昨年の資金調達ラウンド以来、LiveEOは全5大陸に広がる顧客からの収益を3倍にまで伸ばし、ベルリン、ニューヨーク、ラトビアの3拠点で従業員数も倍以上に増強している。なお、今回の資金調達により、世界的な市場進出をさらに加速させる予定だ。
欧州イノベーション・技術機構、セルビアにハブを設置
セルビア共和国と欧州最大級のイノベーション組織である欧州イノベーション・技術機構(EIT)は、
Regional Innovation Scheme (RIS)のもと、2023年にセルビアにEIT Community Hubを共同設立することを発表した。これは、欧州内でのEITの活動にセルビア人の参加を促進するための包括的なネットワークとして機能し、さらに現地でのイノベーション、アントレプレナーシップ、テクノロジーなどでコラボレーションを加速させることを目的としている。EIT Communityは、セルビアのイノベーションエコシステムで既に大きな存在感を持ち、2020年末までに地元のスタートアップやイノベーションプロジェクト向けに120万ユーロ以上の支援を行い、その結果として、900万ユーロ以上の資金調達をもたらしている。EITは現在までに計18ヵ国で90ヶ所以上のハブを設置している。今回のセルビアとの共同宣言により、今後同国と汎欧州イノベーションエコシステムの関係強化につながるだろう。

植木 このみ
Open Innovation Group, Intralink Limited
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