『世界初、Synhelionが産業規模の太陽光燃料生成 』『新たなデジタル体験を提供するSolstenが資金調達 』『市民ネットワークを軸としたコミュニティエネルギー 』『英国、イノベーション加速にさらなる資金増強』を取り上げた「欧州イノベーションインサイト:第124回」をお届けします。
世界初、Synhelionが産業規模の太陽光燃料生成
欧州有数大学として知られる
スイス連邦工科大学チューリヒ校(ETH)のスピンオフである
Synhelionは、電気を必要とせず、太陽光、二酸化炭素、水から生成される合成燃料「太陽光燃料(solar fuels)」を開発している。同社によると、Synhelionは世界的に見ても、太陽熱を使用して産業規模の合成ガス生成を実現する唯一の企業であるという。この技術は、高温の太陽熱を使用して合成ガスを生成し、それを標準的な工業プロセスで使用した後、航空機、船舶、トラック、自動車用の灯油、ガソリン、ディーゼルなどの液体燃料に合成する。この技術はドイツ航空宇宙センター (DLR) とのパートナーシップを通じて既に実証されており、現在は2023年から自社工場において太陽光を活用した灯油を生産する計画を進めている。なお、最初の顧客はスイスインターナショナルエアラインズになる予定だ。
新たなデジタル体験を提供するSolstenが資金調達
パーソナライズされたデジタル体験が求められる新時代において、ベルリンに拠点を置く
Solsten が注目を集めている。同社は人間の心理分析を通じてブランドが顧客を理解できるよう支援する技術で、昨年に700万ドルを調達したシリーズAラウンドに続き、参加したシリーズBラウンドで2,180 万ドルを調達したばかりだ。心理学をベースにした同社の AI 駆動型プラットフォームは、特にゲームスタジオや出版社を中心に、製品開発のあらゆる段階にある企業でデジタル製品のパフォーマンス加速、市場機会の特定、創造的最適化の最大化を目的に活用されている。なお、Solstenは今回の資金調達により、既存の製品ライン及び世界展開を拡大するとともに、メンタルヘルスの測定や改善を実現するデジタル治療としてのゲーム内での活用と臨床実験を行なっていく予定だ。
市民ネットワークを軸としたコミュニティエネルギー
欧州では、エネルギー料金の上昇に加え、持続可能な選択に対する消費者の好みの増加が、「コミュニティエネルギー」の飛躍につながっているという。このコミュニティは、市民が独自の再生可能電力を生産し、そのエネルギーをコミュニティ内で共有して収益を得るシステムで、既に100万人以上の欧州市民が参加し、さらに2050年までにはその数が260万人を超えると想定されている。例えば、ガス供給の不足により、独占されていた市場にギャップが生じていたイタリアのサルデーニャ島では、初期からこのシステムが大幅に普及し、参加する家庭はグリッドにエネルギーを提供することで年間 130 ユーロを稼ぐことができるという。また125 万人以上の市民を抱え、約1,900の市民エネルギー協同組合を代表する欧州エネルギー協同組合連合(
Rescoop.eu)もコミュニティエネルギー構築に注力しており、同地域における再生可能エネルギーの普及と、より持続可能なアプローチへの消費者のエネルギー習慣の変化が明確化している。
英国、イノベーション加速にさらなる資金増強
英国の主要な公的 R&D 資金提供機関である
英国研究・イノベーション機構(UKRI)は、成長著しい地域への投資、さらにイノベーションへの資金増強を実施し、国内のテック産業を後押しする計画を発表した。2018年に設立されたUKRIは、9 つの評議会で形成され、それぞれが特定の分野に研究資金の提供を行う。今週発表された79 億ポンドの予算配分では、英国の国家イノベーション機関である
Innovate UK への 10 億ポンド以上の予算増額が含まれ、これは以前と比較して50% 近く増加したことになる。またその他資金の一部は、UKRI がイノベーションアクセラレーターを試験的に導入する予定のグレーターマンチェスター、ウェストミッドランズ、グラスゴーなどロンドン以外の都市への投資に充てられる上、政府が有望分野として注力するAI、量子コンピューティング、生物工学などのテック領域への投資増強も目指している。

植木 このみ
Open Innovation Group, Intralink Limited
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