『EU、デジタルサービス法を適用開始』、『JLR、セカンドライフ・EVバッテリーを大型蓄電システムに活用』、『独beeOLED、OLED産業の課題解決に向け資金調達』、『AIスタートアップHugging Face、2億3,500万ドル調達』、『存続可能な細胞治療産業構築へ、Cellaresが2億5,500万ドル調達』、『ニューヨーク発フィンテックRamp、3億ドル調達』、『脳の健康促進Neurowyzr、シード資金210万ドルを追加調達』、『Solar AI Technologiesが150万ドルを調達、太陽光発電のハイパースケールを目指す』を取り上げた「イノベーションインサイト:第47回」をお届けします。

EU、デジタルサービス法を適用開始
先週金曜、欧州委はGoogle、Facebook、TikTokといった世界最大のハイテク企業やソーシャルメディア大手19社に対して、デジタルサービス法(Digital Services Act:DSA)の適用を開始した。これは、デジタル・プラットフォーム提供企業にヘイトスピーチや偽情報のような有害コンテンツの拡散阻止を義務付ける上、子供を含む社会的弱者をターゲットにした広告を禁止することで、ユーザーのオンライン上での安全を守るために施行されたものだ。これにより、例えば、追跡技術に基づいて「パーソナライズされた」ターゲット広告の提供を、ユーザーが簡単に拒否できるようになる。さらに同規制のもとでは、企業がAIの活用などから生じる潜在的なシステミック・リスクを特定・分析し、それを軽減するために十分な取り組みを行っているかどうかも評価しなければならない。ソーシャルメディア以外にも、AmazonやBooking.comを含むオンライン・マーケットプレイス、Google PlayやApple Storeなどのアプリストアも対象とされ、違反した企業には、数十億ユーロの罰金が科される可能性がある。 
JLR、セカンドライフ・EVバッテリーを大型蓄電システムに活用
JLRは、再エネ製品メーカーのWykes Engineeringと提携し、JLRの電気自動車I-Pacesに使用されているバッテリーを太陽光発電と風力発電に活用した、英国最大級の蓄電システムの開発に取り組んでいる。これは、Teslaの太陽エネルギーや蓄電システム、General MotorsのV2G機能など、競合他社による同様の動きに続くもので、送電網の安定性確保に貢献する試みだ。Wykes Engineeringのバッテリー蓄電システム(BESS)は、ピーク時にはNational Gridの送電網に直接電力を供給する一方、オフピーク時には将来使用のためにグリッドから蓄電する。Wykesのシステムには、30個のセカンドライフ・I-Pacesバッテリーを使用し、フル稼働時には最大2.5MWhのエネルギーを蓄えることができるものもある。なお、90kWhのバッテリーを使用し、航続距離が300マイル近いI-Pacesだが、同BESSで使用するために、追加の製造工程を経たり、バッテリー・モジュールを取り外したりする必要はないという。さらに、劣化したセカンドライフ・バッテリーは、その原料を回収、再利用し、リサイクルされる予定だ。 
独beeOLED、OLED産業の課題解決に向け資金調達
独ドレスデンを拠点とするディープテックのbeeOLEDは、最新のシリーズAラウンドで1,330万ユーロの資金を確保した。2020年に設立されたbeeOLEDは、デバイスのディスプレイを改善するため、効率的で長持ちするディープブルーエミッターの創出に注力している。OLEDディスプレイにおけるディープブルーエミッターの効率向上は、最新のテレビ、タブレット、パソコン、スマートフォンなどのエネルギー消費を削減する重要な原動力となっているが、beeOLEDの技術は、ランタノイドの専門知識を活用し、真空コーティングされた低分子OLEDに使用される原子発光を最適化する。またこのソリューションは、既存のOLED構造とOLEDディスプレイ製造技術に組み込めるという。今回の資金調達により、同社は今後、研究開発から市場投入段階への移行を目指し、技術の実用的な応用に重点を置くとしている。

AIスタートアップHugging Face、2億3,500万ドル調達
ニューヨーク発、人工知能(AI) スタートアップHugging FaceがIBM、Amazon、Google、Qualcomm Ventures、Intelなどの主要テック企業が参加したシリーズDラウンドで2億3,500万ドルを調達し、企業価値は45億ドルに上昇した。オープンソースおよびオープンサイエンスAIプラットフォームで、同社の地位が強化される。AIライバルと比較して、Hugging Faceのユニークなセールスポイントは、AI構築への共同アプローチである。AIモデルを保護し、顧客からアクセス料を徴収する企業とは異なり、Hugging Faceは開発者がコード、モデル、データセットを自由に共有できるプラットフォームを提供する点だ。同社ウェブサイトでは、ユーザーがモデルをアップロード可能で、モデルの実装、データセットのクリーニング、性能評価を支援するライブラリーと呼ばれるソフトウェアツールも開発している。 
存続可能な細胞治療産業構築へ、Cellaresが2億5,500万ドル調達
臨床および産業規模の細胞治療製造に特化した初の統合開発製造機関(IDMO)であるCellaresは、Koch Disruptive Technologiesが主導するシリーズCラウンドで2億5,500万ドルを調達した。新規投資家のDFJ Growth, Willett Advisors 、既存投資家 Eclipse、 Decheng Capital、8VCとともに、細胞治療のリーダーであるBristol Myers Squibbも参加した。Cellaresはこの資金で、高度なロボット工学、専用技術、ソフトウェアをシームレスに統合した世界初の商業規模IDMOスマートファクトリーを立ち上げる。ニュージャージー州にある広さ118,000平方フィートのIDMOスマートファクトリーは、年間4万の細胞治療バッチを生産することができるそうだ。統合技術の活用で、同じ敷地面積や労働力でも、従来の医薬品開発・製造受託機関に比べ年間10倍の細胞治療バッチを生産することができる。細胞治療産業が世界の患者需要を満たせるよう、スマートファクトリーは世界中に展開される予定だ。 
ニューヨーク発フィンテックRamp、3億ドル調達
ニューヨーク拠点のフィンテックRamp は、Thrive CapitalとSands Capitalが共同主導する資金ラウンドで3億ドルを調達した。法人カードのスタートアップとしてスタートしたRampは、時間をかけて徐々に請求書支払い、ベンダー管理、出張費管理などの機能を追加してきた。同社は、2022年3月に年商1億ドルを突破し、現在は年商3億ドルを超えたという。すでに15,000社以上と取引しており、2021年12月の資金調達以来、取引量は6倍に増加している。Rampは、旧来のファイナンス・ツールや手法と比較して、顧客に6億ドル以上の節約をもたらし、その結果、約850万人の従業員の時間を節約させたと推定している。過去3カ月だけでも、Rampは有料版Ramp Plusで調達ソフトウェア・カテゴリーに参入し、自然言語を使用して財務部門向けに実用的な洞察を生成するRamp Intelligenceを発表、AIを搭載したカスタマーサポート・プラットフォームであるCohere.ioを買収した。

脳の健康促進Neurowyzr、シード資金210万ドルを追加調達
脳の健康増進に特化し、脳の早期衰弱を緩和する最先端技術を開発するシンガポールスタートアップのNeurowyzrは、シードラウンドで210万ドルを追加調達した。今回得た資金は、製品開発を強化し、東南アジアとインド全域への拡大に向け使用される。2019年設立のNeurowyzrは、一連のゲーム化されたパズルを使用して脳機能を分析し、即座に医療レポートを提供するクラウドベースのSaaSプラットフォームを提供している。現在、同社は2つの製品を提供している。デジタル脳機能スクリーン(DBFS)と呼ばれる早期脳機能低下をスクリーニングするデジタル医療評価と、Attayn Corporateと呼ばれるビジネスソリューションだ。DBFSは、健診センターや開業医などのプライマリケア向けに設計されている。神経内科専門医や専用機器を必要としないため、訓練を受けた要員を必要とする紙とペンを用いる検査や、8,000シンガポールドル(5,891米ドル)を超える可能性のある高額なMRI/CTスキャンに比べ、コストは最大10分の1に抑えられる。一方、Attayn Corporateは、従業員が脳の健康とパフォーマンスを改善または維持するために、目標とする成長計画の策定を支援する。また、匿名化されたデータを企業に提供し、トレーニングやウェルネス・プログラム設計に役立てることも可能だ。 
Solar AI Technologiesが150万ドルを調達
シンガポールを拠点とするSolar AI Technologiesは先日、Earth Venture Capitalが主導する150万ドルのシードラウンドを終了した。2020年設立の同社は、AIを活用して太陽エネルギーをより身近で手頃なものにする。同社は、初期費用ゼロでエネルギー料金の節約を開始できる、レンタル式のソーラー・パネル・システムを提供している。利用者が支払う必要があるのは、設置、メンテナンス、保守、発電保証をカバーする月々の定額料金だけだ。ソーラーAIのAI搭載プラットフォームは、地理空間データと機械学習を用いて、各顧客の屋上のソーラーポテンシャルを評価する。このデータは、各顧客独自のニーズに合わせてソーラーシステムを設計・最適化するために使用される。ソーラーAIは、頭金50%の5年プラン、初期費用ゼロの10年プラン、従来の前払い購入など、3つのプランを提供している。平均的な電気代が月250ドルであるのに対し、レンタル方式の月額料金は約200ドルだ。ソーラーAIは現在100社以上の顧客にサービスを提供しており、屋根上太陽光発電の契約件数は300万SGDを超えたという。新たな資金により、マレーシアとフィリピンでの事業拡大を計画している。
植木 このみ Corporate Innovation Services, Intralink Limited イントラリンクについて イントラリンクは、日本大手企業の海外イノベーション・新規事業開発、海外ベンチャー企業のアジア事業開発、海外政府機関の経済開発をサポートするグローバルなコンサルティング会社です。