『The state of European tech 2020: 今年の総まとめ』、『クリーンミートのハンバーガーを食する日も近い?!』、『マイクロモビリティ業界の止まらぬ勢い』、『量子自然言語処理による新しい可能性』を取り上げた「欧州イノベーションインサイト:第37回」をお届けします。(
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The state of European tech 2020: 今年の総まとめ
今週、仏マクロン大統領が投資環境整備やデジタル単一市場構築など、イノベーションに関する今後の
欧州デジタル統治戦略ビジョンを提示した。そんな中、欧州エコシステムの2020年のトレンドに関する最新データが発表された。2020年の総まとめとして、重要点を以下にまとめた。
- 2020年も過去最高額のVC投資額(410億ドル)を達成
- 今年だけで新たに18社のユニコーンが誕生:シードレベルにおいて、欧州は米国と同じ確率(1/100)でユニコーンを輩出。
- 仏が過去最高となる50億ドルの投資を確保:French Tech Visaや税制改革などを理由に、域内3大市場のうち今年も成長を続けた唯一の国に。
- ロンドンが引き続きトップ座を守る:都市別では2位のパリに続き、長年トップ3の常連だったベルリンに代わり、KlarnaやNorthvolt などの成功企業を輩出するストックホルムが3位にランクイン。
- ヘルスケアの台頭とフィンテックの成長:AIベースの遠隔医療・診断を中心としたヘルスケアが過去最大の成長を見せる一方、ここ2年で200億ドルの投資を集めるフィンテックが最大セクターに。
クリーンミートのハンバーガーを食する日も近い?!
人工培養肉を開発するオランダ発
Mosa Meatが、5500万ドルを集めた9月のラウンドに続き、三菱商事などからシリーズBの追加資金の調達に成功した。クリーンミートというアイデアが注目を集める以前の2013年に、蘭マーストリヒト大学の研究者(Mosa Meatの現CSO)が世界初となる人工培養肉を発表し、その後同大学からスピンオフする形で2016年に設立された同社の技術は、通常のプロセスと比較して、たった1%の土地と4%の水を必要とするサステイナブルな製法として注目を集めてきた。また牛の筋肉細胞のサンプルから8億本の筋肉組織(海外サイズのハンバーガー8万個分)を生成でき、標準的な食品技術を使用して処理された後に消費可能となる。Mosa Meatは今後、マーストリヒトの生産施設を工業規模に拡大し、数年後の市場展開を目指すという。
マイクロモビリティ業界の止まらぬ勢い
2020年の調達資金総額において、BirdやLimeを要する米国企業の3.7億ドルに対し、欧州企業は 昨年から64%増の6.8億ドルを記録した。同業界の専門家や投資家も、都会における移動の効率化を可能にするマイクロモビリティ(電動スクーターやバイク)は、より欧州に適していると述べる。その理由として、米国企業と比べて、欧州電動スクーター企業のビジネスモデルのオペレーションへの依存が低い上、バイク専用レーンやその他インフラを整備する規制当局や政府とのベターな関係性を挙げている。またパンデミックがいくつかの地域で、マイクロモビリティの採用を加速している。特に英国では、1835年に制定された法律により電動スクーターが公道を走ることが禁じられてきたが、現在これを合法化するためのトライアルが迅速に進められている。最近では、スウェーデンの
Voiが1.6億ドルを、独
Tierがソフトバンクなどから2.5億ドルを調達し、同業界においてBirdに次ぐ世界で2番目に価値の高い企業となった。環境性能に優れ、気軽な移動手段として活躍するマイクロモビリティは、今後も注目を集めるだろう。
量子自然言語処理による新しい可能性
英
Cambridge Quantum Computingは、「意味を認識する」自然言語処理を量子コンピューター上に構築してきた。同社によると、従来のコンピュータにない十分な処理能力を兼ね備えるこのシステムは、文法の規則と単語のパターンの認識により、文法構造と単語の意味の両方を理解するという。その結果、量子コンピューター上での自然言語処理は、複雑な言語構造と量子回路における意味の新しいモデルをコード化することができる。現在CQCは、その活用領域、さらに量子言語処理を使用して診断をスピードアップできるかどうかを探るため、既に医療診断企業と話を進めている。その一例として、X線とそれが何を示しているかを口頭で説明する放射線科医をうまく組み合わせることで、病気を迅速に特定することができる可能性もあるという。同社は2014年に英ケンブリッジ大学のアクセラレーター「
Accelerate Cambridge」、Honeywell VenturesやIBM Venturesからの支援を受け、現在の企業価値は4.5億ドルにのぼるとみられる。
植木このみ
Open Innovation Group, Intralink Limited
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