『富士通、テルアビブにデータ&セキュリティR&D拠点設立』、『コンピュータビジョン向けAI構築を自動化、V7が資金調達』、『Volta Trucks、Siemensとの提携に続き6000万ユーロ調達』、『脱炭素目指す地熱発電のDandelion、7000万ドル調達』、『米市場投入に歴史的一歩、Upsideの培養肉をFDAが初認可』、『バーチャルパワープラントのSwell Energy、1億2千万ドル調達』、『Unilever Ventures、東南アジアで初の美容関連投資』、『インシュアテックのIgloo企業が2,700万ドルを調達』を取り上げた「イノベーションインサイト:第9回」をお届けします。
富士通、テルアビブにデータ&セキュリティR&D拠点設立
富士通は今週、イスラエルのテルアビブに、データ&セキュリティ領域の強化に向けた新たな研究開発拠点を設立すると発表した。同施設は、昨年、イスラエル南部に位置する Ben-Gurion University of the Negev(ベングリオン大学)内に、AIセキュリティに特化する形で設立されたFujitsu Cyber Security Center of Excellence in Israelに続く2ヶ所目の研究施設で、2023年4月からの稼働を予定している。この新たな拠点設立により、富士通はイスラエル内でのプレゼンスを強化するとともに、グローバル研究開発戦略における5つの主要技術領域の1つであるデータセキュリティの一環として、通信ネットワークセキュリティ技術に焦点を当てる予定だ。イスラエルにおける日本企業の活動は引き続き活発で、先日には自動車部品メーカーの武蔵精密工業が、AIロボティックス企業のSIXAIが所有するイノベーションハブに2000万ドルの投資を行ったばかりだ。 
コンピュータビジョン向けAI構築を自動化、V7が資金調達
ロンドンに拠点を置くAIトレーニングのV7が、最新のシリーズAラウンドで3300万ドルを調達した。人工知能は多くの産業で期待されているが、どんなAIでも、見ているものを正しく理解するためには、人間が手作業で対象物にラベル付けを行う作業が必要になる。しかし、V7が提供する「プログラマティック・ラベリング」という自動ラベリング・プロセスは、画像や映像から対象物を自動的にセグメンテーションし、人の手をほとんど介さずに処理することができるため、手作業プロセスの10倍ほど作業を早く完了するという。V7は既にGE Healthcare、Paige AI、Siemensなどを含む300社以上の顧客を抱え、そのユースケースは自律走行からロボットアームによる核廃棄物の分別、がんの早期発見まで多岐にわたる。なお、今回の調達資金は、チームの増強とともに、北米市場への拡大に充てられる予定だ。 
Volta Trucks、Siemensとの提携に続き6000万ユーロ調達
スウェーデンを拠点に、都市中心部での貨物配送向けにEVトラックを提供するVolta Trucksが、シリーズCのエクステンションラウンドで6000万ユーロを調達したと発表した。同社は今年2月のシリーズCラウンドで2億3000万ユーロを確保しており、現在までの調達総額は3億6000万ドルに上っている。Volta Trucks は、2026年までに約190万トンのCO2削減を目標に、都市部での物流に適した16トンクラスのフル電気自動車を開発しており、そのデザイン検証プロトタイプがフランス、スペイン、イタリア、ドイツ、英国で実施された最初の顧客走行評価に成功したと発表したばかりだ。また、Siemens Smart Infrastructureとも包括的な充電インフラとソフトウェアを顧客に提供するための協力に関する意向書を締結しており、今後もVolta Trucksの勢いはしばらく続きそうだ。 
脱炭素目指す地熱発電のDandelion、7000万ドル調達
NY発、地熱ヒートポンプによる家庭用冷暖房を提供するDandelion Energyが、住宅メーカーLennarのベンチャー部門とNGPのエネルギー投資部門が主導し、ビルゲイツのBreakthrough Energyなどが参加した資金ラウンドで7000万ドルを調達した。地下数百メートルを掘削し、ヒートポンプに電力を供給する原理で、冬は熱の貯蔵庫を利用、夏はポンプで家の熱を奪って冷ますというものだ。よりクリーンな熱と燃料費の節約を実現し、既にニューヨーク、コネチカット、マサチューセッツで1,000台ほど導入されているこのシステムは、2022年のスタート以来、商業用オペレーションを3倍に増強している。昨今のインフレやエネルギー価格の高騰により、エネルギーコストを痛手とする家庭が増加する中、米国議会はインフレ抑制法(IRA)に家庭電化に対する数千ドルの税額控除を盛り込み、Rewiring Americaなどの団体がヒートポンプ技術の利点を説いて回っている。地熱暖房を導入する最も簡単な方法は、新築の一部として導入することであるため、Dandelionは今回調達した資金の一部を、住宅建設業者との提携による新築市場の開拓に充てる予定だ。 
米市場投入に歴史的一歩、Upsideの培養肉をFDAが初認可
カリフォルニア発Upside Foodsによる鶏の培養肉が、米食品医薬品局 (FDA)に初認可された。培養肉は、植物性の肉とは異なり本物の動物細胞を含んでおり、本物の肉と見分けがつかない。まず動物から細胞を分離し、細胞株を作製して冷凍保存する。この細胞株から少量のサンプルを鉄製タンクに移し、細胞が分裂するのに必要な栄養素を含む成長培地を細胞に与える。細胞が成長し、適切な種類の組織に分化した後、それを培養肉製品に使用することができる。FDA認可をマイルストーンとして、サンフランシスコのミシュランレストランAtelier Crennなど、ごく一部の高級レストランで試食できることになりそうだ。一般に販売されるためには、Upsideの生産施設が米国農務省からの検査を受ける必要がある上、商品自体にも検査マークが必要となる。さまざまなスタートアップが牛肉、サーモン、マグロなどの培養肉に注目しているが、最終的に世界の食肉消費量に歯止めをかけるレベルに至るまでには、EV業界の黎明期のように、5年から15年ほどかかると見られている。 
バーチャルパワープラントのSwell Energy、1億2千万ドル調達
異常気象による送電網の故障に備えてより高い耐障害性が求められるようになった昨今、太陽光発電や蓄電池を設置した数百、数千の家庭を仮想的につないで、需要急増時のバックアップに利用したり、必要な時に余剰電力を送電網から取り出すバーチャルパワープラント(VPP)の需要が増加している。この動きを先導すべく、カリフォルニア拠点のSwell EnergyがSoftBank Vision Fund 2とGreenbacker Development Opportunities Fund I, LPが主導した資金ラウンドで1億2千万ドルを調達した。ソーラーパネルがある家庭は電力会社の資産になるという認識の変化と、再エネやEVの普及に伴い、SwellのVPPプログラムは送電網の柔軟性を高めると同時に、化石燃料による新たな発電への大規模な投資を抑制するという付加価値をもたらす。現時点で需要の高いカリフォルニア、ハワイ、米国北東部に加えて、南東部や北西部の電力会社もVPPを採用するケースが増えると見込まれている。 
Unilever Ventures、東南アジアで初の美容関連投資
インドネシアの美容ブランドEsqaは、世界的な消費財メーカーUnileverのベンチャー部門であるUnilever Ventures主導で、East Venturesも参加したシリーズAラウンドにて、600万ドルを調達した。これは、東南アジアにおけるUnilever Ventures初の美容事業関連投資となる。Esqaの製品はすべてビーガンである上、ハラル認証も受けており、120以上の製品が展開されている。同社は既にベトナム、シンガポール、マレーシアに事業を拡大しているが、今後East Venturesが支援するスタートアップSociollaのオフライン店舗で製品を販売することも拡大戦略の一つとしている。なお、今回調達した資金は、製品開発、採用、マーケティング、また事業拡大のために使用されるという。 
インシュアテックのIglooが2,700万ドルを調達
シンガポールを拠点とするインシュアテック企業のIglooは、ドイツの開発銀行KfWが主導し、インパクト投資のBlueOrchard Financeが管理するInsuResilience Investment Fund IIがリードしたシリーズBのエクステンションラウンドにて、2700万ドルを調達した。同社は、今年3月のシリーズBで調達した1900万米ドルと合わせて、総額4600万ドルの資金を確保している。これにより、同社の資金調達総額は6,300万ドル超えとなった。Iglooは、オンラインマーケットプレイスやプラットフォームに容易に統合できる上、インターネットエコノミー向けに革新的な高頻度・低価格の保険サービスの構築に注力している。2019年以降、Iglooは3億件以上の契約を仲介し、総収入保険料を30倍に伸ばしてきた。同社はシンガポール、インドネシア、ベトナム、フィリピン、タイ、マレーシアで既に事業を展開すると同時に、様々なM&Aの機会を特定し、クロージングしている最中であるという。
植木 このみ Open Innovation Group, Intralink Limited イントラリンクについて イントラリンクは、海外ベンチャー企業のアジア事業開発、日本大手企業に対する海外オープンイノベーション支援、海外政府機関の経済開発をサポートするグローバルなコンサルティング会社です。