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イノベーションインサイト:第61回

イノベーションインサイト:第61回

『ディープテック、欧州で最も成長力のあるセクターに』、『英Xlinks、3,800kmのケーブル建設でTotalEnergiesから資金調達』、『仏IIoTプラットフォームのBraincube、8,300万ユーロを調達』、『Together、生成AI学習用クラウド開発で約1億ドル調達』、『AI動画編集アプリのPika、5,500万ドルを調達』、『AM Batteries、乾電池電極技術の商業化を加速』、『みずほFG、Climate Impact Xに出資、炭素クレジット市場で提携』、『東芝 とSpeQtral、量子技術の実証プロジェクトで提携強化へ』を取り上げた「イノベーションインサイト:第61回」をお届けします。

ディープテック、欧州で最も成長力のあるセクターに

Dealroomが発表した最新レポートによると、欧州のディープテック・スタートアップは、2023年だけで約150億ドルの調達に成功し、最も調達資金が高額な領域となった。これにエネルギーとヘルスがそれに続いた一方で、対照的に、フィンテックなどは70%減とその勢いに衰えを見せた。最も高額な資金を獲得した上位3ヶ国には、英国(34億ドル)、フランス(30億ドル)、スウェーデン(32億ドル)がランクインした。また最も顕著な成長を見せたディープテック領域には、Novel AIとFuture of Computeが挙げられた。欧州のNovel AI関連企業への投資額は、2023年には13億ドルに達し、前年比で50%の伸びを記録した。この分野には、シリーズBで1億1,000万ユーロを調達した独Aleph Alpaや、シード資金で1億1,300万ドルを調達した仏Mistral AIなどのGen AIモデルメーカーが含まれる。同時に、シリーズBで1億ユーロを調達した量子コンピューティングのPasqalなど、Future of Computeに取り組む企業への投資も前年比で10%増加したという。総じて、ディープテックは欧州のベンチャーキャピタルにおいて最も成長力のあるカテゴリーのひとつとなっている。

 

英Xlinks、3,800kmのケーブル建設でTotalEnergiesから資金調達

ジェレミー・ハント英国財務相が、秋の声明(Autumn Statement)の中で、研究開発減税からAIコンピューティングへの追加出資まで、英国のハイテク部門を支援することを目的とした数々の施策を発表した。この声明は、「現代における過去最大の企業支援」になると期待されている。主な政策としては、中小企業に対する研究開発減税制度の見直し(年間2億8,000万ポンド相当)、政府が支援するベンチャーキャピタル信託と企業投資スキームの延長と、初期段階におけるスタートアップや投資家への減税適用、さらにウェスト・ミッドランズ、イースト・ミッドランズ、グレーター・マンチェスターにグリーン産業と先端製造業に特化した「投資ゾーン」を創設することなどが挙げられる。一方で、9億6,000万ポンドのアクセラレーター・プログラムを実施するクライメート・テック、今後2年間で5億ポンドを追加出資するAI、春の声明で25億ポンドの国家量子戦略を発表した量子コンピューティングなど、複数の成長分野に注力することも表明した。

 

仏IIoTプラットフォームのBraincube、8,300万ユーロを調達

フランス発スマート・マニュファクチャリング・ソリューション・プロバイダーのBraincubeが、最新のグロースラウンドで8,300万ユーロを調達した。2017年設立の同社は、データ・インサイトを提供する産業用IIoTプラットフォームにより、製造業者の工場における品質、生産性、持続可能性の向上を支援し、すでに100億ドル以上のコスト削減と250万トンの二酸化炭素排出量削減を達成したと主張している。また近年力強く成長するBraincubeは、現在ではフランス、欧州、米国、ブラジル拠点で250人以上の従業員を抱えるまでになり、そのソフトウェアは、食品・飲料、パルプ・製紙、建材、タイヤ、プラスチックなどの分野で、35ヶ国の製造現場に導入されている。同社の顧客には、ブリヂストン、アメリカのパルプ・製紙会社International Paper、化学薬品大手のDOW、スポーツ用品小売業のDecathlonなどが含まれる。

 

Together、生成AI学習用クラウド開発で約1億ドル調達

オープンソースの生成AIとAIモデル開発インフラを構築するTogetherは、Kleiner Perkins主導、NvidiaとEmergence Capitalが参加したシリーズAラウンドで、1億250万ドルを調達した。Togetherは、組織がアプリケーションにAIを組み込む作業を支援するオープンソースモデルとサービスの提供を目指しており、モデルの実行、トレーニングのためのクラウドプラットフォームを構築中だ。Google Cloud、AWS、Azureなど主要ベンダーよりも低価格でスケーラブルな計算能力を提供できるという。現在、米国とEUのデータセンターにまたがるクラウドを運営し、NexusFlowやVoyage AIなどを顧客に持つ同社、クラウドサービスを補完するためのコンサルティングも併せて提供している。これは、顧客が自社データをTogetherのクラウドプラットフォームに持ち込み、Togetherチームがモデルの設計、構築、テストを行うというものだ。生成AIへの関心と投資は当分続くとされ、IDCの予測では、生成AIへの投資は今年の160億ドルから、2027年には1,430億ドルまで増加する見通しだ。

 

AI動画編集アプリのPika、5,500万ドルを調達

スタンフォード大学を中退した博士課程の「クリエイター」が、キャプションや静止画像から動画を編集・生成、より使いやすいAI動画を生成する Pikaを立ち上げた。約50万人が既に試し、毎週数百万に及ぶ新しい動画の生成に利用される中、Lightspeed Venture Partnersが主導し、複数の機関投資家やエンジェル投資家が参加する資金ラウンドで5,500万ドルを調達した。例えば、ユーザーがチャットボックスに「夕暮れのビーチを歩くロボット」と入力すると、AIが生成した動画がチャットで返信される。Pikaは、新しいアプリとビデオ内のオブジェクト編集とカスタマイズを可能にする機能で、この体験をウェブに、そして大規模な新しいメインストリームのオーディエンスにもたらしている。Pikaは現在無料で使用できるが、いずれ消費者向けに段階的なサブスクリプションモデルを導入する可能性があるという。マネタイズはまだ重要な優先事項としない点が、現時点でPikaが大手ライバルと差別化を図る方法だという。

 

AM Batteries、乾電池電極技術の商業化を加速

リチウムイオン技術開発のAM Batteriesは、Toyota Venturesが主導し、Porsche Venturesと旭化成の戦略的支援のもと、TDK Venturesを含む投資家が参加するオーバーサブスクライブでのシリーズB資金調達ラウンドで3,000万ドルを調達した。急速な電動化が進む中、従来の「ウェットコーティング」による電池電極の製造方法は、乾燥工程で発生するエネルギー消費のために不利であるとの認識が高まっている。対照的に、AM Batteriesのドライ電極(DBE)プロセスは、電極の乾燥と溶媒回収の必要性を排除することで、電極を製造する工程数を7から4に減らす「粉末から電極へ」方式を採用している。これにより、コスト、時間、エネルギーが削減され、有害な溶媒が不要になり、最終的にEV需要の拡大に貢献するとの見方だ。これは、より環境に優しいバッテリーの商業化を進める上で極めて重要で、EVの普及に向けてコスト削減の選択肢を模索するOEMにとっても有益だと期待されている。

 

みずほFG、Climate Impact Xに出資、炭素クレジット市場で提携

先週みずほフィナンシャルグループが、シンガポールにてカーボンクレジットのマーケットプレイス・オークション・取引所事業を行うClimate Impact X(CIX)への出資を発表した。みずほはこれにより、日本企業の間で高まる国際的な炭素クレジットへの需要に対応する狙いだ。今回の投資額は公表されていないが、この資金はCIXの既存プラットフォームの拡充、日本市場向けサービスの深化、そして最終的な地域拡大に活用される。これにより、両社は日本国内外の顧客、特に炭素集約型セクターの顧客により良いサービスを提供できるようになる。現在みずほは日本において2,000万人を超える個人顧客と、東京証券取引所上場企業の70%にサービスを提供しており、今回の投資には株主、企業、そして規制当局三者の承認が必要であったという。なお、CIXはシンガポールのDBS、シンガポール証券取引所、Standard Chartered、そしてTemasekにより設立された脱炭素に特化した投資プラットフォームであるGenZeroの4社によって共同設立された。

 

東芝 とSpeQtral、量子技術の実証プロジェクトで提携強化へ

デジタル・量子技術事業を展開する東芝デジタルソリューションズと量子通信技術のリーディングカンパニーであるSpeQtralは、がシンガポール初の全国規模の量子セキュアネットワークであるNational Quantum-Safe Networks+(NQSN+)の実証プロジェクトを通じた連携強化を発表した。量子暗号技術で強化された相互運用可能なネットワークであるNQSN+では、シンガポールの情報通信開発庁(IMDA)からSPTelとSpeQtralが共同パートナーシップに任命された。東芝は、SpeQtralを通じて、光ファイバー方式の量子鍵配送(QKD)システムと量子鍵管理(Q-KMS)ソフトウェアを提供するという。これらの東芝製品は、既に米国、英国、フランス、韓国、日本などにおける複数の量子安全ネットワーク・テストベッドや業界のユースケース開発で実証済みの実績を誇っている。

 

植木 このみ

Corporate Development Services, Intralink Limited

 

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