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イノベーションインサイト:第63回

イノベーションインサイト:第63回

『日本大手企業2社、グリーン水素製造推進のEverfuelへ出資』、『太陽電池セルのExeger、欧州投資銀行から3,500万ユーロを確保』、『ドナウ・バレーにおけるイノベーションの現状』、『Tome、ゲノム編集技術の商業化で2億ドル超調達』、『True Anomaly、宇宙安全保障強化に向け1億ドル調達』、『日米合併スタートアップShinobi、免疫拒絶回避可能な細胞療法開発へ』、『Vinfastと丸紅、EVバッテリーの再利用で覚書締結』、『シンガポールBiorithm、350万ドル獲得』を取り上げた「イノベーションインサイト:第63回」をお届けします。

 

日本大手企業2社、グリーン水素製造推進のEverfuelへ出資

伊藤忠商事と大阪ガスは、両社JVであるHyVCを通じ、デンマークを拠点にグリーン水素バリューチェーン構築を推進するEverfuelへ出資、戦略的パートナーシップを締結すると発表した。その投資総額は、6,880万ドルに達する見込みで、両社はこれでEverfuelの株式の約14%を取得、第2位株主となる予定。Everfuelは、デンマークとオランダにて、グリーン水素製造や水素ステーション運営により、地産地消のグリーン水素バリューチェーン構築を目指すスタートアップで、来年から年間3,000トンのグリーン水素製造を開始、世界最大級の水素メーカーになると想定されている。伊藤忠、大阪ガス、Everfuelの3社は今後、それぞれの能力とリソースを活用しながら、グリーン水素の開発と商業化を計画しているが、まずはドイツ、ベネルクス、北欧諸国をターゲットに、その後新たな市場へと拡大していく予定だ。

 

太陽電池セルのExeger、欧州投資銀行から3,500万ユーロを確保

スウェーデン発クリーンテック企業のExegerは、開発する太陽電池技術「Powerfoyle」に対し、欧州投資銀行から3,500万ユーロの融資を受けたと発表した。これにより、同社の調達総額は、1億6,900万ユーロ以上に達した。Exegerが開発する「色素増感太陽電池」は、屋内外の光を電気に変換することができるため、消費電力の少ない電化製品がセルフパワーで動くことができるというもの。一部の電化製品においては、充電ケーブルや使い捨て電池が不要になるため、電子廃棄物を大幅に削減できる可能性がある。既にQualcomm、ABBのほか、ソフトバンク、日清紡マイクロデバイス、ニチコン、日本ガイシなどをパートナーに持つ同社だが、今回の調達資金は、ストックホルム近郊にある第2の都市型工場での生産能力拡大に充てられる予定。このスケールアップが完了すれば、Exegerは特許取得済みの太陽電池を年間250万m2まで生産できるようになり、同技術に対する需要増大への対応が可能となる。

 

ドナウ・バレーにおけるイノベーションの現状

ドナウ・バレーは、欧州第二の長さを誇るドナウ川周辺の中・東欧諸国からなるスタートアップ・エコシステムだ。Dealroomの最新レポートによると、14,000社以上のテック企業を擁するドナウ・バレーの2023年の企業価値総額は、2018年の460億ユーロから3.4倍増の1,570億ユーロに達したという。セクター別では、2018年以降、輸送関連企業がこの地域全体における投資総額の20%以上を調達しており、これは欧州平均の数値を大きく上回っている。次いで、ヘルス(13%)、エネルギー(10%)、フィンテック(8%)と続いている。またドナウ・バレーは、オーストリア発自動運転ソフトウェア&ハードウェア・プロバイダーのTTTech Auto、ブルガリア発ビジネス支出管理のPayhawk、ルーマニア発ビジネス自動化プラットフォーム・プロバイダーのUiPath、ハンガリー発リモート・アクセス・ソフトウェア・プロバイダーのLogMeInなど、18のユニコーンも輩出してきた。ドナウ・バレーはまだアーリー・ステージにあり、欧州その他テック・ハブと比較すると知名度は低いものの、今回発表された最新の数字は、同ハブが有望で、急成長中のイノベーション・エコシステムであることを示している。

 

 

Tome、ゲノム編集技術の商業化で2億ドル超調達

Tome Biosciencesは、Andreessen Horowitz (a16z) Bio + Health、富士フイルム、Alexandria Venture Investmentsを含む投資家から、シリーズA及びB資金2億1,300万ドルを調達した。この資金は、マサチューセッツ工科大学から導入したプログラマブル・ゲノム・インテグレーション(PGI) 技術の開発と商業化の支援に充てられる。ゲノムを編集する方法は、これまで治療が困難であった病気に対する新しい細胞療法や、遺伝子療法の開発に力を与えている。Tomeのような企業は、狙ったゲノムの場所を簡単に改変できる編集技術CRISPR-Cas9や、その他技術を活用した商業的プラットフォームを構築するスタートアップの波の一部である。PGIはCRISPRと、二本鎖DNAの切断を必要とせずにゲノムに遺伝子と同じ長さのDNA配列を挿入したり、書き込んだりできる酵素を組み合わせたものである。同社のポートフォリオには、ウイルスDNAを細胞染色体につなぎ合わせる酵素であるインテグラーゼを介したインテグレーション技術があり、これはゲノムに大きな配列を、正確に挿入するものだ。DNA配列を挿入する場所をコントロールできる能力は、ゲームチェンジャーになると期待されている。

 

True Anomaly、宇宙安全保障強化に向け1億ドル調達

コロラド発True Anomalyは、Riot Venturesが主導するシリーズBラウンドで1億ドルを調達した。2022年設立の同社は、宇宙セキュリティテック企業として、幅広いステークホルダーにとって宇宙がより安全で持続可能な環境になるよう支援している。すでに多額の資金を確保しているが、一例として、9月に米宇宙軍から獲得した1,740万ドルの中小企業技術革新研究契約がある。米宇宙軍に提供される宇宙領域認識(SDA)アプリケーションは、強力な分析とスケーラブルなAIを活用し、SDA運用の全領域において効率性向上に向け、人間と機械の協業をサポートする。そして独自のMosaicソフトウェアを通じて、宇宙領域認識とセキュリティのあらゆる側面に対応する統合オペレーティングシステムを提供する計画だ。加えてTrue Anomalyは、ライブおよびシミュレーションのランデブー(宇宙空間における宇宙船の結合)および近接操作用に設計されたJackalと呼ばれる自律軌道船も製造している。

 

日米合併スタートアップShinobi、免疫拒絶回避可能な細胞療法開発へ

サンフランシスコを拠点とするShinobi Therapeuticsは、EQT Life SciencesF-Prime CapitalEight Roads Ventures Japanが主導し、Astellas Venture Management、Fast Track Initiative (FTI)JIC Venture Growth Investmentsなどが参加したシリーズAラウンドで5,100万ドルを調達した。細胞療法は、血液がんやその他難治性疾患の治療の可能性を示しているが、製造コストが高く、多くの患者がアクセスできずにいる。既製の細胞療法は大量生産が可能でも、患者の免疫機構がドナー由来の他家細胞や人工細胞を異物として拒絶するという課題に直面する。この免疫反応を克服するため、患者は治療前に免疫抑制剤を投与されるが、副作用や合併症を引き起こす可能性がある。Shinobiは、患者の免疫に「対抗」するのではなく、「働きかける」治療法を開発するアプローチをとっている。京都大学とUC-San Franciscoの教授陣でもある共同設立者の研究に基づき、最先端の免疫回避能力を付与したiPS細胞を、独自の「Katana」プラットフォームでCD8αβ陽性T細胞に分化させるというものだ。今回調達した資金で、この細胞治療プラットフォームを、がん治療に向けた初プログラムの臨床開発に繋げるため使用する予定だ。

 

 

Vinfastと丸紅、EVバッテリーの再利用で覚書締結

丸紅と、ベトナムの大手電気自動車メーカーであるVinFastは、EVバッテリーの二次利用の機会と循環型経済モデル確立の可能性を探るために正式に覚書を締結した。これは両社の戦略的パートナーシップにおける重要なマイルストーンであり、ベトナムおよび世界的な温室効果ガス排出削減のための有意義な取り組みであることを示すものである。同覚書の下、両社は、使用済みEVバッテリーを利用したバッテリーエネルギー貯蔵システム(BESS)の研究・製造において提携する。VinFastは使用済みバッテリーを供給する一方、丸紅は実現可能性の評価や技術コンサルティング、BESSの展開を行う。また丸紅は、VinFastsのEVバッテリーを再利用するため、この戦略的パートナーからの独占技術を活用し、バッテリーの分解、加工、再梱包の必要なく、手頃な価格で容易に製造可能なBESSに再利用すると想定されている。

 

 

シンガポールBiorithm、350万ドル獲得

シンガポールを拠点とするフェムテックスタートアップのBiorithmは、政府機関Enterprise Singaporeの投資部門であるAdaptive Capital PartnersとSEEDS Capitalが共同主導するシリーズAにて、350万ドルの資金調達を完了した。Biorithmの本社は米国ボストンだが、東南アジア進出の戦略的拠点としてシンガポールに地域本部を置いている。同社技術のFemomは、包括的な産科遠隔モニタリング・ソリューションだ。臨床グレードの胎児モニターの提供を通じ、患者のモニタリング、アクセス可能な個別化ガイダンス、そして臨床医が合併症の初期徴候を特定するのに役立つ予測分析のシームレスな統合を実現する。今回の調達資金は、東南アジアと米国におけるプロダクトのリーチ拡大に充てるという。また、シンガポールと英国における臨床試験の成功を受け、さらなる臨床試験の対象国を広げ、これに加え遠隔医療の効果的な展開を研究する予定だ。

 

 

植木 このみ

Corporate Development Services, Intralink Limited

 

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