『Samsung、独Apostera買収で自動車技術領域を強化』『企業イノベーションの秘訣』『Sulzer Schmid、検査用のドローンソリューション導入』『HMRC、190万ドルの不正調査中に初めてNFTを押収』を取り上げた「欧州イノベーションインサイト:第97回」をお届けします。
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Samsung、独Apostera買収で自動車技術領域を強化
Samsungの自動車部品子会社
Harmanは、ドイツの拡張現実(AR)および複合現実(MR)ヘッドアップディスプレイ(HUD)ソフトウェア企業
Aposteraを買収した。2017年に設立されたAposteraは、ARと物理環境を組み合わせた複合現実ナビゲーションソリューションを提供し、ターンバイターンナビ誘導、車線逸脱警告、前方・側方・後方の衝突回避、ひいては自律走行といった多様なアプリケーションを可能にしている。今回の買収の背景には、AposteraのARおよびMR技術とHarmanのデジタルコックピット製品とを組み合わせるという主旨がある。これにより、ドライバーの車内体験がより豊かになり、Samsungの自動車関連製品のポートフォリオが全体的に強化されることになる。Samsungは、顧客に差別化された製品を提供し、事業をさらに拡大するために、さまざまな業界のM&Aの機会を幅広く検討し続けており、今回の買収はその一環となっている。
企業イノベーションの秘訣
Siemens Energy VenturesのパートナーIllai Gescheit氏は、スタートアップ企業と大企業が協働する際の精神的・業務的ギャップを埋め、より持続的な関係を築くための方法としてメンタリングを紹介している。Siemensのメンターは、
Fellows Programなどのパートナーネットワークや、
Techstarsや
Carbon 13の様なメンタープログラムを通してメンタリングに従事する。メンターは、コラボレーションが可能かどうかを評価したり、メンティーのスタートアップ企業を戦略的投資のためにベンチャーキャピタル・チームに紹介したりする。さらに、スタートアップ創業者との関わりから学んだことを社内のベンチャー・ビルダーに持ち帰り、社内のコーチやメンターとして社内ベンチャーの成長と規模拡大を支援する役割もある。メンタリングを企業のイノベーション文化の中核とすることは、組織やマインドセットを変革し、企業とスタートアップとのより効果的な協力を実現する鍵となる。
Sulzer Schmid、検査用のドローンソリューション導入
スイスの
Sulzer & Schmid Laboratoriesは、現場へのアクセスが困難な地域や複雑な物流上の障壁がある場所で風力発電所のブレードを検査するための新しいプラグアンドプレイ半自律ドローンソフトウェアソリューションを発表した。世界の洋上風力発電容量は2026年までに現在の3倍である120GWに達すると予想されており、増加する洋上風力発電機の点検・維持にかかるコストの高さが懸念されている。Sulzer Schmid独自のソフトウェアを搭載する3DXスマートパイロットソリューションは、ほとんどの市販の小型DJIドローンと互換性があり、スマートで携帯可能なドローン検査ソリューションを実現する。 3DXソフトウェアによりドローンは半自動的に動き、3DX Blade Platformがブレード検査で収集したデータをアップロード、処理、分析する。このプラグアンドプレイソリューションは柔軟性に富み、物流や税関の制限をほとんど乗り越えることができるため、今後のグローバルな展開に大いに期待できる。
HMRC、190万ドルの不正調査中に初めてNFTを押収
英国の税務当局であるHMRC(Her Majesty's Revenue and Customs)は、190万ドルのVAT返済詐欺の調査の一環として、3つのNFT(non-fungible tokens:非代替性トークン)を押収した。英国の法執行機関がNFTを押収するのは、今回が初めての事例となる。NFTは、美術品などの仮想アイテムの所有権を追跡するために設計されたブロックチェーンベースのデジタル資産である。2014年に登場し、現在では爆発的な人気を誇り、2021年はこのようなトークンの売上が400億ドルを超えたと言われている。しかし、HMRCやその他の規制当局は、NFTはほとんど規制されていない資産クラスであり、既存のアンチマネーロンダリングチェックの対象にはならないと警告している。国内外の規制当局や執行機関は、常に新しい技術に適応していく必要がある。世界がさまざまな形態の暗号資産を受け入れるにつれ、この業界はますます規制当局の監視下に置かれるようになると予想される。

植木 このみ
Open Innovation Group, Intralink Limited
イントラリンクについて
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