『欧州ディープテックエコシステム、2023年の展望』、『サステナブルな携帯機器のFairphone、5300万ドルを調達』、『EU、米気候変動対策への対抗案を提案へ』、『臨床研究のパラダイム変革に挑むParadigm、2億ドル超調達』、『アイデンティティ管理プラットフォームSaviynt、2億ドル超調達』、『Boston Metal、グリーンスチールプラント建設で1.2億ドル調達』、『インドネシアEdenFarm、アグリテックで1350万ドル調達』、『POSプラットフォームのiSeller、1,200万ドル調達』を取り上げた「イノベーションインサイト:第17回」をお届けします。

欧州ディープテックエコシステム、2023年の展望
Dealroomが発表した最新レポートによると、欧州ディープテックスタートアップは、2022年に合計177億ドル(2020年比で60%増)を調達した。さらに同年後半、全セクターの中で2番目に高いVC資金増加率を記録している。欧州最大の資金調達ラウンドは、直接空気回収のClimeworksによるシリーズF(6億ドル)で、工業ロボットのEXOTECによるシリーズD(3.3億ドル)がそれに続いた。また昨年に44億ドルを調達したNovel AI、Future of Computing、Novel Energy、Space Techが、ディープテックの中核となる4つの新興分野として特定された。地理的に見てみると、欧州には重要なディープテッククラスターが点在しているが、ルーベン(ベルギー)、ローザンヌ(スイス)、オックスフォード(英国)、ドレスデン(ドイツ)などその多くが主要都市外に位置していることがわかった。さらにスイス、フィンランド、ノルウェーなどでは、VC投資の約30%がディープテックに投入されており、同分野に特化したエコシステムとしての地位を確立している地域として注目されている。 
サステナブルな携帯機器のFairphone、5300万ドルを調達
オランダ発サステナブルコンシューマーエレクトロニクスのFairphoneが、5300万ドルの調達に成功した。消費者行動を意識する傾向の高まりを受けて、EU規制当局も携帯電話やタブレット端末のエコデザイン措置の確立を推進している。そんな中、Fairphoneは開発するモジュール式で修理可能な携帯電話により、グリーン転換の推進から生まれる機会活用に適した立場にあり、廃棄物削減に取り組むエレクトロニクス業界をリードしている。同社の売上も2018年の端末販売台数2.3万台から、2021年には12万台と近年大きく伸びており、今回の調達資金は、製品開発及び顧客サービスの改善だけでなく、リサイクルされた素材の全製品ポートフォリオへの統合加速に充てられるという。またブランドのポジショニング強化と、エレクトロニクス業界におけるフェアネス及びサステナビリティに関するさらなる認知度向上に注力する。 
EU、米気候変動対策への対抗案を提案へ
EUが持続可能な新技術の導入を促進するために、新たな施策を提案するようだ。ネットゼロ時代のグリーンディール産業計画(A Green Deal Industrial Plan for the Net-Zero Age)」と題されたコミュニケーション草案によると、欧州委員会は新技術を展開するための規制負担を軽減し、クリーンテクノロジーに対する国家補助金や税額控除の拡大を想定している。このEUの新たな枠組みは、永久炭素除去の税額控除を1トン当たり50ドルから180ドルに引き上げるなど、クリーン技術への助成を含む3690億ドル規模の米インフレ抑制法(IRA)に対応するもので、すべての再生可能技術プロジェクトに対する国家補助手続きの簡素化と、完了期限の延長を可能にする。なお、この提案は2月上旬から中旬にかけて、欧州議会およびEU首脳による審議される予定だ。

臨床研究のパラダイム変革に挑むParadigm、2億ドル超調達
医薬品開発プロセスの簡素化を狙い、臨床試験データと患者マッチングプラットフォームを提供するニューヨーク発Paradigmが、2億300万ドルを調達した。同社はArch Venture Partnersが構想し、General Catalystとの共同インキュベーションで発足したスタートアップ。臨床試験への参加には、地域レベルでのアクセス不足、制限された参加資格基準、財政的支援の欠如など、数々の大きな障壁がある。米食品医薬品局によると、臨床試験に参加できるのは適格患者の3%から5%に過ぎず、2020年度参加者の75%が白人、11%がヒスパニック、8%が黒人、6%がアジア人と、多様性の向上も課題の一つだ。同社はデータフィルタリング技術を駆使した2024年のスケールアップに向けて、Paradigmは医療機関やライフサイエンス企業との提携拡大を図る。 
アイデンティティ管理プラットフォームSaviynt、2億ドル超調達
カリフォルニア発アイデンティティ(ID)管理スタートアップのSaviyntが、AB Private Credit InvestorsのTech Capital Solutionsグループからのデットファイナンスで2億500万ドルを調達した。リモートワークへの移行、未だ残るパンデミックの影響もあり、企業はユーザーを特定し、ネットワーク上リソースへのアクセス管理方法を見直す必要に迫られている。SailPoint、Oktaといった競合との差別化要因として、SaviyntはID製品を連携させるためのインテグレーションを複数こなす必要性を排除することを目指し、オンプレミス、ハイブリッド、クラウドを問わず、企業が資産、アプリ、インフラへのアクセスを安全に管理し、IDライフサイクル管理を簡素化するワークフローソリューションを提供していく予定だ。 
Boston Metal、グリーンスチールプラント建設で1.2億ドル調達
マサチューセッツ工科大学のスピンアウトBoston Metalが、温室効果ガスを極力発生しない方法で製鋼するグリーンスチールプラント建設のため、鉄鋼大手ArcelorMittalが主導するシリーズCラウンドで、1億2000万ドルを調達した。冷蔵庫や自動車などの家庭用品や、橋や鉄道などのインフラに使われる高強度材料は、溶鉱炉で鉄鉱石を溶かす方法で毎年20億トン近く製造されている。世界鉄鋼協会によると、鉄鋼業は世界の温室効果ガス排出量の7〜9%を占めるという。Boston Metalが開発するプロセスでは、化石燃料を直接使用せず、電流を使って鉄鉱石を摂氏1600度まで加熱し、化学反応を促進させる。そこで溶けた鉄鉱石を電流で加熱することで化学反応を起こした後、冷却して鉄の塊にするという。鉄鋼業における大規模な脱炭素化において、今後Boston Metalが担う役割が期待される。

インドネシアEdenFarm、アグリテックで1350万ドル調達
2017年設立のEdenFarmは、地元農家からの新鮮な食材をレストランやケータリング、露店、スタートアップに提供するインドネシアのB2Bプラットフォームで、2021年のシリーズAラウンド(1,900万ドル)に続き、今回プレシリーズBラウンドでさらに1,350万ドルを調達した。同社は、農家から直接新鮮な野菜を仕入れ、集荷・選別したのち、B2Bの顧客に配送するDirect to Source方式で事業を展開している。これにより、業者による追加マージンなどの非効率性を排除することが可能となる。ジャワ島に3つの配送センターと10の集荷施設を持つ同社は、現在5,500以上のパートナー農家と5万以上のB2B顧客を抱えており、40ヶ月で60倍の成長を達成している。なお、今回調達した資金は、インドネシア国内での事業拡大、顧客サービスの向上、また技術力の強化に充てられる予定で、今後12ヶ月における収益向上、前年比3.5〜4倍の成長を目指す。 
POSプラットフォームのiSeller、1,200万ドル調達
オンライン、オフラインの商取引に対応したオムニチャネルベースのPOSプラットフォームであるiSellerは、Intudo Venturesが主導し、KVision(Kasikornbank)や既存投資家のMandiri Capital IndonesiaとOpenspace Venturesが参加したシリーズBラウンドで1,200万ドルの資金調達を完了したことを発表した。「インドネシアのShopify」とも呼ばれる同プラットフォームは、国内だけで30以上の都市に拠点を構え、10万社以上の企業にサービスを提供している。iSellerは、インドネシアの4大マーケットプレイス(Tokopedia、Shopee、Lazada、Blibli)と完全に統合する唯一のオムニチャネルベースの販売プラットフォームで、過去2年間で加盟店と収益を4倍以上に増やし、総取引量(GTV)は5倍の6億ドル超となっている。また、マーケットプレイス統合機能の利用が約15倍、オンラインストアチャネルの利用も約4倍に拡大している。 今回の資金調達により、ユーザーエクスペリエンスの向上、高速なパフォーマンスと信頼性に焦点を当てた主力製品の新バージョンをリリースする予定だという。
植木 このみ Open Innovation Group, Intralink Limited イントラリンクについて イントラリンクは、海外ベンチャー企業のアジア事業開発、日本大手企業に対する海外オープンイノベーション支援、海外政府機関の経済開発をサポートするグローバルなコンサルティング会社です。