『英国で最も強力なスーパーコンピューターが稼動開始』、『顔認識のAnyVisionが2億ドル以上を調達』、『ロンドン、フィンテック業界トレンド』、『フォトニクス半導体のSMART Photonicsが事業拡大』を取り上げた「欧州イノベーションインサイト:第67回」をお届けします。
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英国で最も強力なスーパーコンピューターが稼動開始
先週、米NVIDIAがヘルスケアを専門とした世界最速クラスのAIスーパーコンピューター『Cambridge-1』の稼働を英ケンブリッジにて開始した。このスーパーコンピュータが携わる初期プロジェクトにはAstraZeneca、GSK、Guy’s and St Thomas’ NHS Foundation Trust、King’s College London、Oxford Nanoporeなど業界を代表する英国の大規模組織が参加し、認知症などの脳疾患の理解を深めるとともに、AIを活用した新薬設計、さらに疾患の原因となるヒトゲノムの変異発見における精度向上を目指すという。また100%再生可能エネルギーを利用して稼働するCambridge-1は、科学者や医療専門家がAIとシミュレーションの強力な組み合わせを使用し、デジタルバイオロジーの革命加速と、世界をリードする英国ライフサイエンス業界の強化を実現するだけでなく、世界中で数百万人に恩恵をもたらす技術開発の促進につながると期待されている。そして、Cambridge-1は、今後10年間だけで約8億ドル以上の価値を生み出すものと推定されている。
顔認識のAnyVisionが2億ドル以上を調達
顔認識技術は、プライバシーやデータ保護に関する問題から、複雑な領域と考えられているものの、幅広いユースケースを持つ技術でもある。この分野において最も成功している企業の1社であるイスラエル発
AnyVisionが、その顔認識や体温検出に関わる技術で、ソフトバンクや独ボッシュなどから2.3億ドルを新たに調達した。同社の技術は、既にビデオ監視、人数管理や小売環境での滞留時間の分析など群衆の監視・制御を必要とする場面で使用されており、米LAの大型病院や米百貨店のMacy’s、さらにエネルギー大手のBPなどに採用されてきた。また高体温を持つ人物の特定技術により、大型イベントにおける接触者管理をはじめとしたCovid-19の拡散防止技術にも適用できると想定されている。なお、今回調達した大型資金は、特にエッジコンピューティングデバイス(スマートカメラ、ボディカメラ、その他デバイス用チップ)で作動し、システムのパフォーマンスと速度を向上させるために使用可能なSDKの開発継続に充てられる予定だ。
ロンドン、フィンテック業界トレンド
2020年、ロンドンのフィンテック業界には欧州全体の業界VC投資総額の半分近くにのぼる45億ドルが投下された。今月になって国際送金のWiseがロンドン証券取引所で直接上場(時価総額約80億ポンド)を行ったことも後押しし、2021年もその勢いは止まらない。そんな中、パンデミックによる去年からのトレンドとして、キャッシュレス・コンタクトレスペイメントへの需要が増加し、デジタルバンキングへの移行が進んでいる。特に人々の労働環境やライフスタイルの変化がバンキングに携わるスタートアップに恩恵をもたらしているという。同様に、気候変動にプラスの影響を与えるグリーンフィンテックも、投資額が前年比50%増と新世代のフィンテック分野として注目されている。ブレグジットやCovid-19による影響はまだ明確ではないものの、同セクターの繁栄はまだ続くとみられる。なお、弊社が作成した英国フィンテック業界に関する調査レポート(日本語)は、
こちらから無料ダウンロード可能。
フォトニクス半導体のSMART Photonicsが事業拡大
リン化インジウムによるフォトニクス半導体を製造する
SMART Photonicsが、事業拡大に向けて動き出した。統合フォトニクスの導入により人々の生活を向上させることを目的に、2012年に蘭アイントホーフェンに設立された同社は、独立したファウンドリとして、顧客のデザインに基づいたフォトニックコンポーネント製造を専門に、これまでに300以上の異なるチップデザインを製造してきた。SMART Photonicsは、エピタキシャル成長、処理、研磨、ウェハーのダイシングなどにまたぐ製造プロセスだけでなく、クライアントのPoCや完全生産へのサポートも提供している。このリン化インジウムチップは、次世代の低消費電力データセンターから、医療診断用のセンシングまで、多くのアプリケーションで活用される上、統合フォトニクスは、航空機業界、大気質の監視、自動運転、暗号化技術においても重要な役割を果たしている。今後、SMART Photonicsはフォトニクスチップ生産をスケールアップすることで、成長するフォトニクスエコシステムにおけるその役割強化を目指すという。

植木 このみ
Open Innovation Group, Intralink Limited
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