『蘭沖にてオフショアグリーン水素プロジェクトが始動』、『相次ぐ欧州大手企業による英テック企業の買収』、『欧州の「トップユニコーン大学」とは』、『ダイキン、単層カーボンナノチューブメーカーに出資』を取り上げた「欧州イノベーションインサイト:第69回」をお届けします。
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このニュースレターでは、日本企業のグローバル展開、新規事業開拓に役立つ欧州の最新イノベーション、エコシステム、テクノロジー情報を、毎週ピックアップして現地から配信しています。
蘭沖にてオフショアグリーン水素プロジェクトが始動
パリ協定の気候目標を達成するための手段として、世界各国から水素の必要性が高まる中、世界初の運用中石油・ガスプラットフォームを使用したオフショアグリーン水素パイロットプロジェクト、
PosHYdonが欧州で開始される。2015年に設立された石油・ガス探鉱開発企業
Neptune Energyが率いるPosHYdonは、オランダ企業庁から360万ユーロの助成金を受け、ハーグから約13km沖に設置されている同社プラットフォームに水素製造プラントの設置し、同地域での洋上風力、洋上ガス、洋上水素の3つのエネルギーシステムの統合を目指している。また洋上風力タービンによって生成された電力により、水素プラントにて海水を脱塩水に、さらに電気分解によって水素に変換する。設置された1 MWの電解槽が生成する最大400kg/日のグリーン水素は、ガスと混合され、既存のガスパイプラインを介して海岸に輸送される予定だ。このプロジェクトにより、洋上風力発電からの供給量が変動する電解槽の効率をテストすると同時に、洋上設置及び保守コストに関する知識と洞察を得ることができると期待されている。
相次ぐ欧州大手企業による英テック企業の買収
今週、幅広い業界で欧州大手企業の英スタートアップの買収が相次いで発表された。先日、10年以内にすべての車両をEVに移行する方針を発表したばかりのメルセデスが、電気モーター技術で知られるオックスフォード大学のスピンアウト企業
YASAを買収した。YASAのアキシャルフラックス電気モーターは、最小のサイズと重量でクラス最高の効率の電力密度を提供することができ、メルセデスの電力プラットフォームにモーターだけでなく、新しい電気駆動技術の革新的なサポートを提供する。また先月のスウェーデンフィンテック企業Tinkの買収(18億ユーロ)に続き、国際決済プロバイダーの
Currencycloudを統合したVisaは、その技術によりクライアントに対して国際決済サービスの透明性向上と問題点改善を提供することで、外国為替サービスの強化を目指すという。一方、石油大手のBPも、AIを活用したプラットフォームで蓄電池から水素電解槽、ソーラーファームに至るまでの分散型エネルギーリソースのネットワークを自動化・最適化する
Open Energiの買収を通して、同社技術のグローバル展開を行なっていく予定だ。
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Mercedes/YASA,
Visa/Currencycloud,
BP/Open Energi
欧州の『トップユニコーン大学』とは
年々増え続ける欧州のユニコーン企業だが、その優れた創始者たちはどんな大学でそのイノベーションに対するスキルや知識を身につけてきたのだろうか。輩出してきた欧州ユニコーン企業、ならびに今後企業価値が10億ドルに達すると期待されるネクストユニコーンの創設者数をもとに、新たなデータが明らかになった。欧州で最も多くのユニコーン創始者を生み出してきたのは英
ケンブリッジ大学で、電力サプライヤーのOctopusやAIチップメーカーのGraphcoreなど計9社のユニコーン、16社のネクストユニコーン創設者たちがここで学んできたという。2位には、今年のFTグローバルMBAランキングでもトップとなった
Inseadがランクインした。輩出したユニコーン創始者数ではケンブリッジ大学に並ぶものの、ネクストユニコーン数が12社と若干劣った形だ。3位は7年連続で国内大学第1位の座を誇る
Technical University Munichで、空飛ぶタクシーのLilium、フィンテックのMonzoなどの創始者を輩出してきた。なお、同ランキングのトップ10のうち、4大学が英国、3大学がドイツから選出されており、VC投資額やユニコーン数などエコシステムの強さがきっちり反映された形と言える。
ダイキン、単層カーボンナノチューブメーカーに出資
ダイキンは、EV向け電池材料の用途開発加速を目的に、ルクセンブルグ発
OCSiAlに出資した。2012年に設立された同社は、既存の工業素材と組み合わせにより、さらに優れた機能を備えた新材料を創り出す添加剤となりうる単層カーボンナノチューブの世界最大メーカーとして知られており、その企業価値も約20億ドルと既にユニコーン入りを果たしている。また欧米アジアと全世界に拠点を展開しており、現在の年間生産能力は、全世界の単層カーボンナノチューブ生産量の97%となる80トンにのぼるという。リチウムイオン電池材料の用途開発及び複合材料の素材開発で2018年よりOCSiAlと提携してきたダイキンだが、今回の出資により、今後はEV向け電池材料などの商品開発を加速していく予定だ。なお、ダイキンはイノベーション追求のために2019年に設立したCVCを通して、既に10社以上に30億円を超える出資を行なってきたが、化学系スタートアップへの投資は今回が初めてだという。

植木 このみ
Open Innovation Group, Intralink Limited
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