『欧州エコシステム、過去10年の急成長が明らかに 』、『英国年金制度、最大750億ポンドをテック企業へ投資』、『ペットボトルリサイクルロボットのb:bot、2,000万ユーロを調達』、『コンクリート低炭素化に挑む加CarbonCure、8,000万ドル調達』、『Author Health、精神疾患高齢者ケアで1億ドル超調達』、『Clair、給与即日払いソリューションで1億7,500万ドル調達』、『インドネシアのeFishery、水産養殖技術で2億ドルを調達』、『The Radical Fund、SEAのクライメートテックファンドをクローズ』を取り上げた「イノベーションインサイト:第40回」をお届けします。

欧州エコシステム、過去10年の急成長が明らかに
ストックホルムを拠点に欧米で活動するVC、CreandumがDealroomとともに、欧州のイノベーション・エコシステムに関する最新レポート「European tech ascendancy」を発表した。本レポートによると、欧州テック・エコシステムは過去10年間で大きく成長し、その価値総額は約2兆5,000億ドルに達している。20年前、欧州は世界のVC資金調達の5%未満しか占めていなかったものの、その割合は現在20%まで上昇した。また今日、欧州25ヶ国、65都市に514のユニコーンが存在している。昨年は、クライメートテック、量子コンピューティング、ヘルスなどの新たな分野が台頭し、欧州は全世界の資金調達総額の3分の1を占めるまでになった。なお、今回の調査結果から、Creandumは「わずか20年で、欧州はアウトサイダー(圏外)からグローバル・チャレンジャーに成長しました。今後20年間で、デジタルヘルス、クライメートテック、フィンテック、AIなどの新興テック分野で、欧州が主導権を握ると確信しています」とコメントしている。 
英国年金制度、最大750億ポンドをテック企業へ投資
今週、ジェレミー・ハント英国財務相は、同国のハイテク企業への年金基金投資を強化する計画を発表した。これは「Mansion House Reforms」を通じて、Aviva、Scottish Widows、L&G、Aegon、Nest、Smart Pensionをはじめとする確定拠出年金最大手の9社が、2030年までに資金の少なくとも5%を非上場株式に投資するというもの。これにより、高成長企業への投資が最大500億ポンドにまで拡大する可能性がある。また、地方自治体の年金制度からプライベート・エクイティへの投資を増やす計画もあり、これによってさらに250億ポンドを引き出すことができるという。この新たなイニシアチブは、英国を「次のシリコンバレー」とするための広範な戦略の一環であり、これまで低調だった国内年金基金からアーリーステージスタートアップへの資本流入増加を意図している。なお、最終的な政策計画は秋頃に発表される予定だ。 
ペットボトルリサイクルロボットのb:bot、2,000万ユーロを調達
フランス発b:botは、ロボットを使ったペットボトルのリサイクルソリューションで、2,000万ユーロを調達した。同社は、道路やショッピングセンター、レストラン街などの公共スペースに、誰でもペットボトルをリサイクルできるロボットを設置する。その後、ペットボトルは細断され、新しいボトルや繊維に活用される。その報酬は、現金で受け取ることも、寄付することもできるという。b:botは、現在までに仏国内に500台以上のロボットを設置し、1億3,000万本以上のペットボトルをリサイクルしてきた。同社によると、このソリューションは、使用するプラスチック量を90%削減する上、8つのリサイクル工程を省くことで、全体的なカーボンフットプリント削減を実現する。今回の調達資金は、今年末を目標としたロボットの労働力倍増に加え、ポルトガル、チュニジア、アラブ首長国連邦などの新市場への進出、さらに缶のリサイクル拡大に充てられる予定だ。

コンクリート低炭素化に挑む加CarbonCure、8,000万ドル調達
Amazon、Microsoft Climate Innovation Fund、三菱商事などの支援を受けているCarbonCure Technologiesが、Blue Earth Capital主導の8,000万ドルにのぼる大型資金調達を発表した。新たにBH3 Growth EquityとSamsung Venturesが投資家として加わり、CarbonCureに対する資金的な後ろ盾に加え、新製品開発に直接関与することで、持続可能性とイノベーション促進に関わることになる。セメント製造時に大量のCO2を排出するため、環境負荷が大きいとされていたコンクリートだが、ハリファックス拠点のCarbonCureは、液化CO2を生コン製造に取り込み、ナノ鉱物を生成、CO2主要排出源のセメント量を削減しながらコンクリート強度を実現する技術を開発している。これまでに30ヶ国以上でトラック500万台分の低炭素コンクリートを供給、約29万トンのCO2を削減してきた。これは、6万4,000台の自動車が1年間使用されないレベルに匹敵する。 
Author Health、精神疾患高齢者ケアで1億ドル超調達
ボストン発Author Healthは、重篤な精神疾患や薬物使用障害を持つメディケア・アドバンテージ(高齢者対象連邦医療プログラム)会員のケアと治療を提供する新デジタルプラットフォーム提供のため、General Atlantic主導、Flare Capital Partnersが参加した資金調達ラウンドで1億1,500万ドルを確保した。メディケア受給者の4人に1人が精神疾患を抱え、深刻な精神疾患を抱える50歳以上のアメリカ人のうち、40%がケアへのアクセスがないとも言われる中、Author Healthはケアのサイロ化を解消し、専門医、看護師、セラピスト、コミュニティ・ヘルスワーカー間の取り組みを対面とバーチャルの両方で調整するチームベースの手法をとっている。今回調達した資金は、新市場への拡大、新たなパートナーシップの確保、高齢者向けバリューベースケアへのアクセス拡大に使われる予定だ。 
Clair、給与即日払いソリューションで1億7,500万ドル調達
ニューヨーク発フィンテックのClairは、雇用者に給与を即日払いする「on-demand pay」ローンチのため、1億7,500万ドルを調達した。これにはリテールバンクPathwardからの多額出資、Thrive Capitalなどによる2,500万ドルの追加出資も含まれている。Clairはモバイルバンキングアプリを通して、雇用者が給料日を待つことなく、シフトを終えるとすぐに給与を受け取れるサービスを提供する。手数料は無料で、600%以上の金利を請求することもある給料担保金融業社に頼らずに済む。アメリカ人の3分の2近くが「その日暮らし」状態で、給料日までのつなぎとして融資を必要としている中、Pathwardとの提携で、Clair利用者は高利回り預金口座やデビットカードなども利用できるようになる。同社は既に5万人以上の給与即日払いをサポートしており、昨年だけで売上を10倍に伸ばした。今後は米国労働者の半数以上を占める7,600万人の時給労働者を視野に入れ、チームを拡大する予定だ。

インドネシアのeFishery、水産養殖技術で2億ドルを調達
インドネシアの養殖会社eFisheryは、シリーズD資金調達ラウンドで2億ドルの調達に成功した。これによりインドネシアの養殖コミュニティーの拡大、また同社プラットフォームを通じた飼料や鮮魚の取引量増大という目標に向け、大きく前進した形となる。このラウンドは、アブダビを拠点とするグローバルファンドマネージャーの42XFundが主導し、マレーシア最大の公的年金基金であるKumpulan Wang Persaraan (Diperbadankan)(KWAP)、スイスのresponsAbilityなどの新規投資家に加え、Northstar、Temasek、SoftBankをはじめとする既存投資家も参加した。同社が開発するIoTに基づくデジタルソリューションは、魚の水の動きとエビの音響を測定するセンサーを活用し、無駄を最小限に抑えながら給餌、魚の健康、水質を最適化することで、養殖事業における効率や利便性の向上を図る。魚やエビの飼料を販売するマーケットプレイス、新鮮な魚やエビ製品をB2Bで販売するプラットフォーム、養殖業者向けの金融アクセスを特徴とするこの統合エコシステムは、インドネシア全土の280都市で7万人以上の養殖業者に使用されている。またDemographic Institute of the University of Indonesia (LDUI)が実施した最新調査によると、eFisheryは昨年、インドネシアの養殖業界における国内総生産(GDP)の1.55%(3.4兆ルピア)に相当する貢献を果たしたことが明らかになっている。 
The Radical Fund、SEAのクライメートテックファンドをクローズ
クライメートテックを専門とするアーリーステージVCのThe Radical Fundは先日、4,000万ドルファンドの非公開第1回クローズを行ったと発表した。現在、様々なファミリーオフィス、企業、財団、また機関投資家と対話中であるという。このファンドは、フィリピン、シンガポール、タイのファミリーオフィスと、欧米の個人投資家によって支えられ、東南アジアにおいて、気候変動への適応と緩和のためのソリューションを提供するアーリーステージ企業への投資を目的としている。さらに、気候変動への直接的な関連がなくても、ビジネスモデルや企業理念に気候変動へのインパクトを内包しているような企業など、拡張性のあるビジネスを支援する。これには、農業、食品、循環型経済、金融、モビリティ、またロジスティクスなどの分野が含まれる。同社は今後、25万ドルから80万ドルの投資範囲で30社以上に投資する計画で、株式ベースの資本とともに、運営や技術的なハンズオンサポートも提供する予定だ。
植木 このみ Corporate Innovation Services, Intralink Limited イントラリンクについて イントラリンクは、日本大手企業の海外イノベーション・新規事業開発、海外ベンチャー企業のアジア事業開発、海外政府機関の経済開発をサポートするグローバルなコンサルティング会社です。