『Freyr Battery、ギガプロジェクトで欧州委から1億ユーロ獲得』、『AI駆動型損傷評価のTractable、ソフトバンクなどから資金調達』、『イスラエル・IIA、バイオ・コンバージェンスに資金投入』、『Avnos、DAC技術で戦略的パートナーシップ締結』、『GPCR創薬のSepterna、1億5,000万ドル調達』、『高齢女性ヘルスケア、Herself Healthが2,600万ドル調達』、『アグリテックのEratani、200万ドルを追加調達』、『日系VCや三菱電機が参加、廃水技術のHydroleapが資金調達』を取り上げた「イノベーションインサイト:第41回」をお届けします。
Freyr Battery、ギガプロジェクトで欧州委から1億ユーロ獲得
オスロに本社を置くバッテリーメーカーFreyr Battery は、ノルウェー北部に位置する同社のギガ北極圏プロジェクトの継続的な開発のため、EUイノベーション基金を通じて1億ユーロの助成金を受け取った。このギガ工場で生産される同社のバッテリーセルは、寿命期間中、8,000万トンのCO2(ノルウェーで年間排出されるCO2総量の2倍)を削減できる可能性がある上、その年間生産能力は、29GWhにのぼるという。またFreyrは、米国とフィンランドでも、産業規模のバッテリーセル生産に向けたさらなる機会を模索している。そして、最終的には2025年までに50GWh、2028年までに年間100GWh、2030年までに年間200GWhのバッテリーセル容量を導入したい意向だ。このEUイノベーション基金からの大規模な助成金は、グリーン・エネルギー転換を可能にするバッテリーの重要性がさらに認められた結果とも言える。 
AI駆動型損傷評価のTractable、ソフトバンクなどから資金調達
英国発インシュアテックのTractableは、SoftBank Vision Fund 2が主導するシリーズEラウンドで、6,500万ドルの資金を調達した。Tractableはコンピューター・ビジョンとAIを応用し、物や車の損傷を遠隔評価する。現在、Aviva、Geico、Admiralなどの大手保険会社と提携し、同プラットフォームを通じて年間約70億ドルの請求を処理している。Tractableは今回の資金調達により、技術開発の促進に加え、修理やメンテナンスにもサービスを拡大する。また同社は、最大市場のひとつである日本でのプレゼンス拡大にも注力する予定で、日本では自然災害復旧のための不動産評価市場と、自動車アフターマーケット市場において、今年だけで前年比10倍の成長が見込まれていることから、ソフトバンクのようなパートナーの助けを借りて、この機会を活用したい狙いだ。 
イスラエル・IIA、バイオ・コンバージェンスに資金投入
「バイオ・コンバージェンス(Bio-convergence)」とは、生物学、生命科学、工学、ソフトウェア技術の融合を意味する。これらの分野における専門知識を組み合わせたスタートアップは、センサー、スマートインプラント、ラボオンチップなどのバイオデバイスや、医療、環境、気候、エネルギー、農業、セキュリティなどで応用可能なソリューションを生み出すことができるため、イスラエル・イノベーション庁(The Israeli Innovation Authority :IIA)は、この分野がイスラエル産業の成長エンジンとなり、多様化の源となる大きな可能性を秘めていると考えている。こうした中、IIAは、バイオ・デバイスの研究開発インフラを提供するセンター設立のため、約3,100万ドルの入札を行うと発表した。この新しい施設は、研究開発サービス、トレーニング、プロトタイピング、小規模な連続生産サービスなどを提供する。この資金投入は、イスラエルがバイオ・コンバージェンスの世界的リーダーとしての地位を確立するための重要な一歩と期待される。

Avnos、DAC技術で戦略的パートナーシップ締結
大気中のCO2を直接吸収、回収するダイレクトエアキャプチャー(DAC)技術を開発するAvnos Inc.が、ConocoPhillips、JetBlue Technology Ventures、 Shell Ventures LLCの3社と8,000万ドルを超える複数年の戦略的パートナーシップを締結した。サンタモニカ拠点のAvnosは、独自の「ハイブリッド」型DACと呼ばれるシステムを使って、大気からCO2と水の両方を回収する画期的なソリューションを開発している。パイロット稼働中のユニットは、年間約300トンの水を生産し、約33万トンのCO2を回収するという。通常DACシステムは、1トンのCO2を回収するのに数トンの水を消費するが、Avnosはこの方程式を逆転させた形だ。また取り込んだ水を利用して新たな水分反応型CO2吸着材を駆動させるため、熱を必要とせず、エネルギー消費量も競合他社の半分以下に抑えることができる。これにより、CO2回収コスト削減も可能となり、2030年代初頭には1トンあたりの回収コストが100ドルに達すると同社は予測している。 
GPCR創薬のSepterna、1億5,000万ドル調達
カリフォルニア発バイオテックのSepternaは、Gタンパク質共役受容体(GPCR)として知られるタンパク質群を標的とする低分子医薬品の研究資金として、RA Capital Managementが主導、Third Rock Ventures、 Samsara BioCapital、 Casdin Capitalなどが参加したシリーズBラウンドで1億5,000万ドルを調達した。体内の細胞膜上で、神経伝達物質やホルモンを認識する受容体センサーの一種であるGPCRだが、Septernaの技術は、完全に機能するネイティブのGPCRタンパク質の完全分離を可能とし、候補に類似する分子を迅速に特定できる。この画期的な技術によって、複数の領域で難治性疾患の治療標的とされるGPCRを幅広く特定できる可能性があるという。現在同社は、副甲状腺ホルモン1受容体として知られるGPCRを標的とするプログラムを通して、発作、不整脈、腎不全を引き起こす副甲状腺機能低下症の治療薬の開発に注力している。 
高齢女性ヘルスケア、Herself Healthが2,600万ドル調達
65歳以上の女性層に特化したプライマリケアを提供するHerself Healthが、シード資金調達のわずか半年後、Accretive主導のシリーズAラウンドで2,600万ドルを調達した。これは、ベンチャー資金が後退する中、女性の健康問題に焦点を当てたスタートアップへの資金が、比較的好調に推移している傾向の表れと言える。ミネソタ発のHerselfが実施したインタビューによると、自分の悩みに耳を傾けず、ニーズを優先しない医師に頻繁に遭遇するケースが多く、骨粗鬆症と診断されるケースが男性の4倍、自己免疫疾患にかかる確率が男性の3倍ほどに及び、誤診される可能性が男性より33%高いなど、65歳以上女性層が直面する独自の課題と個別ケアの必要性が浮き彫りとなった。Herselfは、しっかり一般的なケアとの差別化を図り、メンタルヘルス、モビリティも含め、高齢女性の包括的な健康と幸福の全面に焦点を当てながら、アルツハイマー、骨粗鬆症、関節炎など、この層に多く見られる特定の問題にも焦点を当てて行く計画だ。

アグリテックのEratani、200万ドルを追加調達
インドネシア発アグリテックのErataniが200万ドルを追加調達し、シード資金総額が580万ドルに達した。今回のエクステンションラウンドは、京葉証券とNTUitiveとの共同ファンドを通じて、SBI Ven Capitalが主導した。2021年設立のErataniは、国内の農家に資金調達、サプライチェーン・マネジメント、作物流通、農業支援などのソリューションを提供、現在、西・中部・東ジャワを含む5つの州で、稲作農家2万軒のネットワークと連携している。また現在、BNIやNobu bankのような金融機関や、Koinworksなどのフィンテック企業と協力し、農家に資金を提供している。今回の調達資金をもとに、これらの州で事業拡大と、さらなる効率化、ならびに稲作農家への社会的インパクトの創出を目指す。 
日系VCや三菱電機が参加、廃水技術のHydroleapが資金調達
シンガポールに本社を構え、次世代型グリーン廃水技術を開発するHydroleapが、日本のベンチャーキャピタルReal Tech Holdingsが主導し、三菱電機、Seeds Capital、オーストラリアのビクトリア州政府などが参加した最新のシリーズAラウンドで、440万ドルの資金調達に成功した。2016年に設立されたHydroleapは、自動化された上、強靭で、費用対効果が高く、さらに環境に優しいソリューションを通じて、さまざまな分野で産業廃水の処理方法に革命を起こしている。同社のユニークな電気化学技術は、産業廃水に含まれる汚染物質を最大95%削減することができるという。今回の資金調達により、同社は今後2年間で、オーストラリア、日本、インドネシアといった地域に進出し、データセンター、食品・飲料、製造業、鉱業などの企業が、効率的で環境に優しい方法で廃水処理を実現できるよう支援する。
植木 このみ Corporate Innovation Services, Intralink Limited イントラリンクについて イントラリンクは、日本大手企業の海外イノベーション・新規事業開発、海外ベンチャー企業のアジア事業開発、海外政府機関の経済開発をサポートするグローバルなコンサルティング会社です。