『Scale-Up Europe:欧州テックジャイアント創出に向け始動』、『3DバイオプリンティングのBrinter が資金調達』、『グリーンなバッテリー製造のNorthvolt、27億ドルを調達』、『日本企業も出資する新興市場向けモビリティデータ企業』を取り上げた「欧州イノベーションインサイト:第63回」をお届けします。
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このニュースレターでは、日本企業のグローバル展開、新規事業開拓に役立つ欧州の最新イノベーション、エコシステム、テクノロジー情報を、毎週ピックアップして現地から配信しています。
Scale-Up Europe:欧州テックジャイアント創出に向け始動
約200人のスタートアップ創設者、投資家、政府機関を中心に、フランスのマクロン大統領率いる
Scale-Up Europeが、欧州からテックジャイアントを生み出すため、新たな
マニフェスト及びロードマップを発表した。近年急成長する欧州エコシステムをネクストレベルに引き上げるため、2030年までに1000億ユーロ以上の企業価値を持つテック企業を10社輩出することを目的としている。参加メンバーには、仏公的投資銀行Bpifranceや起業家プログラムのLa French Techをはじめ、Darktrace、Flixbus、UiPath、Wiseなどのユニコーンが名を連ねている。本マニフェストには、その野心的な目標達成に向けた具体的な推奨事項が複数記載されており、民間のファンズオブファンズならびに公的投資機関とのコラボレーションによるレイトステージ企業への投資促進、スタートアップと大企業間の効果的な連携促進、さらに世界を率いるディープテックのパワーハウスを目指す取り組みなどが挙げられた。今後、EUがこれらの推奨事項に沿ったアクションを取るかどうか、注目が集まる。
3DバイオプリンティングのBrinter が資金調達
近年、3Dバイオプリンティングは、継続的な需要と適切な臓器提供者の不足が影響する既存の臓器移植法の効果的な代替手段として、また細胞、組織、臓器のオンデマンド印刷を可能にする再生医療として、医学及び組織工学のアプリケーションでも注目を集めてきた。そんな中、3DTechのスピンオフであるバイオ印刷の
Brinterが、120万ユーロのシード資金調達に成功した。フィンランド発のBrinterは、手動のR&Dから自動化された生産まで、スケーラブルなモジュール式のマルチマテリアルバイオプリンティングプラットフォームを製薬、バイオテック、化粧品業界、また大学や研究施設向けに提供している。そして最終的には、よりパーソナライズされた治療と、心臓や腎臓などの『スペアパーツ』の製造を通じて、より多くの命を救うことを目指している。同社は既に10ヶ国以上で、the University of Glasgow、Johannes Gutenberg University of Mainz, the University of Oulu、the University of Helsinkiなどにソリューションを提供している。
グリーンなバッテリー製造のNorthvolt、27億ドルを調達
ストックホルム発のユニコーンとして知られ、リチウムイオンバッテリーを製造する
Northvoltが、新たに27億ドルを調達し、今までの調達総額が65億ドルに達した。2016年に設立されたNorthvoltは、円筒形及び角柱状のフォーマットで利用可能な独自のLingonberry NMC化学に基づくリチウムイオンセルにより、最小限の二酸化炭素排出量とリサイクル技術で製造された環境に優しいバッテリーを開発している。既存投資家には、Goldman SachsやVolkswagen Groupを抱える上、パートナーにもABB、BMW Group, Scania、Siemens、Vestasなど有名企業が名を連ねている。また既に800名以上の従業員を抱えるNorthvoltの工場は、2021年後半に生産を開始する計画だが、今年初めに発表されたVolkswagenからの140億ドルの注文を含む主要顧客からの需要増加に対応するため、40GWhから60GWhの年間生産能力に拡張する予定だ。
日本企業も出資する新興市場向けモビリティデータ企業
南アフリカ発であるものの、現在はロンドンに本拠地を移し、新興市場の大都市向けにモビリティデータとソリューションを提供する
WhereIsMyTransportが、Googleや豊田通商などの既存投資家、さらにグローバルブレインと共同で設立されたKDDI Open Innovation Fundなどから追加の資金調達を行うことがわかった。同社は、中東欧、東南アジア、アフリカ、南米などの新興市場において、すべての公共交通機関からネットワーク情報をデジタル化し、これらの動的システムの変化に応じてデータの精度を維持することで、乗客エクスペリエンスの向上を図っている。そのモビリティデータは、既にバンコク、メキシコシティ、リマ、ダッカなどで提供され、2023年までには30以上の大都市で展開を予定している。これは、欧州から新興国をターゲットとする興味深いケースと言える。

植木 このみ
Open Innovation Group, Intralink Limited
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