『欧州委、クリーンテック生産量を規定する法案を提案』、『Circularise、Audiの自動車部品リサイクルプロジェクトに参加』、『イスラエルで盛り上がりを見せるアグリ&フードテック』、『バッテリーエネルギー貯蔵ブームはこれからが本番』、『不妊治療クリニックのKindbody、1億ドル調達』、『長期介護保険のAssured Allies、4,250万ドル調達』、『AIアグリフードテックのProfilePrint、食品企業3社と商業契約』、『インドネシア、ゲノミクスの現状についてレポート発表』を取り上げた「イノベーションインサイト:第22回」をお届けします。 
欧州委、クリーンテック生産量を規定する法案を提案
欧州委員会が再生エネルギー、バッテリー、CCUSなどの持続可能な技術に関して、新しい生産目標を計画していることがわかった。これは2030年までにEU内におけるクリーンテック生産能力を40%以上に引き上げることを目的に、特定産業に対して、年間導入量にして太陽光発電の40%、電解槽の50%、ヒートポンプの60%を域内で生産するという具体的な目標も盛り込んでいる。バッテリーと風力発電に関しては、その数値を85%に設定している。この新しい草案は、EUの気候変動に関する目標達成、エネルギー自給の強化、輸入依存度の低減を目指す活動の一環で、クリーンテックの展開を容易にするため、様々な認証プロセスやプロジェクト資金へのアクセスの簡素化も検討されている。なお、この草案は3月14日に欧州委から提出され、その後EU諸国ならびに欧州議会で審議される予定だ。 
Circularise、Audiの自動車部品リサイクルプロジェクトに参加
デジタル製品パスポートを提供するCirculariseが、ライフサイクルの終わりに自動車から回収される「使用後の材料」を新車生産に再利用することを目的とした、AudiのMaterialLoop project に参加したことを発表した。蘭ハーグ発のCirculariseは、100台の自動車から分解・分類された鉄鋼、アルミニウム、プラスチック、ガラスなどの素材グループの動きを、解体からリサイクル、さらに再利用まで追跡するため、ブロックチェーンベースのデジタルツールを提供している。Audiは、材料の回収と再利用により、自動車メーカーにとって、貴重な一時材料の節約、製品のエコロジカルフットプリント低減、二次材料への直接的なアクセスによる供給安定性の向上が可能になると述べている。なお、同社は丸紅と提携し、旭化成からも出資を受けている。2026年に予定されている欧州バッテリー規制の施行に向けて、このような技術の需要はさらに高まると想定される。 
イスラエルで盛り上がりを見せるアグリ&フードテック
イスラエルエコシステムに精通したStart-Up Nation Finderが発表した最新データによると、イスラエルは世界的なクライメートテックハブへの道を突き進んでいるという。過去2年間で、同分野だけで850社以上がVC資金や助成金の確保に成功し、2022年には15億ドル以上を調達している。その中でも現在最も活発なのが、250社以上のスタートアップを要するアグリ&フードテックで、クライメートテックの中でも約20%を占めているという。特に革新的な代替肉を開発するBeliever MeatsやAleph Farmsなどのフードテック企業、また養蜂家向けにロボット巣箱を開発するBeewiseや農場管理プラットフォームのFieldinなど、新しい肥料や精密農業などを通して持続可能な農業を実現するアグリテック企業が活躍している。弊社メンバーが昨年12月にイスラエルを訪問した際も、現地の日本企業から同様の声が上がっており(特集ブログ)、その顕著な成長が注目を集めている。

バッテリーエネルギー貯蔵ブームはこれからが本番
米国における大規模バッテリー貯蔵の展開に関する最新の分析では、急速に成長している同業界の今後数年間の見通しを鑑みて、このブームがまだ始まったばかりであることが示唆された。米国は昨年、記録的な4,221MWという大規模な貯蓄容量の導入を実現した(2021年から29%増)。このうち半分以上は独立した蓄電プロジェクトによるもので、残りは新規及び既存の発電所と併設されたものだった。市場の状況や異常気象の懸念から、施設配備の重点地域は以前と変わりなくカリフォルニア州とテキサス州となり、特にカリフォルニア州の Crimson Battery Storage Project は、昨年に米国で認可された最大のバッテリー貯蔵施設だった(350MW/1,400MWh)。同州は今年も5,071MWという大規模容量で市場をリードしており、それにテキサス州の2,185MW、フロリダ州の546MWが続く。今後5年間で計画されている関連プロジェクトの合計容量は、直近2年間の各22GWを含む、62GW近くにのぼる予定だという。 
不妊治療クリニックのKindbody、1億ドル調達
フェムテックへの投資が増え続ける中、Kindbodyは1億ドルの資金調達に成功し、その企業評価額も18億ドルに達した。同社は不妊治療専門クリニックを運営し、遠隔医療、クリニックでの対面診療、職場や自宅など場所を問わず、アクセスしやすいケアを、家族形成をサポートする企業の福利厚生として提供している。昨年2月にユニコーンとなってから急成長を続ける同社は、現在全国で31のクリニックを運営、ウォルマートなど112の提携先企業に不妊治療サポートを提供し、その利用者数は240万人にのぼる。また、Kindbodyは独自の電子カルテシステム(KindEMR)と患者ポータルを開発し、患者が臨床チームと医療記録にアクセスできる環境を持ち合わせている。今回の調達資金は、ニューヨークやサンフランシスコをはじめとする大都市圏以外の未開拓市場を中心とした10ヶ所のクリニック新設と全国展開に充てられるという。 
長期介護保険のAssured Allies、4,250万ドル調達
退職後の貯蓄に特化したインシュアテック企業のAssured Alliesは、MS&AD Ventures や Samsung Nextといったアジアからの投資家が参加した最新のシリーズBラウンドで、4,250万ドルを調達した。より多くの人々が長生きすることは、経済的負担が伴う長期介護を必要とする人々も増えることを意味する。この状況に対応するために2018年に設立された同社は、機械学習や予測分析などのテクノロジーに加え、サイエンス・オブ・エイジングや本質的な人的サポートを用いて、退職後の商品やプログラムを提供している。Assured Alliesは、長期保険金の請求コストをおよそ20%削減することに成功した初期商品に続き、人工知能と科学的アプローチで商品の作成と引き受けを行う「NeverStop」も発表している。昨年だけで同プラットフォームの利用会員数が300%増加したという同社、今後もあらゆる保険会社やパートナーと連携し、さらなる商品開発を目指す。

AIアグリフードテックのProfilePrint、食品企業3社と商業契約
シンガポールを拠点とするAIアグリフードテックのProfilePrintが、ブラジルの大手食品会社であるLouis Dreyfus Company Brasil、Olam Agrícola Ltda、Sucafina Brasilの3社と商業契約を締結した。同社は、特許取得済みのデジタル食品フィンガープリント技術を搭載した、AI主導の成分プロファイラー及び規格翻訳装置を開発する。その技術は、コーヒー、ココア、穀物、砂糖、ジュースなどの食品成分を、ポータブルアナライザーとソフトウェアプラットフォームを使用し、わずか数秒で予測的・規格的に分析できるという。生産者は、事前のトレーニングを必要とせずに作物の品質を迅速に把握することができ、その真の品質に基づいてより公正な販売価格を得られるようになる。一方で、バイヤーは、独立した信頼性の高いProfilePrintレポートにオンラインでアクセスできるため、作物の品質を瞬時にデジタルで評価し、サンプルを送る必要性を最小限に抑えることができるようになる。 
インドネシア、ゲノミクスの現状についてレポート発表
インドネシアの医療インフラは、他国やWHOの基準に比べて発達が遅れており、改善の余地がある。同国内における非伝染性疾患による死亡率(80%)は世界最高に近く、平均よりも7%高い。その中でもがん、糖尿病、呼吸器疾患に次いで、心血管疾患が主な死因となっている。また、結核の罹患率も世界で最も高い国の一つに入る。こういった全身疾患に関する現状や、2030年までに高齢化が始まるとされる人口動態を鑑みると、事態は深刻だ。East Ventureが発表した最新レポートでは、東南アジアの他国と比較した同国のゲノム開発状況と、その開発を加速させるためのロードマップを紹介している。本レポートによると、ゲノミクスに焦点をおいたインドネシア政府の取り組みや、非伝染性疾患による死亡の80%を予防することができるという精密医療へのアプリケーションなどにより、ゲノミクスが同国において1,100億ドル相当の経済効果をもたらす可能性があると期待されている。
植木 このみ Open Innovation Group, Intralink Limited イントラリンクについて イントラリンクは、日本大手企業の海外イノベーション・新規事業開発、海外ベンチャー企業のアジア事業開発、海外政府機関の経済開発をサポートするグローバルなコンサルティング会社です。