『テルアビブスタートアップ、2022年は68億ドル調達 』、『スペーステックIsar Aerospace、1.5億ユーロを調達』、『EU、域内でのEV充電インフラ強化へ一歩前進』、『アンモニア燃料で排出ガスゼロ、Amogyが約1.4億ドル調達』、『AIブーム継続中、Character.AIが1.5億ドル調達』、『Flare Therapeutics、がん細胞の新治療領域開拓で1.2億ドル調達』、『インドネシアKredivo、みずほ銀行などから2.7億ドル調達』、『Mystifly、シンガポールでの事業拡大に向け800万ドル調達』を取り上げた「イノベーションインサイト:第25回」をお届けします。 
テルアビブスタートアップ、2022年は68億ドル調達
DealroomとTel Aviv Globalが共同で発表した最新レポートによると、テルアビブを拠点とするスタートアップが2022年だけで68億ドルを調達したことがわかった。これはEMEA域内でロンドン、パリに次ぐ規模で、その価値総額も2018年から3.5倍増の3,930億ドルにのぼり、世界で最も急速に成長しているエコシステムの1つとなっている。テルアビブ都市圏には5,700社以上のスタートアップが存在し、そのユニコーン輩出数は世界5位にランクインしている。また産業別では、セキュリティ(17億ドル)、次いでヘルス(9億4,000万ドル)、フィンテック(4億9,100万ドル)、フード(4億1,400万ドル)がリードしている。特にセキュリティに強みを持つテルアビブは、同業界がVC投資総額を占める割合として、世界平均が5.3%であるのに対し、19.2%と4倍近く高い数字を記録している。顕著な活躍を見せる企業例としては、顧客IDおよびアクセス管理を専門とするTransmit Security、ネットワークセキュリティのCato Networks、データストレージのINFINIDATなどが挙げられる。一方、最も成長率の高い分野が「ヘルス」(33%増)、次いで「通信」である点も大きく取り上げられている。 
スペーステックIsar Aerospace、1.5億ユーロを調達
ミュンヘン拠点のIsar Aerospaceが、最新のシリーズCラウンドで、2023年のスペーステック業界で最高額となる1億5,500万ユーロの調達に成功した。これで同社はエアバスやポルシェを含む著名な投資家から、5年足らずで約3億2,400万ユーロを調達したことになる。Isar Aerospaceは、中小型衛星や衛星コンステレーションを地球低軌道に運ぶドイツ初のロケットを開発し、衛星打ち上げサービスでJeff Bezos氏のBlue OriginやElon Musk氏のSpaceXに対抗している。今年後半にノルウェーの発射場からの打ち上げを目指し、既に宇宙飛行体「Spectrum」の製造を開始している。そして、年間10回の打ち上げを迅速に実現し、最終的には年間30~40回まで規模を拡大することを目標としている。なお、宇宙物流会社のD-Orbit、仏衛星スタートアップのExotrail、米打ち上げサービスのSpaceflightなどが既に同社のサービスを求めて契約を完了している。 
EU、域内でのEV充電インフラ強化へ一歩前進
EUの気候関連政策パッケージ「Fit for 55」の主要提案である「代替燃料・インフラ規制」の暫定合意を受けて、電気自動車の充電インフラがEU全域で強化されることとなった。この合意により、2026年までにEU内の主要幹線道路沿いにはEV用の充電ステーションが60kmごとに設置される。また、トラックやバス用の高出力充電器は、2028年までに域内コアネットワークの少なくとも半分で120kmごとに展開される上、水素ステーションも、2031年までに最低200kmごとに設置されなければならない。さらに、消費者が問題視する充電ステーションブランドごとに必要とされる支払い用サブスクリプションサービスの簡易化にも取り組んでおり、デビットカードやクレジットカード、場合によってはQRコードでの支払いを可能にすることで、定期購入の必要性をなくす方向性を打ち出している。なお、この案件はまだ暫定的な合意であり、今後、正式に合意された上で法制化される必要がある。

アンモニア燃料で排出ガスゼロ、Amogyが約1.4億ドル調達
ブルックリン拠点のAmogyが、SK Innovations主導、Temasek、Saudi Aramcoのベンチャー部門などが参加したラウンドで1億3,900万ドルを調達した。国際海運は世界の温室効果ガス排出量の約3%を占め、大気汚染物質を大量に排出している。アンモニアは主に肥料、プラスチック、洗浄剤などに使用されているが、CO2を排出せず、エネルギー密度が比較的高い上、アンモニア製造、貯蔵、輸送のための世界的インフラが確立されていることなどから、船舶に利用するための開発が続けられてきた。そんな中、Amogyは燃料タンクに貯蔵されたアンモニアを水素と窒素に「分解」する化学反応器を開発している。水素が燃料電池に流れ、化学エネルギーを電気に変換してモーターを駆動させる仕組みだ。同社は1月、セミトラックで300キロワットのアンモニア発電システムのテストに成功したと発表したばかり。現在は赤とオレンジのタグボートを動かすための1メガワット版を設計中で、今年後半には、アンモニア発電システムを使って内陸水路を航行する予定だ。 
AIブーム継続中、Character.AIが1.5億ドル調達
大規模言語モデル(LLM)開発企業への投資が続く中、OpenAIのライバルであるCharacter.AIが、Andreessen Horowitz主導のラウンドで1億5,000万ドルを調達し、同社の価値は10億ドルと評価された。Character AIは言語モデルとディープラーニングアルゴリズムを用いて、自分専用のAIチャットボットを作成できる機能を提供。MITの研究者が最近Science誌に発表した論文によると、OpenAI、Anthropic、Adeptのような企業の成功とそこに流れ込む資金は、「現代のAI研究の3大要素(計算能力、大規模データセット、高度なスキルを持つ研究者)を産業界がますます支配するようになった変化」を象徴しているという。AIの専門家はこの現象を「産業捕捉」とも呼んでおり、この先、政策立案者もこの状況を見て見ぬふりをすることが難しくなるだろう。 
Flare Therapeutics、がん細胞の新治療領域開拓で1.2億ドル調達
マサチューセッツ州ケンブリッジ発Flare Therapeuticsが、GordonMD Global Investments とPfizer Venturesが主導し、Eli LillyやNovartisなども参加した最新ラウンドで1億2,300万ドルを調達した。同社はDNAに結合して遺伝子の活性を調節するタンパク質、転写因子を治療ターゲットに精密がん治療薬を開発し、新たな治療領域を切り開いている。転写因子は、腫瘍学の主要治療ターゲットとされているが、薬物療法が非常に困難な構造を持つ。従来の薬物設計のルールが適用されず、機能生化学、遺伝学的洞察などを駆使して、転写因子の中にある「スイッチサイト」と呼ばれる薬物投与可能なポケットを特定しなければならない。これを見つけることで、低分子の精密医薬品の創薬にあたり、どこに薬剤を投与し、どう遺伝子発現を調整すればよいかを把握できる。今回の調達資金は、進行性尿路上皮がん患者を対象にした、がん細胞の増殖を抑える低分子阻害剤FX-909評価のための臨床試験に使用される予定だ。

インドネシアKredivo、みずほ銀行などから2.7億ドル調達
インドネシアとベトナムにて、銀行口座を持たない消費者にクレジットサービスを提供するKredivo Holdingsが、オーバーサブスクライブのシリーズDラウンドで2億7,000万ドルを調達した。同ラウンドをリードしたみずほ銀行は、1億2,500万ドルを出資したと発表している。Kredivo(旧FinAccel)は、新設されたネオバンクのKredivoとKrom Bank Indonesiaの親会社で、提供するサービスには、オンライン・オフラインでの後払い購入、個人向けローン、クレジットカード、またKromを通じた銀行サービスなどが含まれる。さらに、オンライン・オフライン加盟店との直接提携により、Mastercardとの「Infinite Card」や、オフラインカード「Flexicard」など、オープンループ型のクレジットカードのような商品を開発している。なお、Kredivoは銀行口座を持つものの、信用情報機関の貧弱なインフラと、無担保融資に対する従来の銀行の消極的なスタンスを理由に、十分な融資を受けられない人々をターゲットとしており、潜在顧客の信用性を測定する際には、従来の信用情報機関に限らず、通信事業者や電子商取引口座、銀行口座などのデータソースも活用しているという。 
Mystifly、シンガポールでの事業拡大に向け800万ドル調達
MystiflyのAPIは、旅行流通のバリューチェーンに関わるステークホルダー向けに、革新的なSaaSやマーケットプレイスのプラットフォームを提供している。もともと印バンガロールで設立された同社だが、2015年からはシンガポールに本社を構え、250名以上のチームを抱えて急成長を遂げている。Mystiflyは、今回のプレシリーズB ラウンドにおける800万ドルの資金調達を活用して、シンガポールでのSaaS製品やサービスの市場展開を加速させる予定だ。このプラットフォームは、オンライン旅行会社や旅行仲介業者が、航空会社との商業契約の有無に関係なく、格安航空会社(LLC)、新流通規格(NDC)、またグローバル流通システム(を含む膨大な航空運賃の情報にアクセスする手段だけでなく、航空会社が代替的な流通や支払いの調整・決済を行うプラットフォームも提供している。なお、これまでに2,000万件以上の航空券が、このプラットフォームを通じて予約・決済されている。
植木 このみ Open Innovation Group, Intralink Limited イントラリンクについて イントラリンクは、日本大手企業の海外イノベーション・新規事業開発、海外ベンチャー企業のアジア事業開発、海外政府機関の経済開発をサポートするグローバルなコンサルティング会社です。