『4月の注目シード投資』『英The Tyre Collective、タイヤの粉塵を集める装置を開発』『量子コンピュータ会社の IQM が資金調達』『欧州、気候中立なスマート都市を目指す』を取り上げた「欧州イノベーションインサイト:第108回」をお届けします。
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4月の注目シード投資
Siftedは、4月の欧州のシードステージ企業のパフォーマンスについて以下のように分析している。計184社が4月中に資金調達を行い、資金調達額合計は約4億7600万ドルで、3月の結果と同様であった。4月最大のラウンドは、自動車融資プラットフォームを開発する英国のCarmoolaがシードラウンドで約3407万ドルを調達したもので、次いで株式取引のAPIを開発するドイツのスタートアップlemon.marketsが約1582万ドルを調達した。地域別に分類すると、英国、ドイツ、フランスが引き続きシード投資の上位3カ国となっているが、4月はスウェーデンとポーランドがいずれも例年より好調で、5位と6位に順位を上げている。この月次結果は、着実な欧州の企業の成長を示すとともに、欧州のスタートアップエコシステムにおける新たなトレンドの出現も示している。
英The Tyre Collective、タイヤの粉塵を集める装置を開発
Emissions Analyticsの分析によると、タイヤの摩耗による汚染物質は環境中で2番目に多くのマイクロプラスチックを生み出しており、自動車の排気ガスから発生する汚染の1,000倍に及ぶ可能性があるという。この問題に取り組むため、英国に拠点を置くスタートアップ企業The Tyre Collectiveは、自動車のタイヤに取り付けて発生するタイヤの粉塵を集める装置を開発した。この装置は静電気と回転するホイールの空気力学を利用する仕組みで、空気中の粒子の60%を捕集することができる。将来的には、50ミクロン以下の回収した粒子を新しいタイヤウォールなどに再利用するクローズドループモデルを作ることも計画している。自動車産業をより持続可能なものにするこのスタートアップの可能性は、すでにJames Dyson Awardをはじめとする数々の業績で認められている。
量子コンピュータ会社の IQM が資金調達
量子コンピュータは、欧州において戦略上の重要な分野として台頭してきた。このような背景から、欧州投資銀行(EIB)はフィンランドに拠点を置く IQM Quantum Computersに対し、超伝導技術を用いた量子プロセッサーの開発および商業化のために約3,691 万ドルを供与すると発表した。この資金は、IQM 社がフィンランドのエスポーにある最初の製造施設を拡張し量子プロセッサーの研究開発を加速するために活用される。世界的なチップ不足の中、IQM社は将来的に量子チップのグローバルプロバイダーとなり、欧州のさらなる自立を可能にすることを目指す。欧州は量子研究に優れており、EIB のような資金提供は欧州の量子エコシステムのさらなる発展に貢献している。
欧州、気候中立なスマート都市を目指す
都市部は世界のエネルギーの65%以上を消費し、CO2排出量の70%以上を占めている。このような背景から、欧州委員会は「Cities Mission」を立ち上げた。このプロジェクトの一環として、欧州の100都市が約3億8,000万ドルの資金援助を受け、2030年までにクライメイト・ニュートラル(気候中立)の達成を目指す。この目標は、クリーンモビリティ、エネルギー効率、グリーン都市計画といった重要なテーマに取り組むことによって実現される。選ばれた100都市には、パリ、ローマ、マドリードなどの有名な首都だけでなく、欧州新興国の28都市も含まれている(選ばれた都市の全リストはこちらを参照)。Cities Missionは欧州グリーン・ディールに大きく貢献するとともに、欧州大陸全体のイノベーションを促進し、他の国々での同様の取り組みにも影響を与えることが期待される。

植木 このみ
Open Innovation Group, Intralink Limited
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