『欧州、バッテリー式EVの普及率が最も高い国とは?』、『神経変性疾患の早期発見へ、イヤホン型脳波測定デバイス』、『英国監査機関、ジェネレーティブAIに関する初期評価を発表』、『HVACと太陽光インテグレーターのRedaptive、2.6億ドル調達』、『Cohere、最大2.5億ドル調達へ向けて協議中』、『UVeye、「自動車用MRI」で1億ドル調達』、『SMBC、シンガポールでCVCを設立』、『医薬品マーケットプレイスのBuyMed、5,150万ドルを調達』を取り上げた「イノベーションインサイト:第31回」をお届けします。 
欧州、バッテリー式EVの普及率が最も高い国とは?
欧州自動車業界において、急速に電動化が進んでいる。EU諸国のバッテリー式電気自動車数は、2022年だけで、190万台から310万台へ、前年比58%増となった。保有台数を国別に見ると、100万台を超えるドイツがトップとなっている。しかし、普及率においては、ドイツなどは1.3%にとどまり、意外な国が1位となった。バッテリー式電気自動車の欧州内シェアが一番高いノルウェーが、2021年時点で15.5%という顕著な数値を記録している。この成功は、同国の「あめとむち」に基づいたアプローチに起因しているかもしれない。ノルウェーは、2025年までに販売される新車はすべて排ガスゼロでなければならないという厳しい公害規制に関する目標を掲げる一方、自動車に必要な登録税の免除に加え、道路税、フェリー料金、駐車料金の50%削減など、ゼロエミッション車への補助金が数多く存在している。今後、欧州全域、さらに全世界におけるこのようなアプローチの普及が、さらなる電動化の加速をもたらすことを期待したい。 
神経変性疾患の早期発見へ、イヤホン型脳波測定デバイス
アルツハイマー病やパーキンソン病などの脳疾患は、診断が遅すぎることが多く、利用可能な治療法から最適な効果を得ることが難しい。この問題に対処するため、コペンハーゲン大学病院Rigshospitalet、Aarhus University、ヘルステックスタートアップのT&W Engineeringが、4年間で2600万デンマーククローネ(約400万ドル)を投入するプロジェクト「PANDA」の一環として、疾患の早期発見を目的としたイヤホン型EEG(脳波測定)デバイスを共同開発している。この装置には様々なセンサーが搭載されており、脳の電気活動や睡眠パターンを測定することで、これらの神経変性疾患の初期兆候を把握することができる。またイヤホンのように見えるデザインで、従来の睡眠測定方法よりも邪魔にならないことから、快適に使用できるという。このプロジェクトでは、既存の診断方法よりも10~15年早く疾患を特定し、より良い治療法を選択できるだけでなく、患者が自宅で長期間使用できるようなシンプルな技術にすることで、深刻な脳疾患が個人と医療システムに与える影響を軽減することを目指している。 
英国監査機関、ジェネレーティブAIに関する初期評価を発表
日本の公正取引委員会に相当する英国競争・市場庁(CMA)は、英政府の要請によりOpenAIのChatGPT、DALL-E、Midjourney、MicrosoftのNew Bingといったソリューションを支える「AI基盤モデル」の初期評価を発表した。CMAは、AI基盤モデルの開発及び使用における競争や消費者保護の考慮事項を検証する予定。9月初旬にその結果を公表することから、利害関係者は、検証作業に関連する回答を6月2日までに提出する必要がある。このAI基盤モデルの見直しは、AIに関連するイノベーションが消費者、企業、英国経済に利益をもたらすこと形で継続していくことを確認するためのもので、CMAとは別に、英国のデータ保護監視機関であるICOもジェネレーティブAIに目を向けている。なお、今回の発表は、イタリアやスペインなどの欧州政府が、ChatGPTのようなモデルが消費者のプライバシーに与える影響を検討し始めている時期と並行して行われている。

HVACと太陽光インテグレーターのRedaptive、2.6億ドル調達
デンバー発Redaptiveが、Linse Capitalが主導し、カナダ年金基金投資、Honeywell、CBREが参加したシリーズEラウンドで2億6,400万ドルを調達した。Redaptiveは、スマートメーター、暖房、換気、空調(HVAC)のアップグレード、LED照明システムなどのエネルギー効率化システムを提供する。顧客に初期費用がかからない同社のビジネスモデルは、「energy-as-a-service」の月極契約で、より多くの企業がエネルギー効率化に取り組むことができる。全米には45万以上の倉庫や配送センターに、164億平方フィートの屋根スペースがあるため、新しい商業・産業用太陽光発電設備の設置に適した環境と言える。2021年以降、商業ビルの電気代が平均10%上昇する中、同社の効率化ソリューションで、年間15%以上のエネルギー削減を実現できる上、オンサイト太陽光発電により、さらなる節約が期待できると予測されている。 
Cohere、最大2.5億ドル調達へ向けて協議中
チップメーカーのNvidiaやその他投資会社と資金確保について協議中のトロント発AIスタートアップ Cohereは現在、iNovia Capital主導による最大2億5,000万ドルの資金調達を進めている。2019年に設立されたCohereは、テキストの生成、要約、解釈に使用できる大規模な言語モデル(LLM)を開発している。Cohereのユニークなアプローチは、OpenAIのChatGPTのように一般向けサービスではなく、企業顧客に焦点を絞っている点。長い間テック大手の独占領域であったLLMだが、AI搭載アプリケーション構築を目指す、あらゆる規模の企業に向けたLLMサービスの提供を戦略としている。Spotifyや法務AIのCasetextなどを顧客として抱えるCohere、収益はまだ控えめだが、クライアントの現実的なビジネス課題を解決し、収益を迅速かつ大幅に拡大することによって、高額な評価を正当化することが今後の課題だ。 
UVeye、「自動車用MRI」で1億ドル調達
コンピュータビジョンと機械学習を組み合わせて、迅速かつ正確に車両を検査できるシステムを構築するUVeyeは、Hanaco VCが主導し、GM Venturesなどの既存投資家が参加したシリーズDラウンドで1億ドルを調達した。この最新ラウンドで、ニュージャージーとテルアビブに拠点を持つ同社の評価額は約8億ドルに達した。2019年頃、多くの車両が車台に機械的な問題を抱えるようになった現状を目の当たりにし、当時はセキュリティ側に使用されていた自社システムを、検査の方に活用する機会を見出した。最初の商用ユースケースは、新車サプライチェーンの一部としてOEMをサポート、提携することだったが、それ以来UVeyeは拡大し、今日ではディーラー部門、中古車やオークション、保険会社、商用フリートなど、車両のライフサイクル全体をサポートしている。UVeyeは、今回の資金調達により、北米での検査装置の生産開始と販売拡大の加速を目指す。

SMBC、シンガポールでCVCを設立
三井住友銀行が、アジアにおける有望なスタートアップへの投資を通じた事業開発・提携を加速するため、インキュベイトファンドと共同で、シンガポールにCVC「SMBC Asia Rising Fund」を設立した。同社は、今後10年間で2億ドルを運用し、SMBCグループの事業成長に貢献するスタートアップに投資するとしている。特に投資先企業とのパートナーシップによる新技術の発掘・応用や、新たなビジネスモデル・製品の開発により、事業の強化や顧客への新たなソリューション提供を図っていく。 
医薬品マーケットプレイスのBuyMed、5,150万ドルを調達
シンガポールに本社を置くヘルステック企業BuyMedは、これまでにベトナム事業展開のため、6,350万ドルの資金を獲得してきた。2018年に設立されたBuyMedは、高品質で価格競争力のある製品を迅速にエンドユーザーに提供することを保証し、ベトナム全土に広がる数千の薬局や診療所にサービスを提供するBtoB医薬品流通プラットフォーム、thuocsi.vnを運営している。最新のシリーズBラウンドでは、1,800万ドルを出資した米国国際開発金融公社(DFC)などから5,150万ドルを調達し、地方における薬局、診療所、病院の医薬品へのアクセスを拡大し、ベトナムのヘルスケア産業における透明性とコンプライアンスの向上を図る。
植木 このみ Corporate Innovation Services, Intralink Limited イントラリンクについて イントラリンクは、日本大手企業の海外イノベーション・新規事業開発、海外ベンチャー企業のアジア事業開発、海外政府機関の経済開発をサポートするグローバルなコンサルティング会社です。