『「オフセットによるネットゼロ製品」広告、英国で禁止に』、『BASFの社内インキュベーター、外部スタートアップを受け入れへ』、『スピンアウトやバイオテックが躍進、ヴィリニュスエコシステム』、『クリーンエネルギーのModern Hydrogen、3,280万ドル調達』、『購買SaaSのZip、15億ドルの評価額で1億ドル調達』、『スマホ尿検査で米事業拡大へ』、『Healthy.ioが5,000万ドル調達』、『「使い捨て」ブラウザのSquareX、Sequoia SEAより資金調達』、『ecoSPIRITS、酒類の循環型包装テックで1,000万ドル調達』を取り上げた「イノベーションインサイト:第32回」をお届けします。

「オフセットによるネットゼロ製品」広告、英国で禁止に
企業が製品の環境影響について消費者に誤解を与えているとの懸念が高まる中、英国広告基準局(ASA)は、グリーンウォッシュ取り締まりの一環として、「カーボンニュートラル」、「ネットゼロ」、「ネイチャーポジティブ」などの用語の使用について、より厳しい規制を導入する。この計画では、企業が「カーボンオフセットを購入しているため、消費者が環境に影響を与えることなく製品を購入できる」と主張する広告を禁止する予定だ。これは、ASAが3月に独航空大手ルフトハンザのグリーン広告を、消費者に誤解を与えるとして禁止したことに続くものだが、1月にも、世界有数のカーボンオフセット基準管理団体であるVerraが認証した多くの熱帯雨林関連プロジェクトが、大手企業の環境主張のために広く利用されているにもかかわらず、ほとんど影響を与えていないことが明らかになったばかり。自主的炭素市場の改革が求められる中、今回のASAの発表は、EUが提案する「グリーンクレーム指令」とともに、企業が自らのビジネスの脱炭素化を急ぐ必要があることを改めて示していると言える。 
BASFの社内インキュベーター、外部スタートアップを受け入れへ
BASFの社内向けインキュベーターChemovatorが、初めて社外のスタートアップに門戸を開いた。Chemovatorは、2018年から社内起業家を支援しており、この間、持続可能性やサービスの最適化など様々な分野で30以上のビジネスアイデアを開発してきた。特に防火、プラスチック用安定剤、持続可能なパッケージング、農作物保護などの領域における次世代材料のイノベーションに力を入れている。成功したスピンアウト企業例には、化学分野のパッケージやラベル向けソリューションのBOXLAB Services、化学、製薬業界向けにAIを搭載したデジタルアシスタントのrecobo、細胞培養用のポリマーコーティングのfaCellitateなどが挙げられる。今後の外部向けプログラムでは、選出されたディープテック企業に起業家、投資家、BASFの幅広いネットワークから、資金援助、指導、コーチングなどのサポートを提供する。このBASFの取り組みは、業界のニーズに対応するためには、社内外両方のイノベーションの取り入れが重要であることを示唆している。 
スピンアウトやバイオテックが躍進、ヴィリニュスエコシステム
740社のスタートアップと3社のユニコーンを擁するヴィリニュスは、リトアニアの成長するスタートアップエコシステムの中心である。Dealroomによると、そのエコシステムの価値は、2018年の5億ユーロから2022年には80億ユーロに成長し、同都市に本社を構えるスタートアップは、昨年にリトアニア企業が調達した資金全体の95%を占めている。注目分野は、ICT、フィンテック、レーザーテックなどだが、Sunrise Valley Science and Technology Park(リトアニア最大の科学・研究・ビジネス統合センター)によると、バイオテック、ディープテック、クリーンテックも投資家の関心を集めながら、勢いを増しているという。ヴィリニュスの成功は、強力なSTEM人材、小型衛星メーカーNanoAvionics(KONGSBERGが買収)のような大学からのスピンアウト企業の活躍、また研究開発への公的資金援助に起因している。さらに、「Move to Vilnius」のようなイニシアチブも、国際的な才能をリトアニアに惹きつけ、エコシステムのさらなる強化に貢献している。

クリーンエネルギーのModern Hydrogen、3,280万ドル調達
ワシントン州拠点のModern Hydrogenは、NextEra Energyが主導し、MIURAやNational Grid Partnersが参加する新規ラウンドで3,280万ドルを調達した。同社は、化石燃料から得られる天然ガスや、糞尿などから得られるバイオガスから炭素を除去し、水素を製造するメタン熱分解リアクターを開発しており、製鉄などの工業プロセス、燃料電池に応用することができる。また、反応炉からはカーボンブラックと呼ばれる炭素の固形物質が生成され、タイヤ、ゴム、インクなどに使用できる。気候変動への懸念の高まりなどから、水素への関心が急速に高まっているが、水素製造の大きな課題のひとつは、製造現場から使用場所への移動コストだ。Modern Hydrogenが開発する小型でモジュール化された装置は、水素を新しい場所に輸送したり配管したりする必要がないというメリットで差分化を図る。同社は今回の調達資金で、シアトル近郊に試験施設を設立し、2025年初頭の商用化を計画中だ。 
購買SaaSのZip、15億ドルの評価額で1億ドル調達
企業の購買プラットフォームを開発するZipは、Y Combinatorが主導した1億ドルのシリーズCラウンドを完了した。サンフランシスコ拠点の同社、従業員が購入を開始すると、財務、法務、IT、セキュリティなどのチーム間での承認され、企業リソース管理ソフトウェアに転送される「intake-to-procure」ソリューションを開発している。最近追加された新機能により、発注書の発行、請求書の処理、支払いなどの拡張機能も提供する。2020年、パンデミックの真っ只中に設立されたZipは、前回の資金調達を完了した2022年5月以降、Snowflake、Coinbase、Canva、Databricksといった企業を加え、クライアント数を倍以上に増やした。現在、毎月10億ドル近くがZipプラットフォーム上で承認されており、今後は調達した資金で、ジェネレーティブAIベースの新しい機能をプラットフォームに追加し、一段と効率化された購買プロセスの提供を検討している。 
スマホ尿検査で米事業拡大へ、Healthy.ioが5,000万ドル調達
スマートフォンのカメラを臨床に利用可能な医療デバイスに変える、デジタルヘルススタートアップHealthy.ioは、Schusterman Family Investmentsが主導したシリーズDラウンドで5,000万ドルを調達した。スマホを使った尿分析テストを提供する同社が開発し、昨年夏に家庭用医療機器としてFDA認可を受けたMinuteful Kidneyテストは、慢性腎臓病の初期兆候となりうる尿中のアルブミンというタンパク質の増加をチェックする。患者は、試験紙を尿カップに浸し、アプリを使ってカラーボードと並べて写真を撮ることで、尿アルブミン・クレアチニン比(ACR)を判定できる。従来、ACR検査は病院での検査から結果が出るまで数日を要していたが、自宅で簡単に実施することで、患者の負担を大幅に減らす。米国とイスラエルを拠点とする同社だが、今回の調達資金は米国市場における事業拡大に充てる予定だ。

「使い捨て」ブラウザのSquareX、Sequoia SEAより資金調達
シンガポールを拠点とするサイバーセキュリティスタートアップのSquareXは、Sequoia Capital Southeast Asiaより600万ドルのシード資金を調達したと発表した。この資金は、研究開発エンジニアリングと市場参入計画に使用する方針だ。同社の「使い捨て」ブラウザは、いかなる場所からでも匿名のブラウジングを可能にし、ユーザーはいつでもそれを「廃棄」できる。データやブラウザセッションは「破壊」され、SquareXのサーバーからも直ちに削除されるというのだ。同社の狙いは、ブラウザベースのクラウドSaasツールとの併用にある。拡張機能として既存のブラウザと統合することで、ユーザーはこの「使い捨て」ブラウザを通じてリンクやファイルを開けるようになる。これにより、現在のサイバーセキュリティ製品に取って代わる、という発想だ。またヘッドレスブラウザはSquareXのデータセンターで動作するため、脅威がユーザーのコンピュータに到達することはなく、また個人情報漏洩への不安もなくなるという。なお、同社の市場進出戦略は、まず米国、英国、アジアに重点を置く予定だ。 
ecoSPIRITS、酒類の循環型包装テックで1,000万ドル調達
シンガポール発ecoSPIRITSは、サーキュラーエコノミーに特化したニューヨーク発Closed Loop Partnersが主導したオーバーサブスクライブのシリーズAラウンドで、1,000万ドルを調達した。同ラウンドには、他にもProterra Asia、Pavilion Capital、世界的なワイン・蒸留酒メーカーであるPernod Ricardのベンチャー部門であるConvivialité Venturesなどが参加した。2018年設立のecoSPIRITSは、プレミアムスピリッツとワイン向けの低炭素・低廃棄物流通技術を開発する。またパッケージングと輸送コストを劇的に削減することで、強力なコスト優位性と変革的なカーボンフットプリント削減の両方を実現するという。同社の技術は現在、アジア太平洋、欧州、アメリカ大陸の15ヶ国にて、1,500以上のバー、レストラン、ホテルで採用されている。今回の資金は、スピリッツとワインのクローズドループパッケージング技術における地位強化と、研究開発プログラム加速に活用される予定だ。
植木 このみ Corporate Innovation Services, Intralink Limited イントラリンクについて イントラリンクは、日本大手企業の海外イノベーション・新規事業開発、海外ベンチャー企業のアジア事業開発、海外政府機関の経済開発をサポートするグローバルなコンサルティング会社です。