『蘭AIのToloka、ジェフ・ベゾス氏などから7,200万ドルを調達』、『画質向上ソリューションのEyeo、1,500万ユーロのシード資金調達』、『Bosch、ディープテック企業支援で2.5億ユーロのファンド設立』、『Stylus、新たな遺伝子編集技術で8,500万ドルを調達』、『Realta Fusion、ボトル型核融合炉の開発に向け3,600万ドル調達』、『Inductive Bio、小分子創薬の革新目指し2,500万ドルを調達』、『Bolttechと住友商事が提携、アジアで組み込み型ソリューション展開』、『Krenovator、AI人材プラットフォームで資金調達』を取り上げた「イノベーションインサイト:第133回」をお届けします。

オランダを拠点とするAIデータ・スタートアップのTolokaが、Amazon創業者ジェフ・ベゾス氏の投資会社Bezos Expeditionsが主導する7,200万ドルの戦略的投資を受けたと発表した。2014年に設立されたTolokaは、AIモデルのトレーニングや評価に不可欠な、人間が検証した高品質のデータを提供している。これは100ヶ国以上に配置され、40の言語と50の知識ドメインをカバーする、20万人以上のエキスパートとアノテーターからなるTolokaのネットワークを通じて行われる。このソリューションは、企業アシスタント、コーディング・コパイロット、会話エージェントなどのアプリケーション向けにAIエージェントの開発や検証に使用可能で、すでにAmazon、Microsoft、Shopifyなどの大手企業に採用されている。Tolokaは今回の資金調達により、自動化と人間の専門知識を組み合わせた「人間とAIのハイブリッド」ソリューションの開発を進め、安全で信頼性の高い、そして人間を主体としたAIの将来を形作りたいという。

ベルギーの半導体研究機関imecからのスピンオフとして2023年に設立されたEyeoは、その画質向上ソリューションで1,500万ユーロのシード資金を確保した。Eyeoの技術は、カメラのサイズを大きくすることなしに、画質、解像度、低照度性能を大幅に向上させるもので、入射光の大部分を吸収し、画質に悪影響を与えるカラーフィルター(赤、緑、青)に依存する従来のイメージセンサーに代わるものと期待されている。Eyeoの特許取得済みの色分割技術は、ナノフォトニック構造を使用しながら従来のフィルターに関連する損失なしに光を分割するため、スマートフォン端末用の超小型センサーへの活用も可能となる。また自律走行車のビジョン・システムの信頼性向上や、診断用の鮮明画像を提供する医療用画像処理などの分野にも活用できる。なお、同社は今後2年以内に技術のスケールアップとともに、特定の顧客への評価キットの提供を開始する予定である。

Bosch Venturesは、電動化、クライメートテック、オートメーションなどの分野におけるディープテック企業を支援する2億5,000万ユーロのファンドVIを立ち上げた。同社は、毎年2,000社以上のスタートアップを審査しているものの、最終選考に残るのはわずか100社程度、そして実際に出資する企業は厳選された6~10社に限られるという。その結果、2007年の設立以来、Xometry(産業用部品のオンデマンド製造)やIonQ(量子コンピューティング)、さらにAleph Alpha(AI)などの企業に100件以上の投資を行ってきた。これらのスタートアップに資金面だけでなく、ノウハウや運営面でのサポートも提供するBosch Venturesは、さらに2018年からスタートアップとBoschの事業部門を結びつける「Open Bosch」プログラムも実施しており、投資先に同社のサプライヤーやテクノロジー・パートナーとなる機会を提供するとともに、最先端技術へのいち早いアクセスを実現している。


マサチューセッツ州ケンブリッジ発Stylus Medicineは、ステルスモードを脱し、シリーズAラウンドで総額8,500万ドルの資金調達を発表した。出資者には、中外製薬ベンチャーファンド、Eli Lilly、Johnson & Johnson Innovationなどの大手が名を連ねる。遺伝子編集の専門家パトリック・スー博士によって共同設立されたStylusは、体内に直接遺伝子を導入して治療するin vivo遺伝子治療法の進化と簡素化を目指す。同社のプラットフォームは「治療グレードのリコンビナーゼ(組換え酵素)」、「複雑な治療用ペイロード」、「標的型リポソームナノ粒子(LNP)デリバリー」という3つの中核要素で構成されている。Stylus独自のリコンビナーゼ機構により、大きな遺伝子挿入が高精度で可能となり、たとえばCAR-T療法にサイトカインなどの要素を加えることで、治療効果を高めることができる。モジュール構造を採用したプラットフォームで、CAR構造を簡単に入れ替え可能なことから、新たな抗原、ひいては新たながん種や製品への対応が期待されている。

Realta Fusionは、試作核融合炉Anvilの設計開発を推進するため、Future Venturesが主導、Khosla Ventures、Mayfieldなども参加したシリーズAラウンドで3,600万ドルを調達した。3年前にウィスコンシン大学からスピンアウトして設立された同社は、磁気ミラー方式による核融合炉を開発している。強力な磁場を用いてプラズマを対称的な「ボトル」状に閉じ込める設計を採用しており、モジュール構造によるスケーラブルな拡張が可能だという。同社は最終的に、現代の天然ガス発電所と競合する40〜100ドル/メガワット時の電力供給を実現する計画だ。最近では磁場閉じ込めの記録を更新し、政治的な支援が拡大しつつあるウィスコンシン州での核技術クラスターの一員となっている。投資環境が冷え込む核融合分野だが、Realtaはこの資金調達期間中にAnvilの設計を最終化し、シリーズBラウンドで建設フェーズに入るための基盤作りを狙っている。

AIを活用して小分子医薬品の創薬を革新するInductive Bioは、Obvious Ventures主導のシリーズAラウンドで2,500万ドルを調達した。従来の創薬プロセスにおける非効率性の解消を目的に設立された同社の中心的な取り組みは、製薬企業が競争で医薬品開発を行う前の基礎研究的な段階である「pre-competitive」データコンソーシアムと呼ばれる枠組みで、複数の企業が匿名化されたデータを提供し合い、それをもとに強力な予測モデルを構築するための基盤データセットを形成している。このデータを活用したCompassプラットフォームでは、化合物を合成する前にADMET (吸収、分布、代謝、排泄、毒性)特性を予測し、創薬化学者がより有望な候補分子に効率的かつ迅速にたどり着けるよう支援している。Compassは、これまでに数十件の創薬プロジェクトと100万件を超える化合物設計をサポートした実績もある。今後は研究開発を加速し、データコンソーシアムの拡大と製薬業界全体への展開を進め、将来的にはAIを基盤としたCRO(受託研究機関)の立ち上げも目指している。


シンガポール発のインシュアテック企業Bolttechが住友商事との提携により、アジア地域の流通パートナー向けに、テクノロジーを活用した組み込み型ソリューションを共同で提供すると発表した。このソリューションは、デバイスのアップグレードを含むエンドツーエンドのデバイス・ライフサイクル管理を可能とし、流通パートナーによる地域顧客への包括的かつシームレスなサービス提供を支援するものとなる。スマートフォンの価格上昇と新興市場における普及率向上に伴い、グローバル市場ではデバイス保護サービスの需要が拡大している。この動向を背景に、両社はまず東南アジアにおいてデバイス・アップグレード・プログラムの展開を開始する。Bolttechの広範な流通網と、住友商事の融資・保証ネットワークを融合させることで、地域における新たな価値創出を目指す。

AIを活用した企業向け技術人材プラットフォームを展開するKrenovator Technologyは、シンガポールおよびマレーシアに拠点を置くVC・PEファンドIgnite Asiaより、非開示のシード資金調達を実施した。今回調達した資金は、チームの拡充、ならびにマーケティング・営業活動の強化に戦略的に活用される予定である。Krenovatorは2019年設立され、石油・ガス、物流、製造、金融、通信など多様な業界において、企業の重要プロジェクトと最適な人材を結び付けてきた。現在、同社はマレーシアおよびインドネシアを中心に、約3万人の技術者ネットワークを保有しており、ソフトウェア開発者やテスター、アナリスト、データサイエンティストなどの人材へのアクセスを可能としている。同社のプラットフォームは、スキルアップ支援ツールの提供やコミュニティ構築にも力を入れており、企業と人材双方にとって持続可能な成長を促すエコシステムの形成を目指している。この動きは、デジタル経済の進展に伴う、東南アジアにおける技術人材市場の高度化を物語っている。
