『世界初、OS非依存・非接触型のアイトラッキング技術』、『英Opteran、昆虫の脳でロボットの自律性向上を図る?!』、『対メンタルヘルス医薬品開発のATAIが大規模な資金調達に成功』、『欧州→米国→欧州に焦点を戻した独SAPのCVC』を取り上げた「欧州イノベーションインサイト:第35回」をお届けします。
このニュースレターでは、日本企業のグローバル展開、新規事業開拓に役立つ欧州の最新イノベーション、エコシステム、テクノロジー情報を、毎週ピックアップして現地から配信しています。
世界初、OS非依存・非接触型のアイトラッキング技術
スペイン発
Irisbondが、ハンズフリー兼マルチプラットフォームアイトラッキングのHiruを開発した。同社のソリューションは、AIを用いて目の動きを捉え、それを画面上での正確なアクションに変換することができる高度なソフトウェアアルゴリズムに基づいており、異なるプラットフォーム上で使用できる初の技術である(
video)。Hiruのハンズフリー技術は、パンデミックにおいて新しい、安全なコミュニケーション方法を提供することをができ、コンピューター、ATM、エレベーター、ビル管理などで採用されている。またニューロマーケティング、自動車、スマートホーム、ロボティックス、ヘルスケア、教育などの業界での活用のため、既に複数の契約を締結している。同社によると、Hiruにより提携企業各社が自由にこのトラッキング機能を設計・開発することができるため、今まで以上に幅広いアプリケーションの開発に繋がる上、コスト、時間、使いやすさなどの重要な側面が改善されるとしている。Hiruの一般販売は来年初旬に開始されるものの、Irisbondは今後も、米MITとともにアルゴリズム改良のため研究調査を重ねていく予定だ。
Opteran、昆虫の脳でロボットの自律性向上を図る?!
英国の自然知能企業
Opteranは、昆虫の脳の機能に基づき、自律性に対する軽量でシリコンベースのアプローチを開拓するために、新たなシード資金調達に成功した。シェフィールド大学からスピンアウトした同社は、長年昆虫の脳に関する研究を行ってきた研究者によって設立された。サイズとしては昆虫の脳は非常に小さいものの、視覚の流れを利用して奥行きや距離を認識し、高度な意思決定やナビゲーションを行うことが可能であり、Opteranによると、これはデータセンターや大規模な事前トレーニングを必要とする現在のディープラーニングよりもはるかに効率的で、頑強な、さらに透明性の高い方法で自律性を実現することができるという。そして同社は、昆虫の脳をリバースエンジニアリングすることにより、視覚、物体感知、障害物回避、ナビゲーション、意思決定などのタスクを模倣することができるアルゴリズムの生成を目指している。Opteranが開発するOpteran Development Kit(ODK)は、重量が約30gで、消費電力も1ワット未満であるため、同社の技術は今後、自律自動車、ドローン、採鉱ロボット、宇宙ロボットなどあらゆるロボティックス業界で活用することができると期待されている。
対メンタルヘルス医薬品開発のATAIが大規模な資金調達に成功
グローバルバイオテック企業の
ATAI Life Sciencesが、最新のシリーズCラウンドでPayPal共同創業者・有名投資家であるPeter Thiel氏などから約1.2億ドルの資金調達に成功した。ATAIは、メンタルヘルス患者のアンメットメディカルニーズに応えるため、2018年からうつ病、不安神経症、依存症、その他の精神障害の治療に対する革新的な治療法の効率的な開発、取得、インキュベーションに取り組んできた。現在、同社は独ベルリン本社に加え、米ニューヨークとサンディエゴにも拠点を構え、既に10社以上の医薬品開発企業と提携し、研究者の資金調達や規制当局との協力、また臨床実験の実施を支援してきた。今回の調達資金は、治療抵抗性うつ病のためのar-ketamine 、オピオイド(鎮痛剤)依存症のためのibogaine など、主にATAIの既存メンタルヘルスプログラムの前臨床及び臨床開発、さらにパイプラインの拡大とプラットフォーム技術の開発促進に活用される予定。現在まで、ATAIの医薬品はいずれも規制当局によって正式な承認は受けていないものの、米FDAが最近Johnson & Johnsonの抗うつ剤点鼻薬を承認したこともあり、近い内にATAIもその後を追うと期待されている。
欧州→米国→欧州に焦点を戻した独SAPのCVC
独大手ソフトウェア会社SAPから2011年に独立したコーポレートベンチャーキャピタルの
Sapphire Venturesが、投資企業のフォーカスを米国から欧州にシフトするという。同CVCはもともと、シリコンバレーのスタートアップに投資を行うために同地に本拠点を置く形で設立され、出資額全体の80%以上を米国企業に投入してきた。しかし現在、その流れに変化が生まれているという。特にここ数年、多くのユニコーン企業だけでなく、UIPathやCelonisをはじめとする大規模なB2Bビジネスを生み出している欧州エコシステムの成長により、Sapphire Venturesは英ロンドンに拠点を設置することを発表した。昨年末に14億ドルと大規模な投資資金を調達した同社は、欧州において、ユニコーンの英中古車販売プラットフォームのCazooや海外送金のTransferwiseだけでなく、オーストリア発のマーケティングスタートアップの
Adverityや、ドイツ発のコンテンツ管理プラットフォームの
Contentfulなどにも投資を行ってきた。米国企業のスカウティングのために設立された投資組織でさえ、欧州に焦点を置くと決断したというこのニュースは、ヨーロッパのスタートアップエコシステムが真の成長を見せているというサインであり、それに伴い、日本企業もシリコンバレーから欧州へと視野を広げていくべきとも言える。
植木このみ
Open Innovation Group, Intralink Limited
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