『住友商事、英鉱物化スタートアップと提携』、『先端素材リサイクルのFairmat、今年最大規模のシリーズA資金調達』、『世界初、太陽光を追跡する水上太陽光発電所島』、『米Luminopia、子供の弱視治療法をVRで開拓』、『在宅ケアのDispatchHealth、3億3千万ドル超を調達』、『Aquacycl、微生物燃料電池で産業廃水浄化に挑む』、『URECA、誰でも使える カーボンオフセットプラットフォーム』、『Gotion とVinGroup がベトナムにバッテリー工場を開設』を取り上げた「イノベーションインサイト:第8回」をお届けします。
住友商事、英鉱物化スタートアップと提携
住友商事が、英国を拠点とする
Protostar Group Limited (44.01というブランド名でもよく知られる)と脱炭素ビジネスの開発・展開に関する資本業務提携を行うと発表した。2020年に設立された44.01は、かんらん岩へのCO2回収・鉱物化を行うことで、CO2を地下に恒久的に固定する技術を開発しており、2040年までに10億トンのCO2を鉱物化することを目標としている。またこのCO2鉱化技術は、中東をはじめ、欧米、日本など、地表近くにかんらん石が存在することが確認されている幅広い地域で導入可能で、大気中のCO2を直接回収するDirect Air Capture事業者だけでなく、CO2排出企業にもサービスとして提供することができる。住友商事はこの提携を通じて、事業開発及び技術支援を行うだけでなく、製鉄、発電、天然ガス、アルミニウム製錬、水素・アンモニアなど、同社が関与するさまざまな分野での活用を目指すという。
先端素材リサイクルのFairmat、今年最大規模のシリーズA資金調達
パリを拠点に先端素材のリサイクルに取り組む
Fairmat が、最新のシリーズAラウンドで3400万ユーロを調達した。この調達額は、フランス及び欧州ディープテック企業にとって、今年最大のシリーズAラウンドのひとつとなっている。同社は、風力発電機や航空機に使用されている炭素繊維複合材などの先端素材をリサイクルし、生成された新素材は航空宇宙、モビリティ、風力エネルギー、グリーン建設だけでなく、家電やレジャー用品など様々な産業で使用することができる。Fairmatは既に、航空機メーカーのDassault Aviationや風力発電のSiemens Gamesaをはじめ、欧州における炭素繊維複合材料廃棄物排出の35%以上を占める15社とパートナーシップを締結している。なお、今回の調達資金は、新たに開設した自動仕分け工場など、ロボット化された産業用設備の展開を加速させるとともに、米国、スペイン、ドイツなどの新市場への進出に活用される予定だ。
世界初、太陽光を追跡する水上太陽光発電所島
従来の太陽光発電所は、広大な土地が必要となることからしばしば批判を浴びるが、ポルトガルの
Solaris Float の新しいデザインは、その解決策となるかもしれない。同社が開発する Protevsは、円形に浮かぶソーラーパネルの島で、空を通過する太陽をきめ細かく追いかけ、エネルギー吸収量を最大化する。その2軸のソーラーパネルと太陽光を追跡する技術により、陸上で動かない従来のパネルと比較して、40%以上のエネルギーを生み出すことができる。 同社がオランダ南西部の湖畔に所有する、180枚の両面パネルを設置した幅38mの円形太陽光発電所では、晴れた日には1日で約73kWhの電力を生産している。しかし、最新のプロトタイプでは湖だけでなく、貯水池や沿岸部にも設置できるため、貴重な土地を占有することがなく、オランダや日本など人口密度の低い場所での使用に適しているという。
米Luminopia、子供の弱視治療法をVRで開拓
神経、視覚障害の新しい治療法を開拓するためのデジタルセラピューティクスを提供する
Luminopiaが、570万ドルでシード延長調達ラウンドをクローズした。マサチューセッツ発の同社は、4~7歳の弱視(またレイジーアイ)の子どもの視力回復に働きかけるためのソリューションとして、臨床的に検証されたVRヘッドセットを使ったデジタル療法に取り組んでいる。患者はまず700時間以上のコンテンツの中から、好きなテレビ番組や映画を選択する。すると独自のアルゴリズムにより、ヘッドセット内でコンテンツが治療用にリアルタイムで修正され、強い方の目にペナルティを与えることなく、両目を一緒に使わせることで脳が両目からの入力を結合するよう促す。20年近く革新が見られていない弱視治療だが、ShangBay Capitalが主導し、
Sony Innovation Fundなどが参加した今回の資金調達により、Luminopiaは治療のための主力製品を小児眼科医に段階的に展開し、2023年後半にはより広範囲な発売へと拡大する予定だ。
在宅ケアのDispatchHealth、3億3千万ドル超を調達
デンバーを拠点とする在宅ケアプロバイダー
DispatchHealthが
Optum Ventures主導で3億3000万ドルを調達し、2013年創業以来の調達総額が7億ドル超となった。かつては在宅での緊急ケアに重点を置いていた同社のサービスは、在宅での機能を大幅に向上させ、現在では米民間医療保険会社が運営する任意加入保険、メディケアアドバンテージ会員の75%以上に提供されている。救急医療と内科の訓練を受けた医療チームを通じて医療サービスプロバイダーなどと提携している他、モバイル画像診断、超音波検査、心エコー検査など、診断プラットフォームも展開している。これらの機能を米国市場に提供することに加え、独自の技術による「ラストマイル」ヘルスケアプラットフォームの構築にも取り組むことで、今後は物流から臨床サポート、エコシステム内他社との連携まで提供する予定だ。今後最大の高齢者人口になると予想されるベビーブーマーの多くが、介護施設への入所よりも自宅ケアを望んでいることから、このようなスタートアップの需要はさらに増すと予想されている。
Aquacycl、微生物燃料電池で産業廃水浄化に挑む
カリフォルニア州フレズノにある
PepsiCo工場隣のコンテナで、
Aquacyclが産業廃水の浄化技術に取り組んでいる。Aquacyclのモジュール式技術は、汚染された水が排水路に流れ込む前に浄化する。これはコンテナの中に数百個ある車のバッテリーほどの大きさの微生物燃料電池が、地元で採取された天然バクテリアを使って汚染物質を分解する。このシステムは、排水量に応じてサイズを変更することができ、燃料電池はレゴブロックのように組み合わされる。工場から、賞味期限切れなどの液体がAquacyclのユニットに送り込まれると、微生物が糖分を分解する際に電気が発生し、その電気はシステムを監視するセンサーに利用される。このシステムでペプシ工場では、月平均110トンの温室効果ガスを削減している。PepsiCoのような大手企業がこの新しいソリューションを積極的に試すことで、他企業に対してもその有効性を示すことができ、Aquacyclは今後気候変動目標を達成するための重要な技術となるかもしれない。
URECA、誰でも使える カーボンオフセットプラットフォーム
モンゴル出身で、現在はシンガポールに拠点を置くクライメートテック企業の
URECAが、プレシードラウンドにて150万ドルを調達した。同社は、「事実上誰でも」高品質のカーボンオフセットを取引できるマーケットプレイスプラットフォームを構築しており、そのデジタルMRV(測定・報告・検証)技術は、モンゴル科学技術大学との提携で開発された耐タンパー性スマートメーター、検証システム、ブロックチェーンベースの取引プラットフォームの3つの要素で構成されている。またこのブロックチェーン取引プラットフォームには、2017年に米ボストンで設立された
Algorandが開発した技術が搭載されている。URECAは、このソリューションにより、自家発電を行う家庭や中小企業でもカーボンオフセットを生産し、販売することが可能になるという。なお、今回の調達資金は、東南アジアでの事業拡大と、来年初旬に予定されているマーケットプレイスのローンチに充てられる予定だ。
Gotion とVinGroup がベトナムにバッテリー工場を開設
欧米や日本、シンガポールにも研究開発施設を構える中国のバッテリメーカーの
Gotion High-Techと、ベトナム最大のコングロマリットである
VinGroup が、ベトナム・ハティン経済開発区に合弁による電池工場を正式に開所した。計画では、同工場の年間生産能力は5GWh、2023年末の操業開始を予定しており、ベトナム初のLFP電池工場となる予定だ。Gotion High-TechとVinES(VinGroup傘下)の共同出資となる同工場は、それぞれ51%と49%の株式を所有しており、主にベトナム初となる自動車メーカーであるVinFastの新エネルギー車用LFP電池需要に対応するために設立された。

植木 このみ
Open Innovation Group, Intralink Limited
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