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イノベーションインサイト:第56回

イノベーションインサイト:第56回

『欧州、唯一VC投資額でコロナ以前の水準を上回る』、『パナソニック、R8 Technologiesに欧州初となる出資』、『低コスト・低エネルギーのIoTネットワーク、Wirepas が資金調達』、『金属用3DプリンターのSeurat Technologies、約1億ドル調達 』、『米軍向け自律飛行システムのShield AI、 評価額が27億ドルに』、『Antora Energy、工場設立でサーマル・バッテリーの生産開始』、『再エネ証書のReDEX、1,000万ドル調達』、『シンガポールSHEIN、 英国ファッションブランド MISSGUIDEDを買収』を取り上げた「イノベーションインサイト:第56回」をお届けします。

欧州、唯一VC投資額でコロナ以前の水準を上回る

Dealroomの最新レポートによると、2023年第3四半期に欧州スタートアップに投資された金額は180億ドルを超え、第2四半期から27%増加した。地域別では、英国、フランス、ドイツが今年も最も多くのVC投資を集め、ロンドン、ストックホルム、パリがテック・ハブの上位を占めた。一方で、興味深いことに、グルノーブルが最も急成長しているテックハブとして浮上し、2019年以降VC投資が1610%増加、ローザンヌ、バーゼル、チューリッヒ、ジュネーブなどとともにアルプス地域周辺に新たなディープテック・ハブが出現したことを示している。もうひとつの注目すべき傾向は、欧州ベンチャーがソフトウェア開発から、物理的な技術に軸足を移している点だ。今年特出した製造業関連ラウンドには、Northvolt(バッテリー)、Ynsect(代替タンパク質)、Isar Aerospace(持続可能なロケット)、CMR Surgical(手術用ロボット)、Kandou(半導体)、Pasqal(量子コンピューティング)などが挙げられた。世界的に見ても、3大地域(北米、アジア、欧州)のうち、VC投資額で2023年にコロナ以前の2019年の水準を上回っているのは欧州だけであり、欧州のスタートアップエコシステムの潜在力と回復力が顕著となった。

 

パナソニック、R8 Technologiesに欧州初となる出資

パナソニックは今週、パナソニックくらしビジョナリーファンドを通じて、エストニアのR8 Technologiesへの出資を発表した。昨年7月の設立以来、同ファンドは既に4社に投資しているが、今回が欧州企業への初の出資となる。2017年設立のR8techは、商業施設向けにAIを活用したHVACソリューションを提供する。そのソリューションは、ビルの空調システムの寿命を延ばしつつ、エネルギー節約、CO2排出削減、テナントの福利厚生と健康増進を可能にする。欧州全域で300万平方メートルを超える顧客基盤を持つ同社の技術により、パナソニックは空調設備やエネルギー管理など、同社の商業用不動産向けソリューションの既存ポートフォリオを補完する。パナソニックは、今後もエネルギー、食インフラ、空間インフラ、ライフスタイルなど、注力する分野で活躍する国内外の有望なテック企業への投資を継続するとしている。

 

低コスト・低エネルギーのIoTネットワーク、Wirepas が資金調達

フィンランドを拠点とするWirepasは、コスト効率とエネルギー効率に優れたIoTソリューションを拡大するため、2,200万ドルの資金を調達した。同社のソリューションは、「メッシュ・ネットワーキング」と呼ばれる新しいアプローチに基づき、既存のセルラーやWiFi技術に比べ、コスト効率と拡張性に優れた新しい分散型アーキテクチャとなっている。既に100件以上の特許を申請しているWirepasは、機器や資産の追跡に同社の技術を導入している英国NHSをはじめ、160社以上の顧客を確保、700万台以上のデバイスが同社の技術を使って接続されているという。また、トルコのD4 Industry はスチールコイルと金属板のサプライチェーンを追跡するために、フィンランドのSchaefflerは機械の性能を監視するために同社の技術を使用している。なお、Wirepasはオーストラリア、ドイツ、フィンランド、フランス、インド、米国で事業を展開しており、今回の資金調達でさらに世界的な拡大を図る計画だ。

金属用3DプリンターのSeurat Technologies、約1億ドル調達

3D金属プリンティングのSeurat Technologiesは、Nvidiaのベンチャーキャピタル部門が共同主導した資金調達ラウンドで9,900万ドルを調達、中期的なIPOの可能性を示唆した。その評価額が3億5,000万ドルに達したという最新のシリーズCラウンドには、Porsche、Xerox、General Motorsといった既存投資家に加え、Hondaなどの新規投資家も参加した。Seuratは、グリーン・エネルギーを利用したエリア・プリンティング技術による部品製造を、世界中の顧客の工場近くで行うことで、サプライチェーンの再構築と二酸化炭素排出量の削減を目指している。このローカルに工場を展開するモデルは、生産拠点を消費地近くに移転させる「ニアショアリング」ソリューションを関連業界に提供し、サプライチェーンの安定性を高める。同社は既に、Siemens Energyのタービンに6年間で59トンの金属部品を供給する契約を結んでいるが、今後さらに数年間で、他企業へ4,000トンの材料供給と、7億5,000万ドルの収益を見込んでいる。

 

米軍向け自律飛行システムのShield AI、 評価額が27億ドルに

サンディエゴに拠点を置くShield AIは、米軍向けの自律飛行システム拡大に向け、最新のシリーズFラウンドで2億ドルを調達し、その評価額も27億ドルに達した。2015年設立の同社は、ドローンや航空機が紛争環境でも任務を遂行できる自律型システム用のハードウェアおよびソフトウェアを製造する。Shield AIの主力製品はHivemindというAIパイロット・ソフトウェアで、ドローンや航空機の自律的な操縦を可能にする。また、V-Bat Teamsと呼ばれるドローン群を開発し、1人のオペレーターが最低4機のV-Batドローンを指揮できるよう操作している。なお、これらのドローンは垂直離着陸型で、同社が2021年に買収したMartin UAVが開発したもの。現在、同社はHivemindの無人戦闘機や航空機への搭載に取り組んでおり、これらの活動が、米国国防総省の注目を集めたとされている。

 

Antora Energy、工場設立でサーマル・バッテリーの生産開始

グラファイト・ブロックを使用したサーマル・バッテリー製造技術で、ビル・ゲイツ氏の支援も受けるAntora Energyが、カリフォルニア州サンノゼに同社初の工場建設を発表した。近年、産業界は太陽光や風力といった持続可能なエネルギーを大幅に安いコストで利用できるようになったものの、24時間稼働を続ける大規模産業施設では、悪天候による影響や夜間の運営に問題が残ったままだ。そのような中、Antoraのサーマル・バッテリーは、断熱された箱の中に、黒鉛と電気を熱に変換するコイルを詰めることで、この問題解決に挑む。電力が豊富な場合には、これらのコイルはグラファイト・ブロックを1,400度以上に加熱することができる。そして、グラファイトがその熱を蓄え、容器の側面にある窓から熱と光のビームとして50時間放出し続けるという。同社は先月、カリフォルニア州フレズノの工業用地で初となる本格的なパイロット・プラントの検証を行ったが、新工場では来年からサーマル・バッテリーの正式生産を開始する予定だ。

 

再エネ証書のREDEX、1,000万ドル調達

シンガポールを拠点とする再生可能エネルギー証書(REC)ソリューション・プロバイダーのREDEXは先日、1,000万ドルのシリーズAラウンドを完了したと発表した。2018年設立の同グループは、アジアにおける主要RECプレーヤーであり、資産登録、検証、取引、および償還をカバーするREC管理ソリューション一式を提供している。同社は、世界中の企業のクリーンエネルギー・ニーズを満たすための実用的かつ革新的なソリューションを開発中だ。同社の使命は、再エネ移行を加速させることに重点を置き、RECを「使用した電力を再エネへ紐づけるツール」と捉えている。この発想のシンプルさにより、RECは、企業がスコープ2の中立性を達成するための最も効率的な手段であると考えられている。RECは、100%再生可能な電力にコミットする大手企業により2014年に結成されたRE100により承認、採用されている。現在、メンバー企業は400社を超え、合計で約400TWhの電力を消費しているとされる。

 

シンガポールSHEIN、 英国ファッションブランド MISSGUIDEDを買収

シンガポールを拠点とするファッションとライフスタイルのオンライン小売企業SHEINが、Frasers Groupから英国の女性ファッションブランドMissguidedを買収した。SHEINはまた、MissguidedのブランドIPを、Missguidedの創業者であるNitin Passi氏とSHEINとの合弁会社SUMWON Studiosにライセンス供与する契約を締結したという。Missguidedブランドは合弁会社を通じて運営され、商品とコレクションは業界をリードするSHEINのオンデマンド生産モデルによって製造、SHEINのサイトで販売される。これにより、実際の市場需要があるときだけ増産に対応することで、生産現場での無駄を省き、過剰在庫を大幅に減らすことができるという。

 

植木 このみ

Corporate Innovation Services, Intralink Limited

 

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