『東京ガス、TES とe-メタンに関する新たな提携を発表』、『インパクト・スタートアップ、欧州が世界をリード』、『チャールズ国王、自動運転車法案に言及』、『モーター製造Infinitum、産業界の脱炭素化に向け2億ドル近く調達』、『MangoBoost、クラウド企業のAIブーム支援で5,500万ドル調達』、『MapLight Therapeutics、2億2,500万ドルを新規調達』、『シンガポールEngine Biosciences、2,700万ドル調達』、『三井物産、マレーシアAxiata Digitalへ追加出資』を取り上げた「イノベーションインサイト:第57回」をお届けします。

東京ガス、TES とe-メタンに関する新たな提携を発表
ベルギーに本社を置くTree Energy Solutions(TES)と東京ガスは今週、グリーン水素を原料とする「e-NG」(e-メタン)のグローバル・サプライ・チェーンを模索・開発する覚書を締結した。TESは、太陽光発電や風力発電から生成されるグリーン水素と、二酸化炭素とからのe-メタンの製造を専門としている。e-メタンは、パイプラインなど既存のLNG・天然ガスインフラをそのまま利用することができる品質で、スムーズな移行が期待できることから、日本のエネルギー業界、特に日本の熱需要の60%を占めるガスベースエネルギーの脱炭素化に向け、有望な燃料と考えられている。今後両社は、e-メタンの認知度を高め、e-メタンをはじめとする持続可能燃料の国際的なCO2排出カウントの制度設計を奨励、さらにe-メタンの国際的なサプライチェーン構築に向けて共同で取り組みを進めていく。

インパクト・スタートアップ、欧州が世界をリード
Dealroomが発表した最新レポートによると、インパクト・スタートアップ(中核事業が国連の持続可能な開発目標SDGsに取り組む企業)が、2023年だけで世界で410億ドル以上を調達したという。地域別では、157億ドルを調達した欧州に、134億ドルの北米が続いた。欧州では、VC資金全体のうち、インパクト・ファンドが占める割合が30%超と、他地域平均の10%と比較しても圧倒的に高く、特にオランダがインパクト投資の割合が最も高い国として挙げられた。さらに、同国におけるスタートアップ雇用のうち、11%がインパクト・スタートアップによるものと推定されている。また分野別では、欧州全体でカーボンテック、培養肉、水素、クライメート・フィンテック、EVバッテリーをはじめとするクライメートテックに投資が集まっているという。これらの調査結果は、持続可能性とインパクト・テックにおいて、欧州が世界の先駆者としての地位を再確認するものとなったと言える。

チャールズ国王、自動運転車法案に言及
今週、チャールズ国王が英国議会で初の国王演説を行い、その中で、自律走行車などの新興産業の安全な商業的発展支援に向けた、新たな法的枠組みの導入について言及した。英国政府の「自動運転車法案」は、自律走行モード中にドライバーレス車両が事故を起こした場合、メーカーに責任を負わせたり、運転席に座っている人に免責を与えたりする既存規制の更新など、自動運転車の安全性に関する法的枠組みを定めるものとして期待されている。英国Oxaのような自律走行ソフトウェア・スタートアップは、自動運転車セクターの全利害関係者の責任と説明責任を明確に分割し、業界の規模拡大を可能にする新法案を歓迎している。英国政府は全体として、自律走行車の同国市場は420億ポンドに達し、2035年までに38,000人の技能職を創出できると見込んでいる。なお、国王演説では、自律走行以外にも、デジタル市場向けの新たな競争ルールや、機械学習などの技術革新奨励といった取り組みについても言及された。


モーター製造Infinitum、産業界の脱炭素化に向け2億ドル近く調達
サステイナブルな空芯モーターを開発するInfinitum Electricは、Just Climateが主導し、Galvanize Climate Solutions、Chevron Technology Venturesを含む既存投資家が参加したシリーズEラウンドで1億8,500万ドルを調達をした。国際エネルギー機関(IEA)によると、モーターは全世界で電力の53%を消費する、エネルギー最大のエンドユーザーだ。米産業界では、モーターだけでコンプレッサー、ポンプ、ファン、材料加工・処理装置など、数多くの主要産業アプリケーションに使用される総電力の70%近くを消費している。Infinitumの先進的なモーターは、内蔵の可変周波数ドライブ(VFD)によりこの課題に対応し、可能な限り低速でモーターを回転させることでエネルギー使用量を削減する。モーターを50%小型軽量化、銅使用量も66%削減する上、モーターの固定子であるステータに鉄を使用せず、従来のモーターより消費電力を10%削減できるという。新たな資金は主にビジネスの拡大、産業部門における脱炭素化の推進に活用される。

MangoBoost、クラウド企業のAIブーム支援で5,500万ドル調達
生成AIの登場により、クラウドコンピューティング・サービスの需要が急増している。シアトル発MangoBoostはこのブームに対応すべく、IMM InvestmentとShinhan Venture Investmentが主導し、Korea Development Bankを含む投資家が参加したシリーズAラウンドで5,500万ドルを調達した。2022年2月設立の同社、データプロセッシングユニット(DPU)と呼ばれるデータセンター向けの専用チップを開発している。既存のサーバー機器効率を高め、設定次第では中央演算処理装置(CPU)使用率を最大95%削減できるという。MangoBoostはクラウドコンピューティング・プロバイダーや、サーバーのCPUを自社のDPUに移し、他のタスクをAI処理に集中させたいと考えるDellやHPなどのサーバーメーカーが潜在的な顧客となる可能性を見込んでいる。そして、NvidiaのBlueField、MicrosoftのFungibleなど、DPU開発大手プロダクトを競合としてビジネス拡大を図る。

MapLight Therapeutics、2億2,500万ドルを新規調達
マサチューセッツ発MapLight Therapeuticsは、精神・神経疾患の革新的な治療法開発を進めるため、既存および新規投資家から、2億2,500万ドルのシリーズC資金を調達した。MapLightは、患者や家族が直面する課題が大きいとされる、中枢神経系疾患のスペクトラムをターゲットとしている革新的な神経科学治療薬の多様なパイプラインを構築してきた。今回の資金調達により、副交感神経に働くM1/M4ムスカリン作動薬と精密にマッチする、末梢性ムスカリン拮抗薬を組み合わせたML-007C-MAの開発をさらに進め、来年には統合失調症およびアルツハイマーなどを対象としたフェーズ2試験に進む予定。加えて、同社は現在、ジスキネジアと自閉症スペクトラム障害を対象とした2つの製品を臨床開発中である。また前臨床パイプラインには、パーキンソン病とうつ病の両方を対象とした研究中の拮抗薬や、多動性・衝動性の治療薬として開発中のものもあるという。


シンガポールEngine Biosciences、2,700万ドル調達
シンガポール発、機械学習とハイスループット・バイオロジーの活用により高精度のがん治療薬を発見・開発するEngine Biosciencesが先日、Polaris Partnersがリードした2,700万ドルのシリーズA資金の追加調達を完了した。これにより、Engine Bioscienceの累計調達総額は8,600万ドルに達した。同社は、複雑な生物現象を、計算と実験を用いて統合的に解読することにより、よりインパクトのあるプレシジョン・メディシンの発見と開発に注力する。がん治療薬のパイプラインを社内および外部の共同研究者とともに進める一方、その他の疾患領域でもパートナーシップを通じて臨床に向けて前進しているという。今回獲得した資金により、Engine Biosciencesは、これらの研究・開発活動や提携を通じ、バイオマーカーと標的の発見を加速する意向だ。

三井物産、マレーシアAxiata Digitalへ追加出資
三井物産は、マレーシアを拠点とするAxiata Digital & Analytics Sdn Bhd(ADA)に5,800万ドルを追加出資した。これにより、アジア最大の独立系データ・AI企業であるADAの企業価値は、5億5,000万ドルに達した。ADAは現在、AI、データアナリティクスおよびデジタルトランスフォーメーションの分野でユニコーンの地位獲得を目指す中、これまでにソフトバンクや住友商事などから支援を受けてきたが、三井物産のグローバル・ポートフォリオに基づく充実した事業能力により、AIとデータ分析におけるADAの専門性をさらに高めることができると期待を寄せている。一方で、三井物産も、ADSへの追加投資を通じ、顧客関係管理戦略の強化やデジタルマーケティング事業群の開発を実現し、さらなる消費者中心ビジネスへの貢献を図る。

植木 このみ
Corporate Innovation Services, Intralink Limited
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